表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第4章 春から夏へ
83/374

第083話 「閑話:信頼の握手」

 はやてとアマツが激突し、ゼクス達の昼食休みがおじゃんになったころ、八龍家の談話室には一組の男女と、八龍家夫妻が向かい合っていた。


「……お久しぶりです、善機寺ぜんきじおろし先輩、奏魅カナミさん」


 最初に口から言葉を発したのは冷躯れいくである。学生時代に慕っていた相手へ、冷躯は未だ「先輩」と呼びかける。


 颪とカナミはそれぞれ慎ましい笑顔を見せる。ここに脅威は存在しないが、今まで蒼穹城家・刀眞家の側に居ただけあって安全を確認するまでは、感情を表立って表すことを控えているのだ。


「やっと開放された、というべきなのか……迷惑をかけたことに変わりはないな、はやてに感謝をしなければ」

「俺は知ってましたから。善機寺家がスパイだったってこと」


 にこにこと笑う冷躯に、思わず颪は釣られて笑った。

 やっと表す堂々とした笑顔には、強者の風格がきっちりと整っている。

 11家会議で潜めていたそれは、今解き放たれたとも言えたのだ。


 颪の妻、カナミはそんな颪の顔を見てくすくすと笑い、カナンと何かを確認するように見つめ合っている。


「寧ろ知っているのは冷躯、君とカナンさんだろうに」

「スパイってどうです? 難しかったです?」

「蒼穹城家と刀眞家の警戒が薄くて助かった」


 代々、特に理由もなく刀眞家・蒼穹城家と同盟を結び、一緒に行動していた善機寺家を本格的に2家から引き離した原因を作ったのがゼクスなら、もともと身内にも知らせず、八龍家だけでその状況を利用したのは冷躯である。


 冷躯が八顕学園に居た頃、秘密裏に善機寺家と意気投合していた冷躯は、神牙ミソラたちが掴んでいたよりも多くの情報を善機寺によって得ているのだ。


「正直、善機寺家と八龍家の立場を入れ替えて欲しいくらいだよ、疲れた」

「……ご冗談を」


 冗談めかしてぼやいた颪に、冷躯は表情を変えずにいやいやと首を振る。

 【八顕】と呼ばれている8家は、日本で最初に正式な【顕現者オーソライザー】と認められた家々であり、同時に認可された時に特別な【顕煌遺物】を手渡されている。


 【顕煌遺物】、【神座シンザ】は8種類あり、それぞれが【八顕】の次代を指定することによって次の当代を決めるのだ。

 全ての【顕煌遺物】の所有者になれるとされている冷躯でも、切り替えが一瞬でありかつ所有者の死を切り替えのトリガーにしない【神座】の所有者にはなれず。

 それらはただ忠実に【八顕】の次代候補を指名するため、跡が絶えないかぎり【八顕】はそれらで在り続ける、というのが神牙ミソラの研究結果であった。


 しかし、疲れきった顔をする颪はその研究結果を知っていながらも、半ば本気で【八顕】という立場から退きたいと考えていた。

 今から隠居し、次に渡すことは可能だ、しかしそれでは次代に負担をかけてしまう。


 今、2家から離反したばかりの善機寺家は非常に不安定な状態であった。


「いやいや、結構本気だぞ? 特に冷躯の家系だって、由緒正しき【顕現者オーソライザー】の家系だろう。八龍でも今は有名になれているが、あの時代に御氷みこりを知らない人はいない」

「ははは……。恐らく蒼穹城家が選ばれていなければこちらでしょうね」


 冷躯は困ったような顔をして、自分の旧姓を思い返す。

 氷属性の一族、御氷家。その唯一の跡取りとして存在していたのは若き頃の彼である。


 100年前、【神座】が発見された時に蒼穹城家初代当主でなく、御氷家当主であれば、なにか変わったかもしれない。

 そう考えつつも、冷躯は特に難しいことへの興味がなかった。


 好きな人が出来た。友人が出来た、仲間ができた。そこに家系も一族の云々も関係なく、ただそれらを護りたいと思って。


 冷躯は日本史上最強の【顕現者オーソライザー】になったのだから。


「冷躯さんの為に【三劔みつるぎ】が出来たようなものだし……多少はね?」

「カナミさんも、俺のせいですみません」


 いえいえーと、ほわほわした顔でカナミは首をふる。

 カナンと瓜二つに近い容姿をしているカナミの旧姓はファフニールという。カナンと同じであり、実際カナンとは双子の姉妹であった。


 そんなカナミが当時蒼穹城派であった善機寺に嫁ぎ、双子の妹であるカナンが御氷家に嫁ぐ。そこにも全く警戒をしなかった蒼穹城達に、善機寺夫妻はどれほど別の意味で助けられたか。


「これから善機寺家は、名目上中立になる。親もそうであれば子もそうだというわけだ」

「……そうですね」


 紅茶を持ってきたカナンに礼を言って、颪と冷躯は一口ずつそれを口に含んだ。

 そして小さなため息。小さなため息には苦痛が込められていなく、寧ろ幸福感がかいま見える。


「冷躯やカナンさんには、善機寺長年の呪縛を解放してくれたんだ。これからもよろしく頼む」

「はい、喜んで」





 力強く握手をしあう冷躯と颪の目には、お互いの信頼が映っていた。


 颪からはやてへ。

 冷躯からゼクスへ。


 子は、親の辿った道を意識せずとも辿っている。

「颪」「魅」などは現実の名前に使えません。

こっちは良いケースの「蛙の子は蛙」


次回の更新はおそらく今日。


↓人気投票2回め。颪さんとカナミさんを追加しておきますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ