第074話 「仲間になると強くなる」
やばいやばいやばいやばいやばい!
俺は古都音先輩を庇いながら、3秒で10回ほど頭のなかで「やばい」を繰り返す。
栄都アインの攻撃方法がやばい。あの刀から、斬るたびに斬撃が「飛んで」来るのだ。
喫茶店内は騒然となって、腕の立つだろうカップルは男が女性を守るように立っている。
腕っ節の弱そうな人々はどうなってるって?
そりゃ、逃げ惑ってるさ。
「貴女が退いたら私も攻撃しないってば」
「そういうわけにも行かない」
栄都アインはそう言って俺は敵でないことを示そうとするが、俺も退くわけにはいかなかった。今回もアガミの代わりにここへきている。先輩と恋人関係としてきていたら他に方法はあっただろうが、俺は護衛でしかない。
護衛代わり出来ているのなら、命を賭してでも、アガミを見習って古都音先輩を守ってみせるものだろう。
「何?」
俺は古都音先輩を前に押しやりつつ前進し、栄都から逃れようと距離を取る。
同時に自動ドアを、指差しつつ閉まった瞬間を見計らって叫んだ。
「【3】:【re】:【write】!」
自動ドアが接着されたように動かなくなった。周りの人は大迷惑だろうが申し訳ない。
氷属性と土属性で自動ドアの強度を強化し、雷属性で自動ドアの制御を止める。
これは【顕現】というより【顕現属法】的な使い方だ。属性を変えれば、またはもっと顕現力を込めればその言葉の通り【書き換える】事も可能だろう。
そんなことを考えつつ、俺は後ろを見る。困ったような顔をしているが、これで逃げ切れるわけが……。
「だーかーらー!」
栄都が吼えた。それは蒼穹城のような子犬の吠えではなく、確かに強者のそれであった。
「逃げるんじゃないわよ!」
低く構えをとって、一瞬の抜刀。そしてすぐに納刀。
その一瞬の動作によって、……原因はわかりかねるが、栄都側からこちら側へ、壁が……。
文字通り、爆発した。
ぽかんとその光景を見つめていた候補生が数人、巻き添えを食らう。
殆どの候補生は、防御態勢をとって事なきを得たようだ。
俺の【re】に防御があれば、【顕現】すらできたかも知れないけれど、生憎そんな便利なものを持っていない。
寮の自室で一つだけ、完成形持っていけているものは存在するけれど……あれはかなり荒いと言うべきか、雑というべきか。
できるだけ使いたくないものだ。
俺は先輩を連れて走り出しながら、どうやって相手を撒くか必死に頭を回転させる。
人混み? それは無理だ。人混みに紛れれば周りの他人ごとその、飛ばせる斬撃で払ってくるだろう。
なら教室に逃げ込む? それもダメ。さっき【rewrite】で実証したばかりである。
ドアをぶち破られて追い詰められる未来しか、思い浮かばない。
うんうんと悩みながら、走っていると前の方から古都音先輩の声がする。
「あの」
「……古都音先輩どうしました?」
どこか遠慮しがちで、こちら側を気遣うような表情。
俺が反対するだろうと考えているのか、どこか躊躇しているようにも見える。
「私だけ置けば、ゼクス君は狙われないんですよね?」
「馬鹿なことを言わないでくれ」
俺は敬語を忘れて、思わず即答してしまった。古都音先輩は困ったように、しかしどこか決心したように言葉を続ける。
「でも」
「俺は今日、蜂統亞神の代わりに来ました。貴女の護衛です」
さらに言葉をかぶせ、相手に有無を言わせない。
古都音先輩は「護衛……」なんていって表情を曇らせた。なにか問題でもあるんだろうか。
問題といえば、俺が……。
「ただ、防衛の手段がない」
俺には自分を防御するというものがない。同時に周りの人を守るということもできない。
敵が来たら、仲間が襲われる前に自分にきつけぶっ潰す。それが俺のスタンス。
だから、アガミに頼まれたけれど「護衛」としては究極的に向かない。
対象の近くで守る近衛よりも、俺は遊撃をしたいんだよな。
「広いところに移動しましょう。そうすれば、……うーん、鳳鴻を呼んできてくれませんか?」
「それが、今は学園に居ないのです」
……ファッキュー!
アガミもアズサさんも月姫詠もいないらしい。
やっぱりとは思ったがアガミは【護衛】で呼ばれているんだろう。
全然モテモテじゃなかった。モテモテといえばそうだけれど、理由が残念すぎる。
ぜぇぜぇと逃げ回った俺は、結局中庭に来てしまった。
古都音先輩も息を切らしているし、俺の速さに合わせたのがよくなかったのかもしれない。
そして気がつけば、目の前に栄都がいる。
勝ち誇ったような顔で。
「もう逃げられないわね」
刀が光り、まわりの瓦礫が宙に浮かんだ。
……なんだあれ? もしかして、あれも【醒煌遺物】だーとか言わないだろうな!?
もう、念動力か何か、【顕現】じゃない気がする。
俺の考えている【顕現者】同士の戦いは、こんな魔法じみたものがぽんぽん飛び出してくるようなものではなく、こう。
騎士や武者が堂々と闘うようなものだ。特性も外のものを扱うんじゃなくてさ、意志と意思、命と魂をぶつけ合うようなものではないのかね。
『貴様が言うな』
『あっ、すみません』
……そうだよな。一方的に相手を蹂躙していた俺が言える立場じゃないよな。
相手の手を切り取ったり、右目を言葉通りの意味で潰したりどこが騎士道?
俺は本格的にヤバイと考えながら、周りを見回してみる。
助けは無理か……?
……んん? こちらに近づいてくる竜巻みたいなものがあるぞ?
栄都のほうをみれば、その勝ちを確信した顔が既に崩れかけている。
竜巻は瓦礫もろとも巻き込んで上に吐き出し、念動力もそこで切れたようだ。
栄都は嫌そうな顔をして「敵になると厄介なのよねぇ」なんて苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「……ゼクスよ、栄都には近づくと有効。離れると危険」
竜巻から現れたのは、善機寺颯であった。
なんだよお前、仲間になったら強くなる人間なのかよ……。
外出先から更新です。本日3話更新ができるかもです。
追記:出来ませんでした。寝るまでに更新します。




