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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第4章 春から夏へ
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第077話 「密度増大」

 古都音ことね先輩の身体から溢れだす顕現力を見つめて、俺は「まずい」と思った。

 正直、先ほどの栄都えいと阿音アイン襲撃よりも危機感を覚えたかもしれない。


 俺はそれが何かわかっていた。密度を増やしているのだ。

 顕現力の密度は、【顕現オーソライズ】の強さに直結する。その言葉通り、【顕現オーソライズ】や【顕現属法ソーサリー】の効力に直結するんだから当たり前か。

 それがどういう効果を及ぼすかといえば、例えば父さんがそれをやると人が気絶するときがある。


 酔うんだ、簡単にいえば。格段に強いものに直接当てられると、脳が揺れる感覚がするらしい。

 俺は威圧程度のものなら感じたことがあるけれど、ソレ以上のものはないかなぁ……。


 実際に、11家会議の時にも刀眞獅子王と父さんが出しあって、数人意識を失ったらしいけれど。俺はすでに戦いによる『オニマル』への配給のし過ぎで終わってたしな……。


「……うぐぐ」


 ついに密度が元の6倍になった。さっきから5分ほどたっただろうか。

 ほえー、結構凄い。俺もこれは無理かもしれない。訓練したら行けるんだろうけれど、そこまで訓練しようとも思わな……思う。


 冷撫がうめき声を出してじりじりと後退し始めた。それほどに、目の前のものが恐ろしく「見える」のだろう。

 けれど、それはただの幻覚と一蹴するには難しい。


 【顕現者オーソライザー】ってそういうものだし。外見とか、「攻撃できない」なんていうデメリットで人を考えちゃいけない。

 身体から出てくる顕現力だけで酔ったら戦いにならない。


「今からUターンして、ここから立ち去っていただけると有り難いのですけれど」


 古都音先輩の声はいつもどおりだが、どこか素晴らしく威圧感たっぷりのものだった。

 俺はその声が心底怖い。正直俺がUターンして帰りたくなる。


 先輩ってこんなにも、顕現力の放出だけで相手を威圧することが出来るのか。


「…………」


 そして冷撫がくるりと踵を返し、屋上から出て行く。

 校舎は真ん中が10階建てのビルで、俺たちはそこに居たわけだが。


 飛び降りるようにして出て行くのではなく、正規の手段を使ってほしいと考えてしまった。


「……で、先輩そろそろ止めてください」

「うーん、これやっぱり強いですね」


 強くないわけがなかろうよ。

 直接的な攻撃ができないなら、間接的に威圧で相手を押しとどめようとするその心意気やよし。


「まだ、お昼まで時間がありますよ?」


 古都音先輩は、元の表情でそう優しく微笑む。

 俺をみつめて、その心酔したような顔を向けるのはやめてほしい。思ったよりも反応に困る。

 

 自分から意見を言わず、古都音先輩の意見に従うことにする。


「先輩はどうしたいんですか?」

「お持ち帰り、じゃなくて……。あ」


 なんだか、不穏な言葉が聞こえた気がした。

 しかし、俺が反応する前に善機寺が俺たちの場所を分かったのか、竜巻に乗ってやってきた。

 

 軽い着地音。なんともまあ、【顕現属法ソーサリー】の扱いに長けている人間だなぁ。肉弾戦好きな俺には無理な芸当だ。


「"颯"、さっきはありがとう」

「……どうも」


 顔に巨大な傷を残した少年は、そっぽを向いたように体の向きを変えると、頭を抱えてうんうん言い始めた。

 なんだこいつ。


「どうしたんだ、頭を抱えて」

「……不可解な事態を目の当たりにして」


 善機寺のことばに、俺たちも唖然とする。

 先ほど栄都がやったことがすべて「なかったこと」にされているらしい。

 

 どーうせ強い顕現特性か何かだろう。もう慣れてきた。

 いや、でも。

 

 まわりの人含め、かなりの人数を騙せる特性なんてあるのだろうか。

 

 でも、俺はその衝撃を確かに背中で感じた。それは古都音先輩だって同じはずだ。

 ということは? いったいどういうことなんだ?


「直っていたんだ。……寧ろ、最初から被害はなかったように」

「狐に化かされたのかね」


 俺は半ば本気でそう考えた。全てが偽物なんじゃないかと。

 まあ、この事件については後で鳳鴻おおとりたちにも報告せねば。


 ……と、古都音先輩がはやてをじっと見つめている。


「あの」

「……?」


 颯はどこか疑問を浮かべた顔で、目の前の少女を見つめている。

 古都音先輩は真面目な顔で、次の言葉を紡ぐ。


「善機寺颯さんは、ゼクス君だけの味方なんですか?」

「……情報が回るのが、早いな」


 どこか爽やかに、どこか獰猛に。


 俺を見、古都音先輩を見つめてニヤリと彼は笑った。









「俺は、八龍ゼクスの味方だ。八龍ゼクスが味方と示してくれるのなら、誰だって守ろう」


 でも、俺は。

 颯が少し眩しく感じる。


 誰かを「守れる」のか、この男は。


 俺よりも凄い人間じゃないか……と。

次の更新は明日。

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