第062話 「【髭切鬼丸】との対話」
俺が【顕煌遺物】の【髭切鬼丸】を手にした瞬間、目の前は真っ白になって。
なんだか白い空間に俺はふっとばされていた。
「何、ここ」
思わず、声が出る。ええと、本当に今さっきまで俺は蒼穹城進と戦っていて、彼から引き剥がしたんだっけか。
で、キチンと装備したらこうなった。
なにこれ。
で、目の前の女の子はなんだ?
おほー。ロリに興味は無いが、くっそ美人になりそうな容姿だ。
一番似ているのは……んああ。
古都音先輩に似ている気がする。姫カットの場所とか。
服装は和服で、胸は壁。
「貴様が我の新しい所有者か」
「……おほー」
鈴のなるようなコロコロとし、凛とした声。
決して殺殺ではない、決して。
あ、これ「我」とか言っちゃうやつですか。ありがちな設定ですね。
冷静に判断したあと、俺は静かに彼女の言葉を待つ。
「我の名前は鬼丸。って、蒼穹城一族の者じゃなあああああぁぁぁい!?」
突然叫んだ幼女に、俺は耳を塞いだ。
蒼穹城の一族、なるほど。これがアレだろう。
「んお。俺の名前は八龍ゼクス」
「帰れこの野郎! 我を離せ! 離せええええ!」
じったんばったんと喚く、自称オニマルに俺は首を傾げた。
は? 何言ってんだこいつ。寧ろ俺が帰りたいんだけれど、寧ろここはどこだ? と。
幼女が駄々をこね、気が済むまで待つことにした。
「くそおおおぉぉぉぉ! 誰だお前はぁぁぁぁ!」
「……所有者として認めたのはそっちだろ。……俺だってこんなつもりじゃなかったさ」
そう言った俺に、目の前ののじゃロリは泣きわめいた。
嗜虐心のそそられる素晴らしい涙だ。手籠めにした……いや何でもない。
「嫌じゃ嫌じゃぁ! ……我は國綱と約束をしたのじゃ」
「そんなになら、正直俺はどうでもいいから良いけれど」
「それが駄目なのじゃ」
國綱? 誰だそりゃ。
まあ、俺が「蒼穹城一族」でなく泣きわめいているのなら思い当たる節はある。
初代蒼穹城家当主だ。
ちなみに、一度所有者を決めてしまったら俺が死ぬまでそれは取り消せず、他に所有者を決定することもできないのだとか。
「うわーそれは大変だなぁ、でも俺本当にどうでもいいんだよなぁ」
「貴様に絶対力は与えん」
「なら廃品処理だな。折るから」
「折る!? 我を!? どうやって!?」
ほほう。恐らく、どのくらいの力を与えるかは【顕煌遺物】が決めるんだろう。
だから、相手はそれをネタに脅そうとしている。
残念ながらそれだけだ。俺に彼女からの力は今のところ必要ない。
それならば、オークションにかけるか捨てるか、しか無いだろう。
「同じ【顕煌遺物】にぶつけたら壊れるよなぁ?」
「…………」
その沈黙は肯定をさす。
可能なんだろうな。まあ、そんなことだろうと考えていたけれど。
【三貴神】に頼んでぶっ壊してもらおうかな。「勿体無い!」って言われそうだが、持っている意味が無いのなら意味が無いし。
さてどうしようかなぁ、なんて考えていると、彼女から俺に話しかけてきた。その瞳にあるものは恐怖だ。
「貴様から強い、蒼穹城の次代への憎しみを感じる。恨みを感じる。蒼穹城に仇なすものに、我は力を与えたくない」
「今の蒼穹城に対して何も思っていないのか。前からこういうのだったのか?」
俺は彼女に取り合わず、今の現状を問いかけた。
正直、そこまで初代と固く約束をしていたのなら、その人は偉大だったんだろう。
でも、今はどうだ?
「無論、違う。國綱は我を1人の人間として接してくれた」
「今は?」
「……物以下だ。真価を発揮できぬ器を持って、『役立たず』など言いおって」
悔しいが、認めざるをえないと言った表情の少女は、同時に寂しげにも感じた。
俺は特に憤りを感じているわけじゃない。誰かの為に何かを思うってのが、俺には多く欠如している。
けれど、まあ、俺のものになったのならば。
俺の敵でないのなら、俺は危害は与えたくない。
「そんな人でも? 蒼穹城につくのか。【顕煌遺物】の格が下がりそうな事態だな」
「……でも、約束だから」
「んな面倒なもの、破棄してしまえ」
俺の言葉に、オニマルは「ふぇ?」と声を漏らした。
口を開けたまま、「何言ってんだこいつ」みたいな目で見つめる。
だが、俺は話を止めない。
約束……ねえ。まるで代々一緒にいるから一緒にいます、と受け入れかけていた善機寺のようだ。
善機寺は何も気にせず、勝手に目をさましてくれたけれど。
コイツは無理だろうな……。言葉で聞いてくれる人間なら良いんだが。
俺は前の蒼穹城なんてどうでもいいんだ。
ただ、今の蒼穹城家ってのが最高にクソやろうだから、"彼女"をなんとかしたいだけなんだ。
敵にならないのなら、味方に引き込む!
「もう死んだんだよ。その蒼穹城國綱ってやつは。もうこの世にいない人に対して永遠の約束だあ?」
「でも、でも。我の心のなかで、生き続けている。次代も当代も、今はああでもいつか……、私が所有者と認めるような器に」
「そのいつかって何時? 祈りは本当に届くと思っているのか?」
現実を突きつける。
当代も所有者として認められてないのかよ……。
まあ、俺を認めているからそうなんだろうとは、考えたんだけれど。
いいや。
俺は彼女が【國綱】と名前を呼ぶ度に、その言葉へ他の何かが混じっていることに気がつく。
「ははん、好きだったんだな」
「……ぐ」
「まあ良いや。で、どうするのさ」
オニマルは答えない。
ただ白く、ただただ白く、広い――そんな世界に、俺と彼女はいた。
時間経過はどうなっているんだろうか。
大丈夫だろう。攻撃されているのならば、戻っているはずだろうし。
まさか、これが戻ったらスタボロになってましたなんてのは無いだろう。
……ないよな?
「お前は俺が嫌でも、一度認めたのは取り消せないんだろ」
「…………」
コクリ。頷くオニマル。
その目には涙が浮かんでいて、なるほど初代蒼穹城家当主も、彼女を人間扱いできるはずだと。
でも、彼女に認められなければコミュニケーションは不可能か。
「ならお前の力は真価を発揮出来ない状態のでいい。でも、お前は俺の物だ」
「…………國綱の墓に連れて行ってくれ」
「んお?」
俺は彼女の口調が、ほんの僅かに変わったことを感じ取った。
変に恨まれている? いや、渋々だが俺の言葉に従うことにした?
……一生の約束ってもこの程度か。なら、俺も警戒しよう。
一度あったことは再発するのだから。俺もそうされないとは限らない。
「挨拶がしたい。別れの挨拶を、したい。……蒼穹城に誇りが戻るまで、我は"ゼクス"、貴様と一緒にいる」
「その程度でいいの?」
「勿論、我は貴様に力をまだ与えない」
んあー。それはどうでもいいや。
力なんて自分のもので充分だとは言わない。
でも、蒼穹城程度と戦うのなら。自分の力を過信している人間と殺り合うというのなら。
彼女の力は必要ない。
「貴様が、誰かを想い。本気で愛することができたら真価を発揮してやる。それまでは『八龍ゼクス』、貴様をずっと見ている」
それは難しそうだ。何年先になるのやら。
でも、いいか。
……いいのか?
「良いけど……。俺、直後に蒼穹城進に酷いことするよ?」
「……完了するまで、我は一人になる」
小さな口から寂しげな言葉を紡いだ彼女は。
目を閉じ、俺の前から消えた。
そして、決闘の現場へ引き戻される。
……時間はさほど経っていないようだ。
ただ、先程になかった【顕煌遺物】の輝きが。
煌めきが、そこにはある。
「こりゃあ、いい」
次回更新は早くて今日のお昼。
何話更新できるかは不明ですが、予定を立てるなら最低3回。
今日中に蒼穹城の件は決着まで行きたい。
日常が書きたいです。
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200になったら集計して、
活動報告にて結果をお伝えさせていただきます!




