第097話 「夏休みの予定、その後の予定」
「何?」
刀眞邸で、凄みのある声で電話機に話しかけていた男がいた。
獅子王である。
通話の相手は遼で、遼対八龍ゼクスの決闘についての相談を受けていたのだ。
『そう言われたんだ』
「断れんのか」
刀眞獅子王は愚かではあるが、無謀ではない。
今の遼では真の所有者でないにしろ【顕煌遺物】を使った蒼穹城進に一方的な戦いを仕掛けた八龍ゼクスに勝てないことを知っている。
だが、相手はそれを赦すわけがない事を遼が説明すると、獅子王は嘆息した。
「お前を失うわけにはいかん」
どの口が言うか、と電話先の遼は思った。そもそも胤龍を捨てたのは獅子王自身であり、それに加担したのが遼である。
遼にとって獅子王は常に親ではあったが、そこまで大切にされているという感覚もない。
跡継ぎの問題を危惧しているのだろう程度にしか考えられなかったのだ。
遼は、父親に決闘の条件を伝える。
刀眞側は栄都アインと遼、八龍側はゼクスと颯でタッグマッチ。
試合終了まで助命なし、武器無制限という条件だ。
刀眞獅子王は、善機寺颯の実力を知らない。
そのため、ゼクスさえ仕留めれば勝てると踏む。
「……受けろ。日程は俺が決める。それまで鍛錬に励め、栄都の敗北は目を瞑る」
『分かったよ』
敗北がほぼ決定したことに気づかず、獅子王は満足したように通話を切った。
そして、近づいてきた1人の女性に対して声をかけた。
「なんてことだ」
「どうかしたの?」
「……遼と胤龍が、9月中に決闘だそうだ」
声をかけられた女性は、50間近とは思えないほどの美貌を蓄えている。
誰もが年齢を20歳は見違えるだろう、そんな女性の名前は刀眞燐華という。
そんな彼女は、厳しい顔でゼクスを「胤龍」と呼んだ獅子王を見つめている。
「獅子王。彼はもう胤龍ではありません、刀眞家に牙を剥くなんて。一度【顕現者】と認められなかった彼には、そんな名前はありません」
寧ろ、獅子王よりもはっきりしているともいえるその女性は、どこか遠い場所を見つめていた。
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遼が実家に電話をかけた頃、ゼクスの携帯端末には一つの着信があった。
『決闘を仕掛けたって聞いたぞ』
声の主は冷躯である。その声は少々落胆したような、同時に少々怒っているような声色だ。
ゼクスは特に悪びれもせず、自分の手を握って離さない様子の古都音と一緒に歩いている颯をちら見し、何のことだろうかと一瞬考え。
すぐに思い出す。どうも先のことは大したことではないと考えているらしい。
「丁度良いと思ってたんだけど、駄目か」
『ゼクスはいいんだよ。でも、古都音ちゃんの人生を勝手に決めるような真似はしないほうが良いぞ』
ああ、そのことか。と。
ゼクスはそのことを終夜当主であるスメラギに謝り、古都音にも謝った。
しかし終夜家の反応は一緒で「ゼクスを信じる」だったのだ。
勿論、ゼクスだって。
「負けるつもりはないよ。だから颯から、【顕現属法】の扱いを学ぶつもりだ」
『おう、分かったよ。……9月中ということなら、家で訓練をしよう』
冷躯は夏休み中の長期休暇にゼクスと颯を、徹底的にしごくことを決定し、ゼクスに伝える。
『颯君にも声をかけてきなさい。あーできれば古都音ちゃんも連れて来てくれると親としてはひでふっ!?』
ゼクスは最初から、颯と古都音を誘うつもりではあったが冷躯を蹴ったのはカナンであろう。
電話の向こうで誰かが倒れる音がし、次に通話に出たのは冷躯ではなかった。
『お母さんだけれど、ゼクス?』
「はい」
『冷躯のことはあまり聞いちゃ駄目よ。あとどちらも呼んできていいけれど……。颯君と貴方には、驚くような秘密を教えてあげるから!』
そう言って唐突に通話は終了する。
ゼクスは颯と古都音の方を向き、通話の内容を伝えた。
特に最後の「秘密」の部分を、颯に聞いてみる。
「なにそれ」
「……俺に訊く?」
が、勿論颯も知っているはずがない。
前世は本当に主君と忠臣だったのか、と冗談めかして考える颯の心は誰にも理解されなかった。
「何かあったっけ?」
「知らないですけれど、夏休みは八龍家に行っても良いのですね!」
「……うん」
普通の家だよ? と念を押すようにゼクス。
彼はアマツの実家に何度か言ったことがあるが、少なくとも次元の違う場所だったと覚えている。
恐らく善機寺家も、終夜家も次元の違う実家を見せてくれるのだろうと。
ゼクスは内心楽しみにしながら……。
楽しみにしながら、颯を次の授業へ追い返した。
颯の母親とゼクスの母親は姉妹なんですよね?
でもお互いはそれを知らないんですよね。では「秘密」とは?
次回更新は今日です。100話で締め切る予定だったのですが、次回で第4章を終了させます
活動報告の件で誤解を生んでしまい申し訳ありません。
四煌はまだまだ完結しません。
↓人気投票まだやってます。明日になったら締め切りますね




