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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3章 11家緊急会議
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第064話 「決着」

「自分自身のやっすい命を取るか、この刀を返してもらい自分は死ぬか。選べ」


 八龍ゼクスの口調は、実に淡々としたものであった。感情はほぼ込められておらず、ただ事実を突きつけるように蒼穹城そらしろしんへ選択を迫る。

 命か、それとも刀か。仮に進がどちらをとったとしても、ゼクスに直接的なダメージは一つもない。


 命を取れば【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を手に入れた上、勝利するため【なんでも】【すきなだけ】願いを聞き入れてもらえるという。

 最初に蒼穹城側が要求に【顕煌遺物ゼガシー】は含まれないといった時、ゼクスはすでに勝利を確信していたのだ。


 刀を取れば、それもそう変わらない。ゼクスは完全に進への復讐を完遂できるがゆえに、所有者を指定した【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】は蒼穹城家を拒絶するだろう。


 もともと、【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】は蒼穹城家のものではない。蒼穹城家初代当主である、「空城そらしろ國綱くにつな」のものである。代々形式的に受け継がれているだけであり、真の所有者は【顕煌遺物ゼガシー】自身が決めるものだ。


 それを分かっている来賓客の数人は、ゼクスに興味を持った。

 神牙ミソラは彼をもっと研究したいと考えたし、終夜スメラギは古都音の想い人を認めても良いのではないか、寧ろ嫁がせたほうが良いのかもしれないと判断しかける。


「ぼ、僕は」


 その意味を理解できないほど、進は馬鹿ではなかった。

 自分の力を過信していたとはいえ、価値は充分に分かっているつもりだった。

 ……つもりだっただけで、自分に真価を発揮しない【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】に対して役立たず呼ばわりはしていたが。


 ゼクスが進に選択を迫る中、声を上げたのは来賓席から立ち上がった現代当主のこうである。


「ま、待ってくれ」

「まちませんよ。フィールドに入ったら貴方も敵とします」


 決闘のフィールドへ、飛び降りかけた劫に対してゼクスは忠告を与えた。

 蒼穹城家親子を含め、会場には誰一人。彼が【顕煌遺物ゼガシー】の所有権を手に入れて真価を発揮させていながら、その能力を全く使っていないと判断していなかった。


 輝きがハッタリであると誰も、考えなかった。

 それ故に、今八龍ゼクスに「敵」と判断されるのは彼への敗北と直結する。


 フィールドに降り立つのを諦めた劫と、フィールドに突っ立って居る進。

 二人を交互に見ながら、ゼクスは笑う。


 顔を大きく歪め、さも愉快そうに笑っていた。

 愉悦ゆえつを覚えていた。


「乱入して俺と戦い、勝っても負けても蒼穹城家の名前に泥を塗るか」


 【神牙シンガ結晶】の効果がやっとこさ薄れ始め、ゼクスの顔に狂気が浮かぶ。

 狂ったようにひとしきり笑って、ゼクスは目の前の人間を、愚者そらしろを見つめる。


「あ、どっちとしてもこんな男がいる時点でそう変わらないか」


 挑発に、2人とも動くことができない。

 ゼクスは高笑いし、静まり返った会場を見渡す。


 その姿に、来賓席に座っていた冷躯れいく終夜よすがらスメラギたちも。

 観客席にいた、八龍カナンさえも。


 ――全員がドン引きしていた。


 ただ数人、神牙かみきばアマツや終夜古都音ことね鈴音すずね冷撫れいなだけはそれぞれ別の思いを抱いていたが。


 神牙アマツは、ゼクスがそうやった意味をわかっていた。

 出来るだけ他人に迷惑は掛けたくないらしいが、今回は完全に度外視しているようだと、冷静に分析している。


 終夜古都音は、蒼穹城のことなどどうでもよく。

 ただただゼクスがこのまま壊れきってしまわないか心配していた。深い闇を負ったゼクスを救いたい気持ちが心に充満し、いつの間にか彼を思って静かに涙を流す。

 隣で父であるスメラギがドン引きし、「でもアレだけ敵に容赦ないなら」などと口走っているのを聞いて、認めてくれそうだと安堵もした。


 鈴音冷撫は、目の前に起きた状況にたいして自責の念を抱いている。

 自分たちのせいでゼクスが復讐心を我慢し続け、今の状況を作り上げてしまったと、己を責めていた。更生させようと考えていた自信が間違っていたのかもしれないと。



 様々な思いが交錯し、しかしどれも捻じれ交わることの少ない空気の中。

 劫は頭を下げてゼクスに懇願する。


「……私はどうなっても良い。息子を助けてくれないか?」


 蒼穹城家が一少年に頭を下げる、という前代未聞の事態にも。

 ゼクスは取り合わなかった。


「遅い。なら、あの時にもう止めるべきだった」


 視野の狭くなりつつある彼は、そういって吐き捨てると誰もが「怖い」と判断しそうな顔で、次の言葉を口にした。

 見捨てられたあの日。彼らはどんな視線で自身を見、どれだけ汚い言葉を吐き捨てたか。

 ゼクスはもう、明確な言葉を覚えていない。覚えていられないほど、憎しみを持った。


「【髭切】という刀が何故、【鬼丸】と呼ばれるようになったか、知っているか?」


 その言葉に、蒼穹城親子はぞっとした。

 

 ゼクスが別の【re】式を重ねがけして、刀身に影響をおよぼす。




「【(フォ)】:【re()】:【ject(ジェクト)】」


 単語の意味は【拒絶】。刀身にそれを付与し、ゼクスは蒼穹城に斬りかかった。

 刃の抵抗はない。そのまま豆腐を両断したように――右目が弱くなっている方。




 蒼穹城進の右手を、ゼクスは【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】で切り捨てた。。




「この腕1本が、【顕煌遺物】と同じだけの価値あるものか?」


 進は声を上げることができない。其の【権限】を持っていないかのように。

 右目の次は右手を失い、血が噴き出す。


「目の前に居るお前が、俺をゴミ呼ばわりできるレベルの人間か?」


 ゼクスの目は冷ややかだった。同時に復讐心も大きく冷めていた。

 意識が朦朧もうろうとしてきた彼に、再び選択を迫る。


「さあ、答えろ。本気で命か刀か、どちらを選ぶ」


 進は親のほうを見つめた。劫の姿すらまともに認知できない。

 早く終わらせないと、死ぬ。


 【顕現者】は一般人よりも頑丈としても、血がなくなれば死ぬ。


 死ぬのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。


 進は、自分の命を選ぶ。


「命だ」

「なら、つまり――。今の蒼穹城は、まったくもって"彼女"の気持ちを理解していない」








 消えろ、と。



 ゼクスは、次こそ蒼穹城を肩から腰へ、一直線に切り裂いた。

実際の刀と意味を混同したり、名前を混同したりがありますが仕様です。


次回更新予定は今日……? 書けたら出します。

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