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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第4章 春から夏へ
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第090話 「女神の抱擁」

「古都音、もう無理しないでくれ」


 東雲しののめちぎりが視界から消え失せた。

 俺は気が抜け、倒れかけた隣の少女古都音の体を支えて、彼女に懇願する。


 みんなもだ。俺のために、そんなに怒らないでくれ。


「でも、でも」

「古都音が俺を心配するなら、俺も古都音を心配する。今わかったんだ、だから」


 俺のために、血を流さないでくれと。

 古都音も納得してくれたのか、渋々ながら頷く。目の前の少女は自己犠牲がすぎるのだ、俺を癒やしたい、支えたいを実行してくれるのは助かる。

 けれど、その影響で自分がダメに成ったら元も子もない。


「……あれは人間じゃないな」

「離反してよかった」


 後ろのほうで、威迫がなくなり戻ってきたアマツとはやてが真顔でそんなことを言っていた。

 百聞は一見にしかず、とはいうものであるが正直5年間で悪化していないか?

 前もこんな感じだったっけ、少なくとも、俺の友人の「せいで」という人だったっけか。


 5年前以前のことがよく思い出せないのは、思い出さないでおこうと決め込んで記憶を封印したからか。

 でも、そんなことはどうでもいいか。復讐には関係のないことだ。


 そんなことよりも、冷撫が泣き出したのは何事? 


「アマツ様、ゼクスくん、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」


 冷撫土下座。ちょっとまって、流石に慌てるしそれは引く。

 一体どうしたと言うんだろうか。


 ……それとも、この前のアレなのだろうか。俺はもともと冷撫を恋愛対象として「見ていない」のだし、冷撫がすっぱり自分の気持を封印してアマツのところに戻りながら、俺を少しずつ助けてくれるのは本当に有り難いと思っている。


 だから、冷撫が謝る必要はない。


「二人の気持ち、全く考えていなくてごめんなさい……」

「……いや、俺は大丈夫だよ冷撫」

「俺も。……あれを見れば、冷撫が聖人に、古都音さんが女神に見えてくるレベル」


 いや、本当それだからなぁ……。

 あのレベルに冷撫と古都音を比べるのがそもそもおこがましいレベルではあるけれど。


 元兄以外誰も悪いって思っていないのか、まあそうだよな。

 加害者が自分の罪に気づくことはかなり珍しいことだものな。


「古都音……顕現力の使いすぎだ。威圧でそんなに使うなんて」

「でも、早く追い返さないとゼクス君が危ないと感じたので」


 再び古都音へ注意を向けると、古都音はそう言って脱力している。

 ほとんど力がこもっていないのを見るに、やはり体力と精神力が疲弊して今にも眠りそうだ。


「ちょっと眠たくなってきたので、寝てもいいですか?」

「ん、俺が運びます」

「ありがとうございます、大好きです、ゼクス君」


 俺は古都音の合鍵を持っていないし、自分の部屋に連れて行けばいいか。

 古都音の威圧により殺意が一瞬消え、また再燃してしまったからか色々と不安定な気がする。


 早く、どうにかしてみないとなぁ……。

 部屋に新調してもらった【神牙シンガ結晶Ⅱ】を数日間かけておくか。



---



 俺は、自分のベッドに古都音を寝かせて2時間がたち、呆けていた俺は我を取り戻して右手をぐっと握りしめる。


 古都音が俺のために多分怒ってくれたとき、俺は素直に彼女を心配した。

 そのとき、この人に負担はかけさせたくないと無意識のうちに考えてしまったと思う。


 もしかしたら、アレが「誰かを守りたい」という気持ちなんだろうか。

 傷つけたくない、自分のせいで傷ついてほしくない。


 今まで自分ですら、いくらでも傷ついていいから復讐を実行すると考えていた。それは今も変わらない。

 俺は、自分が思っていた以上に自分の立場を弱いものと考えているんだと感じた。


「ん……」


 時間を確認したら、すでに夜の11時である。

 先ほど帰ってきたのが9時だから、やっぱり2時間も経っているのか。

 

「……ん、ええと」


 と、そうこうしているうちに古都音が目覚めた。俺の方をぼんやりと眺めて、ここはどこだろうと視線を動かしている。

 古都音って、寝起きはこんな顔をするのか。


 こちらへ縋るように手を差し出す彼女の白い手を、俺はそっと包み込む。


「おはよう」

「……おはようございます、ゼクス君。……ええと、ここは?」

「ここは俺の部屋だけれど」


 その言葉に納得したのか、安心したのか。

 古都音は目を閉じると、彼女の気持ちを吐露し始めた。


「……私は、ゼクス君が自分を傷つけるのを良しとしません」

「うん」

「私は、復讐をしてはならないとは思いませんが、ゼクス君がそれをするために自分の負の感情を増大させるのが嫌です」


 それは難しい。古都音の考えていることは「復讐は良いけれど恨みをこれ以上抱くな」ということだろう。

 復讐対象のことを恨んで、考えれば考えるほど自分の記憶をえぐり、痛みを思い出してしまうから。


「ごめんなさい、古都音」

「……良いんです、どうしても出来ないというのなら。辛いことがあったら私を頼ってください」


 私はそのために、ゼクス君の隣りにいるのですから。

 古都音はそう言って身を起こすと、俺に両手を広げたの後、抱きついてきた。


 ……冷躯さん、カナンさん以外に、こうやってもらったのは初めてではなかろうか。

 それ故に、抱擁がとても貴重なものに感じて俺は思わず身を固めてしまった。


「緊張しなくてもいいのですよ?」


 耳元で、古都音がそう俺に囁くのが聞こえた。

 話をすれば耳の中に空気が吹き込まれているわけであり、少々ぞわっとする。


 それも時間が経てば心地よいものへと変わっていった。


「ゼクス君には私が居ます。善機寺さんも、アマツくんも、アガミくんも……冷撫さんだっています。他の人に迷惑をかけろという意味ではありませんが、私はゼクス君のことなら『なんでも』受け入れましょう」


 妙に「なんでも」を強調して、古都音は微笑む。

 本気なのだろう、彼女は俺が救われるなら、古都音自身がどうなっても構わないのだろう。


 だが、それは本当に。

 自己犠牲がすぎる。俺はそんなことを求めていない。

 今回は個人的な復讐だ。これが「義」を謳ったものならそうしていたかもしれない。


 けれど、俺は。

 俺に寄りかかりながら、あやすように右手で頭を撫でてくれる少女に、これ以上心配させたくない。

 

「分かりました、古都音」

「はい」

「一緒に寝てください」


 そういって彼女をベッドに押し倒すと、古都音は少々戸惑っていたがすぐに元のほほ笑みを取り戻した。


「急ですね……」

「いえ、添い寝です添い寝。やってもらったことがないので」

「……あっ、はい」








 何残念そうにしているんだ……?

ゼクスがちょっと成長した!


次回更新は今日です、多分。

更新回数をむりに増やしているわけではございません。

書きたいだけ書いて、更新したいだけ更新が私のスタイルです。

心配してくださった方々、応援してくださった方々ありがとうございます


↓人気投票、当代以前は冷躯さんの1人勝ち状態です!

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