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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第4章 春から夏へ
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第079話 「繋ぎ止めるもの」

 ……私が想定していたよりも、はっきりと否定されてしまいました。


 踊り場の鏡を見つめながら、私は自分がとても悲しそうな顔をしているのに気づきます。今にも泣き出しそうな顔、でもそれは私ではなく別の人のような感覚で、自分は全く泣きたくないのに。

 何が悲しいのでしょうか。ゼクスくんが、5年間一緒に居た私を選ばなかったから?


 私が、7年後から先将来が決まっているから?

 全てを投げ捨てられないからでしょうか。


「…………」


 鏡の中の私は、より一層泣き出しそうな顔をしています。私はそんなつもりなんて無いのに。

 アマツ様に気遣われている、それが気づけなかったからでしょうか。


 それにしても、古都音さんは気に入りません。

 私はゼクスくんと5年間も一緒にいて、ゼクスくんと信頼関係を築いたというのに。


 古都音先輩はたった数週間で、もうあんな雰囲気にして……。

 ……私の5年間はなんだったのでしょうか。ゼクスくんにとって、私の存在とは何だったのでしょうか。


 お姉さんでしたっけ、ふふ。

 ……ふふふ。


「……いけない」


 気がつけば、私は涙を流していました。


 ゼクスくんに腹がたったのではありません、ゼクスくんは私の将来も考慮しているようでした。

 アマツさまに腹がたったのでもありません、アマツさまは私を精一杯思っているのでしょう。

 古都音さんに腹がたったのでもありません。……古都音さんは、本気でゼクスくんを一生支えようとしている。中途半端な私が入り込む要素なんてありませんから。


 けれど、……私は古都音さんが、威圧のためとはいえ顕現力の密度を何倍にも上げたのには驚きました。

 そもそも、古都音さんの事を軽視していたのかもしれません。よく考えて見れば、顕現力は【顕現オーソライズ】の効力を忠実に示しています。

 あの密度なら、軽い傷なら数分で完治させられるでしょう。


 さすがは終夜スメラギの娘……。


「お、鈴音すずね。ここにいたのか……おい?」


 考え事をしていると、後ろの方からアマツ様の声がします。

 どうも、私の様子が変だと感じ取ったようで、少々怪訝な顔をしつつ近づいてきました。


 ……なるほど、事実を知ってアマツ様の顔を見ると、心配しているのが分かります。

 少しわかりづらいですが、使命使命と言っているのは照れ隠しなのでしょうか。


「誰に泣かされた!?」

「違うんです、アマツ様」


 私が「様」と呼ぶと、彼は困ったような顔をしました。

 でも、こちらの様子を伺ったのか普段のように「様は止めてくれ」とは言いません。


「自分に腹が立っただけなのです。勝手なことばかりして……」

「……何が?」


 なんでもないようにアマツ様。

 そして私の頬を両手で挟んで、無理やり目線を合わせられます。


「鈴音。よくきけ、お前の人生で自由になれるのはあと7年しか無いんだ」

「……鈴音ではなく、冷撫、と呼んで欲しいです」

「分かった、冷撫」


 何時もはここでおどけるアマツ様も、今は違います。

 その顔は何時も私が見ている神牙アマツくん、ではなく。


 神牙家次期当主候補、神牙アマツ様の顔でした。


「今しか自由がないんだ。俺は、別に冷撫がゼクスを好きだろうが、なんだろうが正直いい。けどな……」


 その瞳は、私を本当に見つめているのでしょうか。遠く未来のことを見つめているような気もして、私は目を瞬かせます。

 私は7年先「まで」しか考えていませんが、彼は違います。


 もっと遠く、10年……20年先すら見つめているのでしょう。


「俺達に、ゼクスを援助することは出来ても、支えることは出来ない。仲間であっても、親友であっても。それは家族ではない」


 一息。アマツ様は何かを迷っているようでした。この言葉をだしてしまってもいいか、出さざるべきかと。


「遠慮なさらず」

「……分かったよ」


 そしてもう一息。

 アマツ様は息を吸い込みます。


 そして。




「俺達に出来ないことを、古都音さんは出来るんだ」




 一切誤魔化さず、アマツ様はそう断言しました。

 予想はしていましたが、やっぱり心に来ます。


「うっ」

「……頼むからそんな、苦しそうな声は出さないでくれ」


 思わず呻いた私に、アマツ様は悲しそうな顔をします。


「ゼクスと古都音さんが一緒になれば、どちらに嫁ぐか婿入りするかにしても、八龍家と終夜家にいい影響を与える。それは神牙家らにもいい影響を与えるだろうし、刀眞・蒼穹城は勝手にダメージが入る」


 難しい話はわかりませんが……。

 アマツ様の考えでは、ゼクスくんに似合うのはやはり、私よりも古都音さんなのでしょう。


「冷撫。俺の使命についてきてくれないか」

「……私は」


 私はまだ、自分の気持ちに整理がついていません。


 こんなに心が弱い女だったでしょうか。

 さっきまで、ほんのさっきまではゼクスくんが大好きだったのに。

 もうアマツ様へ乗り換えようとしているなんて。







「……冷撫は悪い子です」

「何いってんの。……まだとっかえひっかえしてねえ時点で良いほうだろ」


 アマツ様、口調が崩れてきていますよ。

 私はそう感じながら、しかし口には出しません。


 彼がだんだんイライラしてくるのが分かりました。階段の方を気にしているようです。

 ……1人の女子候補生が通りすぎたところですね。出来るだけ、私たちにさとられないように。




 ……さとられないように? 何故?


「そりゃそうだよな。……表向きには被害者面して、可哀想な女の子のように振る舞いながら、5年間男を取っ替え引っ替えし、次にはゼクスに許されようとしている卑怯者?」


 アマツ様の怒りが、急激に蓄積していくのを感じました。

 このままではゼクスくんが復讐する前にアマツ様が殺しかねない、そんな気迫です。


 あ、あの子はどこかで……。東雲さんかな?


「逃げんじゃねえよ東雲しののめちぎりぃ! 首を洗って待っているんだな!」


 女子候補生は、びくっと飛び上がって、思いっきり走り出します。

 目の前には荒々しく息をしているアマツ様。……興奮しすぎです。


 煽る煽る。……アマツ様、流石にやめましょうよ。

 と、私は抑えようとしているのですが、これは止まりませんよね。


 せっかく東雲契さんも、昏睡状態から脱したのですし。

 ……ゼクスくんに任せましょう。私たちは、ゼクスくんの望むことを実行しましょう。


 ……諦めましょう。最初から、ゼクスくんへの恋愛は諦めていればこんなこともなかったかも、しれません。

 

「アマツ様」

「んあ? ……おっとと、ごめんよ」

「いえ」


 私は彼に向かって笑いかけます。


「これから、私をつなぎ留めておいてください。アマツ様から、一生離れられないように。ずっと私がアマツ様を好きになれるよう」

「ああ、約束するよ」


 アマツ様は、笑っていました。

 その笑顔は、どの意味でしょうか?


 ……けれど、今は知らなくても大丈夫そうです。

今日は更新できる分だけ更新します。

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