第085話 「告白」
「最近、本当に精神が安定しているみたいで安心しました」
古都音先輩と夕暮れの学園内を歩く。
隣に古都音先輩がいるこの状況は、正直色々とまずい。
まず、すれ違う男子からの視線が痛い。こちらが気づかないと思っているのか、睨んでいる人が多い。
そちらに目を向けた瞬間蜘蛛の子を散らすように逃げていくのに、何故だろうなと頭をひねりつつ。
と、古都音先輩はこちらに笑顔を見せる。
「そこでお願いなのですが、先輩呼びをやめません?」
「……古都音?」
俺が少々思慮して、呼び捨てで呼んでみると彼女は「はぅ」と顔を真赤にして息を吸い込んだ。
うーん、大丈夫だろうか。なんかはぁはぁしてるし、過呼吸にでもなったのか?
夕焼けに隠れていても、その頬が赤いことは分かるほどである。
熱でも出したんじゃないだろうか、少々心配になったところで、古都音の次の言葉。
「今日も幸せです」
「俺もですよ、古都音と一緒にいられて」
条件反射的にそんなことを返すと、何かに射抜かれたのかパタリと地面に倒れ込んだ古都音。
なんだろうこれは。本当になんだろう?
たしか敬語もいいって言ってたっけ? それよりも周りの目が痛い。お前ら見てんじゃねえ。
古都音が美少女だとは分かるがな。わかるけれど俺を見るな、俺を。
やっぱり先輩呼びのほうがいいかもしれない。
「やっぱりやめます?」
「いえ、慣れるのでそのままで……」
古都音は、そういって聞かない。立ち上がって寮へ向かう。
もう、無理しちゃってさ。
抱きしめたい……ハッ。俺は何を考えているんだ?
「なんだか、距離が一気に狭まった気がしますね」
学生寮はもう目の前だ。沢山の候補生たちが、どこか雰囲気の違う俺と古都音をみて、しかしこちらには目を逸らすようにして何処かへと去っていく。
どれもこれも俺のせいなんだけれどもな。【復襲者】なんて付けられたから寧ろアレなんだろうけれど。
それにしても、注目されるって気分の良くないものだ。
悪い意味で注目されているからかな?
「あの、ですね?」
古都音は、全くそれを気にしていないように俺へ視線を向ける。
何が問題なのかわかっていないのに、呼び捨てされたらあんなに動揺するのか。
ちょっと歯切れが悪い気もするけれど。
どうだろうか、何を言おうとしている?
顔、やっぱり赤すぎない? 大丈夫?
「はい」
「もういっそのこと、お付き合いしませんか?」
「……俺、愛情とかわからないですよ?」
大真面目でそう言った彼女に、周りが色めき立つのを目で黙らせ、俺はそう尋ねる。
そう、俺は愛情がわからない。いや、感じることは出来る。けれど、やっぱりわからないことが多い。愛情を持ってどうやって、古都音に接すれば良いのかわからない。
「私がこれから、遠慮無く伝えます」
「……おう?」
「だめ……ですか?」
少々下から目線で古都音。こちらを見つめる少女の顔は、限りなく美しかった。
ああ、思いっきり抱きしめても問題はないだろうか。
問題は本当に無いのだろうか? どうすれば良いのかはわからないけれど。
この気持ちは、一体何なのだろう?
「いえ。……宜しく、古都音」
「……ああ、このまま部屋に帰ったら倒れてしまいそうです」
俺が承諾を示すと、古都音は泣き出しそうな顔で俺の制服の袖を、そっと握る。
周りの女子候補生たちは色めき立ち、男子候補生は俺を忌々しげに見つめている。
これがもし、俺が称賛を得ている候補生であれば「おめでとう」と言われていたのかもしれない。
けれど、それはない。
なくていいけれどさ。
『……羨ましいぞこの野郎。でも、おめでとう。おかげでゼクスは愛情を知ることが出来るじゃろう』
『愛情はしってるよ、父さん母さんにもらった。けれど、自分がどうなのかわからない』
オニマルに祝福され、しかし俺は首を振った。
父さんは俺を、母さんを愛情で守るために「守護者」になった。
母さんの旧姓は「ファフニール」、意味は「抱擁するもの」。それで俺を包んでくれたから、俺は人ならざるものにならずに済んだのだろう。
そして、今。俺の前には3人目の、愛情を与えてくれるという人間がいる。
「あの、よろしくおねがいしますね?」
彼女は俺に手を差し出す。白い雪のような手で、柔らかそうだ。
古都音の手を俺は静かに握る。人間の手とは、ここまで柔らかく、暖かく、自分を温めてくれるものだっただろうか。
「こういうの、いいですね」
古都音の笑顔を見て、俺は再び思う。
彼女を俺が、真に愛せるようになれば何が起こるだろうか。
今よりも、もっともっと、幸せな日が訪れるのか……と。
かけた。やっとかけた……。
現時点がゼクスの基準として、あと何話すれば本当の意味でいちゃらぶ出来るのかお楽しみにしていただければ、と。
次回更新は今日です。
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