第076話 「修羅場」
「今回は完全に善機寺のおかげですね」
「……そうですね。はふぅ、疲れました」
善機寺って、あんなに強かったっけ?
屋上まで駆け上がって、逃げおおせたことを確認した俺がまず最初に考えたのはそんな感じの事だった。
正直、あれはないよなぁ。
俺は2度、善機寺と戦ったことがあるけれど、あんな強いとは知らなんだな。
正直言えば、威圧で栄都を止められることが凄い。あと竜巻で移動してきたのも凄い。
竜巻は念動力か何かで操作していた瓦礫の、操作を寧ろ奪っていたような気もする。
やっぱり、善機寺ってあんなに強かったっけ? 蒼穹城の目をえぐった時、確かに大技をブッパしていたのは見たけれど。
と、俺は先輩に目を向けた。少々疲れているというよりは、かなり疲れている様子だ。
「可愛いため息ですね」
「……ですか?」
「です」
はふう、なんていう可愛いため息初めて聞いたぞ。なんだこのこ。
俺はんなことを考えながら、栄都に対して善機寺は無事だろうかと考える。
「古都音先輩は善機寺をどう思います?」
「……正直、まだ信用できません」
……だよなぁ。俺にとっては"敵"でなくとも、終夜家や鈴音家をはじめとした、神牙側の家系は寝返ったと言っても信用出来ない場所があるんだろう。
俺はそれに納得し、無理やりに「彼は信用できます!」なんて力説しないことにした。
こちらとしても、彼の態度を見ていきたいし。
――っと、なんか古都音先輩顔赤らめてない?
「あの、お話があるので、出来れば授業が終わったあとに部屋に来てほしいなぁって思うんですけれど」
「自室? 先輩の?」
俺は流石に驚いて、古都音先輩の顔を見つめる。先ほど顔を赤らめていたのはそういうことのようだ。どこか違和感を感じつつ、先輩の顔を伺いつつ俺は頷く。
何かあるんだろうか。そういえば、冷撫を含めて女性の部屋に行くのは初めてだ。つまりは密室なわけ。
……俺を居れて本当に良いのか? 俺を「何もしない」としているのか、それとも「なにしてもいい」とかんがえているのか。
「はい、お茶していきませんか?」
「……嬉しいですけど、ええと……冷撫は何故ここに?」
――そこに、冷撫がいた。
美しいというよりは可愛らしいその顔に青筋を立てて、くっそこわい顔をしている。
身体はぷるぷると震えており、なんとうか。
般若? でもなんでだよ……。
「アマツ様からお話を伺ったのですが」
「……うん」
ああ、この事か。直接言わなかったことに起こっているんだろうか。
流石に女々しいなとは考えたけれどね……。
俺と古都音先輩の2人と、冷撫の間に風が通り抜ける。
「本気、なんですね」
「……ああ」
俺はごまかすことなく、頷いた。
考えはいくつかあるが、どうしても伝えなければならないのはたった数個だ。
「……何故です?」
「なんでだろうなぁ。……冷撫が人間として出来過ぎているし、将来の道も決まっているからかな。あと俺に対して反論をあまり言わない」
冷撫は俺のことならなんであっても肯定しようとする。
それが正直、一番困っていた。意見を求めているのに、「ゼクスくんがそう思うなら、それで」と言われるのはちょっと……。
他にもアマツが居るっていうのにまだ俺に執着するの? っていうのもある。
「私が……アマツ様との婚約を破棄すれば考えなおしてくれますか?」
「アマツのことも思えば無理だ。……アマツは使命感だ何だ言っているが、それ以上に冷撫を気遣っている」
アマツに何か恨みでもあるのかね。
確かに、本人に殆ど気遣った素振りを見せないようにしているアマツではあるが、冷撫ほど気遣いのでき察しのいい少女ならすぐに分かるだろうと思ったのだが。
……アレかな。自分に向けられたそういうのはわからない人だろうか。
「……知りませんでした。アマツ様は一度さえ、私に直接」
「直接言ったら気を使わせるって言ってたぞ」
それっきり、冷撫は黙ってしまう。
俺もいうことがなくなり、冷撫も黙る。
そんな状態で、先程まで黙っていた古都音先輩が、次は口を開いた。
「冷撫さん」
「…………」
……なんだろう。
すごく、嫌な予感がする。これはなんと言ったか、修羅場というやつだろうか。
俺はこの場から凄く離れたかった。学園に怖いものなしといったとしても、女性は怖いものだ。
「私が気に入らないのですね」
「……っ。正直に言えばそうです」
冷撫も肯定するなよ。俺のいないところで何やらかそうとしているんだ。
ここで決闘がはじまるとか、俺は正直勘弁な。
特に、古都音先輩なんて直接攻撃が制限されている状態で、どう戦おうというのだろう。
……いかんいかん。少し興味が湧いてきたぞ。
「これが他のお殿方であれば、私は身を引いていたところですが」
古都音先輩の笑顔は、とても怖かった。
何時もは身体の中に溜め込んでいるだろう顕現力を、少しずつ漏らしてゆく。
……それは、察しのいい俺や冷撫には、十二分に感知することが出来るものだ。
それが、1.5倍、2倍――と段階的に強くなっていく。
冷撫が、びくりと身体を震わせた。
「……相手がゼクス君である以上、ここは引けませんよ?」
女って怖い
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