第065話 「決闘後の握手」
八龍ゼクス対蒼穹城進の決闘は、火を見るより明らかにゼクスの勝利だった。
ちぎれ飛んだ進の体と、右腕を救護班が回収し急いで集中治療室へと運ぶ。
そんななか、ゼクスは清々しい顔をして【髭切鬼丸】を手にしている。
鞘のない【顕煌遺物】は、それ自身で真っ白い鞘を創りだし、ひとりでに納刀された。
鞘を腰に付け、ゼクスはふと思う。
……アレでも死なねえのか、もう無理じゃないかと。
決闘は終わった。けれど、会議は終わっていない。
ゼクスが勝利したのを確認し、神御裂創空郎が手を挙げる。
顔は若干引き気味で、ゼクスを咎めはしないものの彼に対する表情は硬い表情のままであった。
「さて、会議の続きをしようじゃないか。……何かな、刀眞獅子王殿」
「……八龍ゼクスを、もう一度刀眞家に迎え入れた――」
「拒否する」
即答。それに対して眉をひそめるのは勿論獅子王であった。
しかし、冷躯は構わず話を続ける。【八顕】の刀眞獅子王ではなく、ゼクスの元親に対する言葉で。
「ふざけんな」
「何だと? 胤龍はもともと刀眞家のものだ」
「しかし、捨てたのは事実だろう。ここに書類がある」
そういって、冷躯はいくつかの書類を差し出し、レコーダーの録音も公開する。勿論、そこには獅子王がゼクスを捨てた直後の、「息子は遼1人しか存在しない」と断言した録音が残されていた。
録音を周りの全員に聞かれた刀眞家当主は、逃げ場をなくした。
「あの時の意味は、そういうことだったのか……!」
「ああ、そうだよ」
獅子王は胤龍に「刀眞」を名乗ることを禁じた。
そして、11家会議で息子ということを否定した。
それを持って八龍冷躯は、【三劔】としての権限も少々使い、ゼクスを養子にしたのだ。
「自分の見る目がなかったと。自分を呪え」
「これなら、実力行使しかあるまい」
「一撃で片付ける。来いよ」
実力行使、という言葉に冷躯が乗る。
日本史上最強。そう彼が呼ばれているのには勿論理由がある。
血気盛んな二人を諌めたのは、中立の神御裂であった。
「いやいや、待て待て。冷躯」
「創空郎さん、とめないでください」
冷躯は尊敬する人間に頭を下げ、怒気の孕みつつある声を上げる。
その声はまるで、名前通り龍が唸っているようにも感じられた。
獅子王の隣で、遼が「ひぃ」と声を漏らす。
「親として、子供を守るのは義務ですから」
今の「息子」を必死に守ろうとする養親と、「息子」を無能者として捨てた元親。
創空郎はゼクスの答えを知っていながらも、彼に宣言させる。
「八龍ゼクス。君はどうしたい?」
「戻りたいと思いますか? ……今日はつかれたのでもう戦いませんが、いつか刀眞家全員も進と、同じ目に合わせるつもりです」
剣で刺すような言葉に、刀眞親子の顔が固まった。
「もう俺は毒されない」
乱暴に吐き捨て、ゼクスは自分の手を見つめた。
少々目が眩んでいる。それは顕現の容量が東雲契程ではないにしろかなり多い方である彼にとって、初めての経験だった。
『終わったよ、オニマル』
『ゼクス……、貴様。そろそろ供給をやめろ。死ぬぞ』
忘れていた、と【髭切鬼丸】へ呼びかけるゼクス。
しかし、帰ってきた言葉は忠告。
「え……?」
次の瞬間、彼は糸の切れた釣り人形のように地面へ崩れ落ちる。
ゼクスは知らなかったが、納刀していても供給を切らないかぎり常に奪われていたのだ。
「ゼクス君!?」
最後に聞いたのは、自分の名前を呼ぶ終夜古都音の声。
八龍ゼクスは、自分に近づいてくる何者かの気配を感じとりつつ、気を失った。
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気がつけば俺は、さっきのように白い空間へと飛ばされていた。
目の前には宙に浮かぶ幼女、オニマルが俺を呆れた顔でこちらを見つめている。
『貴様、無意識に供給しているのか』
『ただオニマルが大食いなだけだろ……。初めてだ、倒れたの』
彼女の説明によると、【顕煌遺物】への顕現力供給は意識的にするべきことだそうな。
俺は完全に無意識でしていたわけだ。そりゃあ、倒れる。
流石に死なないだろうが、意識が戻るにはもう少しかかるんだろう。
『復讐は終わったのか?』
『蒼穹城へは、ひとまずね』
オニマルに訊かれ、俺は「ひとまず」終了したことを伝えた。
幼女は訝しげにこちらを見つめている。
『まだいるのか』
『あと1人と1家。……でも、その1人はまだ目覚めていないだろうし1家は父さんが牽制してくれてる』
でも、もっと先になる。東雲契は俺以上に重症だから数ヶ月は起きないらしいし、刀眞家は父さんがなんとかしてくれているだろう。
決闘してたら面白いな。俺、父さんの顕現特性まだ見たこと無いんだ。
母さんは「とんでもなく強い」なんて言っていたけれど。
考え事から開放され、目の前のオニマルを見つめると。
彼女は頬を軽く桜色に染めていた。
なんだこいつ、気持ち悪いぞ。
もじもじしながら、オニマルはその小さな口をモゴモゴと動かす。
『その……私を"彼女"と言ってくれた時は、嬉しかったのじゃ』
『寝てねえじゃねえか!』
……俺は叫んだね、うん叫んだ。
寝るとか言って俺が蒼穹城に復讐していたのを全て見てたんだろうな。
どういう気持で見ていたのか、俺にはわからないけれど。
幼女は、少々驚いて怖がりつつこちらを覗きこむようにしている。
さすが幼女版古都音先輩。可愛い。
いやなんでもない。
ところで気になっていたんだが。最も身近な質問がある。
『ずっと気になっていたんだが、ここは?』
『貴様の心が【顕現】した空間。心の広い人間は広くなるし……この通り、視野も狭くなっている今の貴様は我らが入るだけでいっぱいだ』
ここが俺の「心」ね。
白い部屋ではあるが、確かに四畳半程しかない。
せっま。俺の心せっま。
狭すぎだろ。俺どうやって生きてきたんだよ今まで。
『もっと強く、國綱のようになってくれ』
『おう?』
『我を顕現できるくらい、強くなってくれ』
『なにそれ』
オニマル(幼女)を顕現する?
ということは、……そういうことだよな。
燃費悪そう。【顕煌遺物】の状態で俺ぶっ倒れてるのに、何言ってんだコイツは。
まあ、今はいいかな。
俺はオニマルに右手を差し出す。握手を要求する。
彼女はそれを理解してはいるようだったけれど、躊躇した後に悲しそうな顔で首を振った。
それができない、というふうに。
『でも、我は……刀だから斬れるぞ?』
『良いから握手だよ、早くしてくれ』
今頃、自分が傷つくのを恐れていたところでだよな。
俺はオニマルを手に入れた。彼女は蒼穹城國綱との挨拶を経て、俺と正式に歩んでくれると言ってくれた。
俺が死ぬまで、その関係は続く。
長い付き合いになる。
だから、俺は手を差し出す。
オニマルは、涙を目に沢山ためて俺を見つめていた。
それは、最初に流していた拒絶の涙、拒否の涙ではないように思える。
彼女は泣きながら、笑っていたんだ。
『では宜しくたのむ、ゼクス』
次回は冷躯さん戦闘回。
次回更新予定は明日? 今日?
多分明日ですね。




