第060話 「終夜スメラギと月姫詠ザイラ」
「あら、お父様?」
私、終夜古都音は、目の前に現れた男性の姿を見て、少し驚きました。
今日は確かに「11家緊急会議」ですが、お父様がここにくるのは許可されているのでしょうか。
「久しぶりだな、我が娘よ」
ちょっと芝居がかって、お茶目にいうあたりはまったく変わっていませんね。
春休みに実家には帰りましたから、実質1ヶ月程度ですか。
変わりませんね。
「今日は見定めに来た」
「……ゼクス君のことですよね」
「ん、そうだよ。大切な古都音のボーイフレンドになるかもしれない男だからね」
その言葉に、私は自分の顔が赤く染まるのを自覚しました。
……私は、ゼクス君のことが好きなのでしょうか。
最初から好きだったというわけではない、それはわかっています。
初対面の時は、失礼ながら可哀想だと考えておりましたから。
「刀眞家の婚約要求に拒み続けてよかったと、考えられれば良いのだが」
「ゼクス君は強いですよ。同時に、助けたくなるんです」
「はは。随分と気に入っているようだ」
やっぱり、好きなんでしょうね。
彼のことを思うたび、胸が暖まるのです。
この前の時間は幸せでしたから。
「一生支える決意がもう出来ているのなら、あとは私が許可するだけか?」
「……そうですね」
そでも今回の決闘次第だ、とお父様は言います。
……決闘?
とんでもなく嫌な予感がして、私はそちらを振り返りました。
思えば、先程から生徒の流れる向きが一定です。
「失礼します、終夜家当主。スメラギ様」
と、……鈴音冷撫さんがこちらに駆け寄ってきました。
……ゼクス君の名前を悪く言えないのは、お父様の名前のためです。
王のように堂々とした人間を、という意味らしいですが。
「冷撫かー。久しぶりだね」
「ご無沙汰してます。……正午から八龍ゼクス 対 蒼穹城進の決闘が行われるそうです」
「うん。あと10分しかないな……」
「来賓としての扱いをさせていただくそうで、席に案内いたします」
そう言った冷撫さんの顔は、無表情で。
どこか不気味な雰囲気すら醸し出していますが、お父様は気づきません。
私を睨んでいる……感じもしますね。
……何かしましたっけ、覚えがないのですが。
こちらも、観客席には向かったほうが良いかもしれません。
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八龍ゼクスと蒼穹城進の決闘が行われる会場には、それこそ数千人の観客が押し寄せていた。
ある人は蒼穹城家に八龍家が逆らったことを嘲り、ある人は八龍家が蒼穹城家に反逆したことを喜び勇気を与えられる。
そんな中、11家は当主と次代が席に座り、来賓席で待機していた。
「全く心配していないって顔だね、冷躯」
「……ザイラか。正直心配する必要はないよ、ゼクスだし」
冷躯に話しかけたのは、月姫詠家当主のザイラであった。
派手というよりはもはや、ケバケバしい域に入る服に体を包んだ女性は、冷躯の言葉に興味を持ったらしい。
元は美女なのであろうが、その服装がそれすらを霞と変えている。
「冷躯は、自分の養子を信用しているんだね」
「勿論」
そんな男の笑顔を見て、ザイラは小さく「もっとアタックすればよかった」などと反省しているが、冷躯は気づかない。
冷躯とザイラは同級生だ。神牙ミソラや八龍カナンもそうであり、また蒼穹城劫もそうである。
「ゼクス君って強い?」
「強いよ。……多分、本気をだすと俺よりも強いと思う。【顕現】ではなく、勿論他の要素を含めれば――のはなしだけれど」
その言葉に、ザイラは目を見開いた。
ザイラは彼の青年期を知っている。何せ彼女たちもこの学園の卒業生で、7年間生活をともにしてきたからだ。
当のそのころは、こんなにけばけばしい格好ではなかったが。
ちょうど、制服を改造して着物風にしていた程度ではある。
その中でも、八龍冷躯という人間は頭一つどころか、人ふたり分ほど他の人よりも強かった記憶がある。
冷躯という男は才能に恵まれている方でありながら、努力を惜しまない人間だった。
ザイラはそこに惹かれたのだ。だが、ザイラが16歳になる頃にはすでに彼女の親友でもあるカナンが側にいて。カナンの事を思って、ザイラは身を引いた。
「ザイラはもう少し清楚な服装にした方がいい」
「……べーっ」
指摘され、昔を思い出したザイラは舌を出した。
そして、次の冷躯の言葉に赤面する。
「ソッチのほうが何倍も綺麗だ」
「……何、口説いてる?」
「口説いてない」
俺にはもう妻がいるし、と冷躯。
冷躯を、娘の斬灯と当主ザイラは同じジト目で見つめていた。
「待って。斬灯ちゃんも待って」
「でも、母さんは独り身ですし、どうですか」
「何を薦めようとしているんだ」
がしがし、と斬灯の頭を冷躯は乱暴に撫でる。
斬灯はというと、特に嫌がらず寧ろ懐いている方だろう。
「ゼクスを頼むぞ。斬灯ちゃん」
「でも、八龍君には古都音さんが」
「そういう意味でなく。……まあ、ザイラみたいに後悔したくないのなら攻めてもいいかもな」
冷躯の言葉に赤面する斬灯。自分のつぶやきに気づいていたらしいことに気づき、同じように赤面するザイラ。
べ、べべつに私はそういうことは……と言いかけて、そういうことなのかと一度胸の中で斬灯は考える。
……そういうことか。
ムキになるのも、彼の昼食をつまみ食いするのも、そういうことなのかと考えてみる。
年頃の女子は、もう止まらなかった。
「まあ、とりあえずは決闘だ。あまり心配はしていないが、もっと凄いことをやらかしそうで俺は楽しみ」
「……ゼクス君なら、【顕煌遺物】を強奪しかねなさそう。……少なくとも私から見た彼の性格だけれど」
決闘はそろそろ始まろうとしている。
二人の男子候補生が10メートルほどの距離を間にして対峙しており、その真中には1人の男が審判を務めることになっていた。
中立を保ってきた神御裂創空郎。
その目の前で、ゼクスと進は睨み合っていた。
進は【顕煌遺物】を構え、ゼクスは未だ何も【顕現】していない。
ゼクスの腕にはバングルが無くなっており、彼が本気で来ることは進にも理解できた。
が、今更止まらないのだ。
どちらも。相手を滅ぼし尽くすまでこれは止まらない。
……そう思われていた。
その後、ザイラの公的な服装が驚くように清楚なものになったのはまた別のお話。
さっきの更新から2時間しか経っていない事実。
次回更新はまたもや今日です、この調子だと行けそうですね、4回以上。
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