第087話 「壁に拠る妨害」
「うわぁ、いいなぁーそれいいなぁー。古都音さん俺にも作ってくださいよー!」
「【Neシリーズ】はお父様が『ゼクス君』の為に作ったものですから駄目です」
古都音と一緒に戻ってくる頃、空はすでに夕闇へと沈み照明のついた鍛錬場で、アガミたちは粛々と訓練を続けている。
1年の中で俺たち以外に訓練をする人はいない。
2年も殆どおらず、1~3年の共有場所は俺達が大技を使っても騒ぎ立てられることはない。
俺、アガミの2人が【三劔】で、颯とアマツが【八顕】。鈴音冷撫と古都音がそれに次ぐ名家だから、文句を言える人もいないだろうけれどもね。
と、他のみんなが事情に気づき、それぞれの反応を示した。
「なん、だと」
「……なん……ですって?」
驚愕、もしくは愕然とした様子なのはアガミと冷撫。
「おめでとう」
「……さすがゼクスだ」
賛辞を送ってくれたのはアマツと颯。
しかし、アガミは反対するのかなとも考えていたが、思ったよりも素直に受け入れてくれた。
感謝しなければ、色々と。
これで俺とアガミの関係に亀裂が入るなんてことになったら、大分後で面倒なことになっていたのかもしれない。
俺は【始焉】を構えて、スイッチを入れてみる。
と、銀色の光が棒状に伸びたかと思うと、片刃の剣になった。
……【顕装】ってこういうものなのか、確かに【髭切鬼丸】の劣化版と考えていいかもしれない。
そもそもの違いを挙げるとするならば、【髭切鬼丸】は刀でこれは西洋剣というところか。
力技でぶっ叩くという方法も取れそうで中々いい。
「とりあえずアガミで使い心地を確かめてみようかな」
「盾役として光栄だけれど、出力ちゃんと考えろよ!?」
俺は素振りを何度かして、アガミの方を向いた。
何がしたいのか端的に説明すると、アガミはいそいそと準備を始める。
何段階かに分けてテストをしてくれるようだ。
ところで――、これは顕現特性を付与しても大丈夫なやつだろうか。
例えば【拒絶】とか【巻戻】とか。俺はこんな感じのものしか持っていないけれど。
『強度を調べてくれ、オニマル』
『顕現属性の付与は無理じゃな、通常なら大丈夫だろうが、【拒絶】は無理じゃろうな』
『そっか』
【拒絶】が無理なら、他の【re】シリーズ全てが無理とも言える。
俺も汎用的な特性が欲しいが、顕現特性はどうやって習得するんだろう?
正直、【re】シリーズはちょっとな……。
「さて、行くぞ」
準備の出来たアガミに、俺は【始焉】を構えてから呟く。
アガミの盾は、いうなれば顕現力の塊だ。その密度も半端ないものであり、またそれよりも密度の低い攻撃を一切通さない。
勿論、最初の出力では傷一つつかなかった。そもそも鋼鉄に拳をうち当てたように、こちらの【顕装】が一瞬ブレる。
反動がこちらまでかえってきて、俺は一瞬だけ体制を崩しかけた。
やっぱり強いな。盾特化なだけはある。
……あれ?
「アガミは、その盾で颯のように敵を埋めることは出来ないのか?」
「……んお?」
アガミがきょとんとした顔になり、颯は逆に「あ」と何かに気づいたようだ。
【顕現】が直接攻撃に拒絶反応を起こすのなら、妨害に使ってはどうかという俺の案に、アマツは試してみようとアガミの前に立つ。
「これ、ちゃんと【顕現】したほうがいいよな?」
「……【顕現属法】でなんとかなるなら、俺は無詠唱で奇襲が出来るほうを選ぶが」
うん、それが出来るのは颯だけだと思う。
俺は少なくとも、物を【顕現属法】で形に出来るほど熟練していないし、やっぱり出来るのはずっとそればっかり好きでやってきた颯だけではなかろうか。
「よし、アマツいくぞ」
「こい」
「属性【地】・顕現体【盾】・個体名【防】」
アガミは詠唱を凝ったりしていないようだ。
顕現力の塊が空気中を移動し、アマツにピッタリハマる。肉体のある場所だけに穴が空き、アマツはジタバタと暴れてみるが殆ど意味を成さない。
「ちょっと抵抗するわな。……ふんっ!」
アマツは壁に埋め込まれた状態で焔を全身から噴き出したが、密度の低いそれのためジリジリと溶かしてはいけても、すぐに復帰するというのは不可能。
なんで、こんな簡単なことを俺は気づけなかったんだ?
「いや、普通に例外的な使い方だから、これ」
少々自分の頭の悪さに気づいた俺へ、アガミが慰めるように肩をぽんぽんとしてくれた。
「でも、俺はこれからこうやって妨害することが出来たわけだ。その間にゼクスや善機寺や、アマツに倒してもらえば良いのか」
「充分に足止めはできていますしね」
おめでとう! アガミは一段階成長することが出来た。
次は攻撃手段をなんとかして考えよう。
頂いた意見で、予約投稿にしてほしいという声がありましたが申し訳ありません、ストックを出来るだけ作らないようにしているので出来ません(ストックを作ると書かなくなるため)
次の更新は今日です。
↓人気投票は、圧倒的契さんの不人気。




