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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第1部 第1章 入学
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第009話 「寮にて夜」

 私には、謝りたい人がいる。


 その人は5年前まで私と幼なじみの男の子で、【八顕】の一角「刀眞とうま」家の次男だった。

 物心がついたころからもう、家族ぐるみで仲が良くて。

 

 一時期は、幼さからの口約束で「結婚しよう」まで言っていたほど、仲が良かった人。


 でも、あの日から。私は一度も「彼」を見ていない。





「はぁ」


 私、東雲しののめちぎりは自分の部屋に入ると倒れこむようにして、ベッドへダイブした。

 実家でやったら、まず間違いなく怒られることだけれど、この際は気にしなくていい。


 入寮の準備はもう終わってる。一ヶ月前にはもう、全部が終わっていた気がする。この島だと生活に不自由はないし、親に余計な心配をかけることもないから。


 簡素な白いベッド。国立の特別機関ということもあって、質素に見えるこのベッドも、布団も、質は大分良さそう。

 少なくとも、実家とそう変わらないと思う。



 お昼ごろ、私を助けてくれた人の事を考えてしまう。

 あの時は本当に、何が起こったのかわからなくて。


 あっという間の出来事だった。2分足らずで私を逃がさんとしていた上級生たちは倒れ伏していたし、鈴音すずね冷撫れいなさんは、私を介抱してくれた。

 あの、八龍やりゅうゼクスって名乗った同い年の男の子は、証明をするまでもなく強かった。


 でも、2人共。私の名前を聞いて、顔がひきつったような気がする。特に八龍くんのほうは、不機嫌を隠そうともしてなかった。

 


「……なんで」



 私には、その意味がわからない。

 嫌われる意味がわからない。


 少なくとも、私は、私は。

 ……胤龍つぐりゅう君がいなくなって、自分の言ったことの重大さを、幼いながらも理解してからは、誰も傷つけないようにしてきた。


 もし、もう一度胤龍君に会えるのなら、ちゃんと謝って、償いたい。

 自分が傷つけた分、癒やしてあげたい。


 少しずつでいいから。


 そこまで考えて、私はうつ伏せになっていた自分を仰向けの状態へ直した。


 ため息しか出てこない。……本当、胤龍君何処に行っちゃったんだろう?






---



 俺は、寮の自室でベッドに寝っ転がっていた。

 部屋にはアマツと冷撫も居る。


 寮は6畳と小さなキッチン付き。

 俺が居るのは5階だが、1階には生徒用の食堂とコインランドリーも付いている。


 ちなみに、男子女子の寮は一緒だが、区域ごとに分かれているらしい。だからこそ、冷撫がここにいても違和感がないわけだ。


 基本、【顕現者】は自分たちでなんとかしろという放任傾向が高いな。

 八顕学園は、管理人や警備員もいるからまだましとはいえ。


「疲れた」


 心底うんざりしたように、俺は呟いた。

 

 正直頭痛もまだ完全には収まっていない。さっきの痛みが鈍器でぶん殴られているような痛み、とすれば今は脳みそ辺りを針が軽く指している感覚がする。


「やっぱり、トラウマなんですね」

「……アマツと冷撫れいながいるから大丈夫だよ、今は」


 今は1人じゃない。その事実だけが、俺にとっての救いでもある。

 特に、この学園に来てからは親もいない。こういうのは子供っぽいかもしれないが、親を一度失った俺にとって、八龍家の人々は心の支えの大きな一つでもある。


 けれど、これからは強く保たなければならない。

 どうやって見返すか、という問題が大きくのしかかっている。


 公共の場で貶めることが一番だな。相手への精神ダメージも大きいだろうし。


「……明日からは、常時発動させておいたほうがいいかもな」


 アマツは、俺が首にかけている【神牙結晶】を指差しながら、そうつぶやく。

 感情の抑制……か。正直、これを使うと負の感情は確かに抑制されるが、他の感情も同様に抑制される。


 だから、例えば15歳らしくない落ち着きを得られるが、本当に殆ど感じられなくなる可能性も出てくるということだ。


 彼は、壁にかけてある時計をちらりと見やって、こちらを申し訳無さそうな顔で頭を下げた。


「明日のこともあるし、俺は先に戻るぜ」

「ああ、済まない。冷撫も自分の部屋にお帰り」


 でも。と何やら俺を心配している冷撫に、流石に遅いからと追撃を加える。

 もう夜の9時である。明日は7時にここで集合としているんだし、準備もあるだろう。


 明日は顔合わせである。

 1年間生活を共にすることがおおい人間たちとの。


「じゃ、また明日の朝」

「おう」


 アマツは曖昧に返事をして、冷撫は未だ心配が抜けきっていない顔で、部屋から出て行く。

 薄いドアの外で「でも、やっぱり不安です」とか「いいから行くぞ」とかっていう言葉も聞こえた後、ずるずると引きずられていく床の音がした。


 十中八九、アマツが冷撫を無理やり引きずってるんだろうな。






 2人がいなくなり、ガランとした空間を見つめる。

 たった6畳とはいえ、寮というより学生マンションなここに、家族の暖かさはない。


 2年になれば、シェア型の部屋も借りることができるらしいが、それを考慮してもいいかもしれない。


 八龍家ではこれよりも広かったけれど、そこには確かな家庭のあたたかみが存在した。






 しかし、今はない。

 友人の温かみはあっても、夜が来ると一人だ。

次回更新予定 → 2016.1.26 0:00過ぎ

11話からは急ぎ足で不定期更新。

1日に書き上げたなら、「何話でも」更新するスタイルに移行します。

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