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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第1部 第1章 入学
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第008話 「特別視されるべき人々」

 俺と冷撫れいなが、各々の教室発表が表示されている巨大電光掲示板に辿り着く頃には、すでに入学式は終了していた。


 先ほどのことを、人混みに揉まれながら考える。

 東雲しののめちぎりは変わった。

 顔がまるっきり変わった。確かに、令嬢っぽくなっていた。声も勿論変わり、立ち振舞も変わっている。


 しかし、あの頃もおどおどしていたが、アレは変わらなかった。性格は変わっていないようではある。

 おどおどしながらも、言いたいことはしっかりと言う。それが彼女の本性だろう。普段は大人しくしているから、「契さんがそんなことを言うわけ無いでしょう!?」と周りを味方につけることが得意だ。


 ……ダメだな。やっぱり、彼女のことを考えると負の感情が噴き上がってくる。

 殺意が心を侵食していると、はっきり自覚できた。


 それが自覚できて、自制できているのは【神牙結晶】に感情抑制効果も含まれているからなのか、それとも5年前よりも今が成長したからなのか。


 俺には判断できない。


「……冷撫、離れるなよ」

「ゼクスくんが、手を握っている限りは」


 冷撫はそう言って、俺の手を一層強く握る。

 何故これだけごった返しているのかといえば、同じクラスになった友人たちが立ち去らず、その場で喜びの声を上げたり喜びの舞を踊ったりしているからだろう。


「同じクラスだと、いいですね」

「【八顕はちけん】と【三劔みつるぎ】は同じクラスになりそうだけれどな」


 正直、この学年はクラス分けが大変だったろうな、と考えることは難しくなかった。

 11家を同じクラスにまとめると、一人の責任が重大になってしまうばかりか、担任の発言力がほかを圧倒してしまいそうだ。

 【八顕】と【三劔】の名前を最大限に利用してしまえばいい。


 逆に、バラバラにしたところで事態は悪化してしまう。

 学園で、【顕現】的な政治闘争が始まってしまう可能性すらある。


「結局、どれがベストなのか分からないな」

「この学園に、【八顕】と張り合える教師は……あ」


 冷撫は何かに気づいたようで、電光掲示板がよく見える場所に到着したのを確認すると、それを眺めている。

 それは、自分の名前を探しているのではなく、別の何かを探しているように感じられた。


「どうした?」

「…………」


 どうやら、「それ」を探すのに精一杯で俺の言葉は聞こえていないらしい。

 とりあえず、彼女がはぐれないように肩を引き寄せる。


 こうするのは久しぶりだろうか。いや、俺からするのは初めてかもしれない。

 彼女には、ずっとその有り余る包容力によって包まれてきたから。


「……私達の名前、ありましたよ。同じクラスです」


 そんなことを考えていると、とんとんと肩を叩く感覚がする。我に返って冷撫を見つめると、流石に公然では恥ずかしいのか頬を桜色に染めた彼女が、とある方向を指差す。


「一組ね」

「はい。そこに私達『特別視される人』が集中してます」


 鈴音すずね冷撫もその一人、ということかな。

 確かに社会的地位として鈴音家も顕察官一家で、【八顕】の神牙家とも面識がある。


 充分特別視される必要はあるだろうし、俺は言わずもがな。


「全部集まってる。こりゃ壮観だな」


 11家全てが集まっているどころか、鈴音や東雲なんていうどこかで聞いたことがあるような苗字がずらりと合わせて50人、そこに集結している。


 10分の1も「そういう」身分であると考えるべきか、それとも"たった"10分の1しか存在しないと考えるべきか。


 俺にはよくわからない。


「お、2人とも居た」


 反応に困っていると、後ろから声。

 そこには野蛮ワイルド知的インテリ、相反する2つのイメージを重ね持った男が立っている。


 勿論、アマツである。


「入学式はどうだった?」

「首席、蒼穹城そらしろだったぜ」


 彼の言葉に、俺は黙って頷く。当たり前だが、やはりこの学園に入学している。


 ほら、あそこだ。とアマツが指差す先には確かに蒼穹城進がいた。

 こっちは、何も変わっていないな。


『失望したよ。刀眞とうまの人だから優秀だと思ったのに、とんだゴミだったとはね』


 5年前の記憶がフラッシュバックし、俺は思わず口を抑えた。頭痛がするし、同時に吐き気も襲ってきた。


「ゼクスくん!?」

「ゼクス!」


 冷撫とアマツの声に、すぐに返事ができなかった。

 たっぷり2分ほど経過して落ち着いてから、「大丈夫」と2人に笑いかける。


 しかし、その笑顔は見事に失敗したようだ。


「ずっと思ってたけど、これはトラウマだろうな」

「……そうだな」


 俺は、力なく笑おうとする。が、アマツから無理をするなと強い口調で言われれば、納得するというもの。


 人を見て吐き気がするって、本当に起こりうることなんだと、今始めて知った。


「俺も同じクラスか。……これは、きつそうだな」

「毎日顔を見合わせるって?」


 俺が頭痛と吐き気に襲われている間、冷撫はアマツにこちらで起こったことを説明したらしい。

 彼は、電光掲示板に並んでいる名前を見て「俺も頭痛がしてきた」なんて言っている。


 ……冗談だろ、と返そうとしたが本当のようだ。

 頭を右手で抑えて、顔をしかめている。


「クラスに別れるって言ったって、ホームルーム以外は教室に居ないんだから問題ねえだろ」

「進みたい道は一緒だろうから、それはないな」


 寧ろ、問題しかない。


 本当、どうするんだ学園生活。

 ……とりあえず、寮に行って寝るか……。


 今日は、もう何もないはずだし。

次回更新予定 → 2016.1.25 12時


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