第075話 「善機寺の考え」
「ここは任せろ、八龍ゼクス」
……竜巻を【顕現】し、俺は再び宙に浮くとゼクス達を逃がす。
栄都はそれを逃がさんと斬撃を飛ばす動作をするが、とりあえずのところは風の壁を。
彼女にめり込むようにして【顕現】。
これで動きを阻害してくれるはずだ。すでにゼクスと……終夜は逃げおおせている頃だろう。
「なんのつもり? 裏切り者さん?」
「さてな……、仕えたい人が出来た。それだけだ」
彼女は俺をキッと鋭く睨む。
……そのくらい覚悟している。栄都・刀眞・蒼穹城がこれから俺を敵として扱い、また神牙・亜舞照・須鎖乃・月姫詠・蜂統も俺をよく思わないだろう。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
この数週間で、俺は「八龍」につくことを決めた。
それが大切なことで、また。
相手が友人だと思ってくれたとしても。
俺は、彼の下にいる。
「それよりも襲ったこと。流石に俺たち【11家】でも、法は適用されると考えているのだが、どうか?」
「……中々饒舌になったじゃない、善機寺颯」
【顕現者】に未遂の法は適応されない。
だからこそ、【顕現者】は決闘が許可されているわけなんだが。個人的な復讐の為にだとか、他にも色々あるだろうが。
だが、器物損壊はもうされている。……先ほど確認してきた。
「器物損壊はしていないわよ」
「は?」
いや、ありえないと俺は頭をはっきりさせるように首を振った。
確かに、あれは八龍ゼクスが【固定】した。それを目の前の栄都は内側から爆発させ、周りの人すら巻き込んでいる。
しかし、栄都アインは笑っていた。……意地悪をするやんちゃな少女のように。八龍ゼクスたちが消えた方を見つめて、はぁと溜息を付く。
「……逃げられちゃったし、見て来なさいよ」
言われるがまま、俺は食堂集合群のところに向かってみる。
入り口を見て、今頃修復がすでに始まっているだろうなと考えて……。
……壊れてない? いやまさか?
え?
……いやいや、頭の記憶を辿ろう。
……だって怪我人はそこにいる。
――――いない? は?
「さっぱりわからん」
「ほらね?」
何故か勝ち誇ったように、彼女はそうにんまりと笑った。
俺に対して勝ち誇ってどうするんだ。
……それよりも、俺はあの仕組みが知りたい。
俺の幻覚だったとでも言うのか?
「私はあんたに用がないの」
「……刀眞遼の差金か」
「ご名答ぅー」
……彼女は否定しなかった。刀眞遼の差金で終夜古都音を狙っているというのなら、そういうことなのだろう。
俺は頭を掻き、栄都を見つめた。蜂統が神牙派とすれば、栄都家は蒼穹城派の人間だ。
そう考えれば、蒼穹城派から寝返った俺は……どうなるんだ?
八龍家はゼクスがあれなものの、体制的には「中立」らしい。それにしては刀眞や蒼穹城と反りが合わない気がするが。
「あんたが裏切ったせいで、私が出る羽目になったんだから。……でも、都合のいいことが一つある」
「……は?」
「あんたが、神牙派になっていないことよ」
それはどういう意味だろうか。俺が脅威に感じていないのだろうか。
……感じていないんだろうな。今まで本気を出そうと思ったことがなかったから、俺は何もしてこなかった。
その結果、八龍ゼクスにああやられるのは想定していなかったけれど。
……それでも、仕えたい人が出来た。
その人のためなら力を使おう。
「私はあんたを敵にしたくないもの、ねえ? 颯」
「……それは同意見だな」
今日のこれも挨拶代わりだろう。
栄都阿音……。こんな茶番で、本気をだすわけもないか。
俺はもう一度、八龍ゼクスの逃げていった方向を見つめる。
……彼等の邪魔をする必要は、ないだろう。
次回更新は今日です。




