第092話 「変化する感情」
「そんなに難しく考えなくても良いのです、まだ時間はありますから」
「なら、鳳鴻は何であんなに厳しかったんだ、さっき」
朝食が終わり、俺達は宣言通り今日の授業全てを休むため中庭でブラブラしていた。
空は雲一つない快晴で、上を見上げると眩しい。いつものことだけれど。
俺は、古都音と歩きながら先ほど鳳鴻に言われたことを考えていると、古都音はなんでもないように俺を安心させようとしていた。
「それは、鳳鴻さんが【八顕】であり【三貴神】であり、また【亜舞照家】の当主であるからですよ。責務が多くなると人は余裕がなくなるんです」
余裕がなくなる、か。たしかに俺も、その余裕とやらが無くなって今に至っているのかもしれない。
ずっと余裕が無い気がした。むしろ、余裕のあるときなんてあっただろうか。
経済的に余裕は、冷躯さんやカナンさんが余裕を持ってくれた。けれど。
けれど、精神的に俺は余裕を一度でも持てたか?
ただ、余裕が有るように振舞っていただけかもしれないというのに。
「なあ、古都音」
「はい」
「誰かを支えたいとか、守りたいっていうのはどんな気持ち?」
俺は、ずっと気になっていることを「信用できる」古都音に聞いてみた。
それを聞いた瞬間、古都音はというと少々困ったように笑う。
感覚的なものなのかもしれない。もしそうであるなら、彼女にこうやって尋ねるのは難しい課題を与えてしまったのではないか、と不安になった。
「うーん、難しいですね。守衛本能が刺激されたからでしょうか」
「……答えになってなくない?」
「いいえ? 結局は自分がそう思ってるから、そうするだけなのです」
古都音は、「やりたいからやる」と答えた。
曖昧な答えであるはずなのに、それは妙に納得できて。
自分がやりたいから、やる。か。
やっぱり、少しだけ極論すぎる気がするけれど。
古都音が俺に手を差し出し、俺は反射的に手を繋ぎたいと思ってその手を取る。そうしたら、彼女は笑う。
こういうことですよ、と。
「今だって、私は手を差し出しただけなのに、何故ゼクス君は手を握ってくれるのです?」
「そうしたいと思ったから……あ」
「はい、それと原理は同じなのですよ」
ここで古都音は一息、周りを見回して「ベンチに座りましょう」と。
それに従う、
俺は古都音の顔を見つめた。やっぱりいつ何時24時間見つめ続けても、それは美しい顔だと判断することが出来るだろう。
誰よりも美しいものだった。
「それとも、ゼクス君もアガミくんのように命令を与えなければ動けませんか?」
「うーん」
「では、一つだけ『お願い』をしてもいいですか?」
命令はどうせ無視するから聞かないとしても、お願いくらいなら聞けるものは聞こう。
そう考えて、俺は頷く。
「では、私はゼクス君を『支える』ので、ゼクス君は私を『護って』ください」
「程度は?」
「お任せします。ゼクス君の中で私の存在が小さいのなら、何もしなくていいですし。もし大きいのなら、それ相応の対応をしてくれれば」
古都音は飽くまでも俺に一任する、と言ってくれた。
難しい言葉だ。自分の中で人の価値を決める。
「味方」か「敵」か2つしか今までなかった俺に、最近は「仲間」と「恋人」も一気に加える事になった。
「勿論、私は生涯をかけてゼクス君を支えましょう」
うーん、やはり俺なんかよりも大人すぎて凄い。
1年だけで人間というのはここまで完成されるものなのだろうか、否。
スメラギ氏の教育の賜物なのだろうな。
とんとん、と自分の太ももをたたく古都音。
……また膝枕をしてもらえるらしい、やったぜ。
「ゼクス君は膝枕が大好きなのですね」
「……暖かいし」
遠慮無く寝っ転がった俺を、古都音は柔らかい笑顔で迎える。
こういう生活をずっとしていたいのだ、俺は。
復讐が終わったら、古都音の気持ちに答えたいと。
節に考えた俺であった。
「……でも、それに邪魔が一つだけある」
俺は膝枕してもらったまま、首を回してこちらへ近づいてくる栄都アインを見つめた。
「さっきは邪魔が入ったけれど、今回こそそこの終夜古都音を頂くわね」
「何が目的だ?」
「遼からの依頼なの、邪魔しないでくれると助かるんだけれど? 邪魔するのなら、貴方は殺すから」
……よし、録音完了。
こういう私闘の時、どちらから仕掛けたかというのが大きな問題になってくるからな。
っていうか刀眞遼の差金かよ、やっぱり諦めていなかったのか。
先に東雲契へ復讐しようかと思ったが、やめた。
古都音の安全も考えて、次は刀眞遼だ。
……あれ? これって、古都音を「守りたい」って言う意味なんじゃないか?
俺は【髭切鬼丸】を持って、まさか出番が来ると思わず戸惑っている"彼女"に話しかける。
『骨を切り落とすこととを禁止する』
『……難しい注文じゃが、分かった。出来るだけ切断力は抑えよう』
オニマルはそう答えてくれた。人体に傷がいった時点で授業では使えないが、こういう時はやむを得ないだろう。
栄都が襲撃に来たというのは先程も鳳鴻たちが見ているから。
――さて。
行きますか、迎撃開始だ。
昨日で投稿から1ヶ月でした。90話て。
書き溜めのない状態でこれは相当早いんじゃないでしょうか。
次回更新は明日です。
↓人気投票、冷躯さん相変わらず強いですねぇ




