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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3章 11家緊急会議
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第067話 「終夜と八龍」

 集中治療室では、ゼクスが数人の看護師に囲まれてチューブやらなんやら通されている。

 非常に危険な状態、とアマツが暴走した時と同じ医者は彼等に伝え、未知の存在であり、未だ解明が完全にされていない【顕煌遺物】を見やる。


 ゼクスはそれを離そうとしなかった。まるで同じ存在となったかのように。

 

 ベッドの隣では、古都音ことねが彼の手を両手で握っている。

 目には真珠のような涙がいくつもこぼれ落ち、それでもただただ、祈り続けることしかできない。


「ゼクス君が死ぬなんてこと、ないですよね……?」

「落ち着け古都音。私も治療する」


 だが、古都音の父親であるスメラギは違う。

 回復の【顕現オーソライズ】を扱える人間は比較的多く、【顕現者オーソライザー】専門のみならず一般人への医者も含めると日本だけでも30万人ほど存在するが、顕現特性に【回復】系を持つ人間は少ない。


 終夜家は、その中でもスメラギとその妻もが【回復】を持ち、古都音にも発現された珍しいケースである。


 スメラギはゼクスの心臓部分に手を乗せると、掌から銀色の光が溢れだした。それは体の中へ吸収されるように溶けこんでいき、アマツたちは――古都音でさえ、スメラギのしたことが理解できない。


「彼の中にある毎時ごとの回復量を底上げした」

「えっ。そんなこと出来るんですか?」


 その言葉に、驚いたのはアマツであった。

 暴走したことのあるアマツにとって、それを知っていたらもう少し早く復帰出来ていたかもしれないと。


 アマツは軽度なため数日とかからなかったが。


「古都音にも出来るぞ。なんせ私の娘なのだからな」


 そう誇らしげに胸を張るスメラギを、一同は尊敬の眼差しで見つめていた。

 やろうと思って出来ることではないからだ。彼に与えられたという運と、彼が今まで使い続け、使いこなしてきた熟練度の賜物なのだろう。


 古都音は静かながら、自分も教わりたいというふうに視線を向ける。

 それを父は受け止め、次の言葉を口にした。


「夏休みに帰って来なさい。コツを教えよう」


 夏休み。未だ4月だというのに、まだ3ヶ月ある。

 古都音はそれを「長い」とも考えたが、ソレ以外に思いついたのが一つ。


「そのときは、ゼクス君もいいですか……?」


 彼女の言葉に、父であるスメラギは嬉しそうに笑い。

 冷撫は静かに歯ぎしりし。


 アマツは、冷撫の様子に気がついて苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「勿論良いとも。蒼穹城そらしろ家と刀眞とうま家の力が弱まりつつある今、寧ろ彼を説得しなさい」

「……はいっ!」

「正式に承諾してくれるのなら、【終夜グループ】としても何か祝いをやらなければ。それは戻ったらすぐに作ろう」


 刀眞家から圧力をかけられていた側である終夜家としては、今がチャンスと判断する。

 スメラギは、古都音が祈り続けている男をきちんと見ることができた。


 それだけで、大収穫だろう。

 同時に、蒼穹城家が虚勢を張っているだけの家というのも分かった。


 あとは、当主同士の対決でどちらが勝つか。

 終夜家当主は、片方に勝利を確信しながらちょうどアガミが治療室へ入ってくるのを迎える。


「決着つきました」

「おお、まあ八龍冷躯が勝ったのだろう?」

「勿論。顕現特性も強いですが、鍛えぬかれた身体と顕現力はやっぱり格好いいですね」


 アガミは一瞬の戦いを、スメラギに指示されて観戦していたのだ。

 抱いた感想は「恐ろしい」のヒトコトであり、冷躯の顕現特性も、肉体も含め日本で彼に勝てるものを記憶でたどる。


 結果は、いなかった。


 格好いい、と評したアガミにたいして嘆息するスメラギ。


「八龍冷躯が負けるはずないだろう……。アレは別格なんだよ」

「と、いいますと?」


 何やら難しい顔をし始めた彼に、問いかけたのはアマツである。

 ゼクスも別格なら、その養親である冷躯も勿論別格なのだろう。


 スメラギは、ゼクスが意識を失っても手放すことのなかった【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を指差す。

 白い鞘に入った白銀の【顕煌遺物】は、静かに再度、抜かれることを待っていた。


「この【顕煌遺物ゼガシー】は、扱う人を自分で決めるだろう?」

「はい」


 しっかりと頷いたのはアマツだけだった。研究者の親を持ち、将来的にはならないといえ、研究の手伝いをしているアマツに知識はある。

 けれど、他の人はそれをよく知らない。なんせ【伝説の武器】、神話や物語に出てくるものとよく似たものである。


 それを目の前で、今のように目にすることはなかったし、その必要もなかった。


「アマツくんなら分かるかな」

「はい。【顕現者】は感情によって【顕現】をする力が増し、正負関係なくとある位置に感情が達すると抗体を生み出します」


 これはまだ未公開情報だけれど、とアマツ。スメラギはミソラから話を聞いており、うむと頷いた。

 彼もまた、研究者である。【顕装】を開発するグループの最高責任者である彼が、常人の知りうるよりも多くの情報を持つのは特に変なことでもない。


「『AXoL抗体』が、【顕煌遺物】を引き寄せている」


 AXoLとは、そのまま【顕煌遺物】をの略称である。

 英語で「AuthoriXeOn・Legacy」と呼ばれる【顕煌遺物】。


 オーパーツとも、神からの贈り物とも呼ばれているそれは、未だ解明がそれほど進んでいない。


「そして八龍冷躯は、抗体を多く持ちすぎて別の存在になってしまった」


 冷躯は強い。それは誰もが認めることで。

 その原動力が「大切な人を護りたい」というものからくる事を、彼の少年期――八顕学園時代を知る人々は理解している。


 ただ、彼のいう「大切な人」というのは恋人や家族だけでなく、友人や知り合いの一部すら含まれていた。

 さらに言えば、昔から付き合いのある社員3万人超えの【終夜グループ】すら守ってみせると豪語したことから、彼の定義がどれだけ広いものか分かるだろう。


 当代は冷躯が守り、古都音はゼクスが守る未来を。


 冷躯は想定していたし、スメラギはそれを受け入れた。


「彼は、恐らくほぼ全ての【顕煌遺物】を所有者として扱える。……本物の守護者なんだ」





次回更新は多分今日。4回更新はできなさそうです、申し訳ない。


次回でとりあえず第3章本編は終了して、人気投票で頂いた案をもとに纏めと小話をば。

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