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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3章 11家緊急会議
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第055話 「同調」

 なんだか安心した気持ちになって、俺はそのあと先輩と一緒に色々な話をした。

 かなり優しい人間だとは思う。


 どうも、彼女と話をしているととんでもなく安心する。

 やっぱり冷躯れいくさんと同じ人種だ。相手を信用させえる何かが、そこにある。

 

 しかも彼女は、決して俺の否定をしない。

 古都音先輩の行動原因は、「俺がこれ以上傷つくのが嫌」が一番らしい。

 「復讐は何にもならない」というわけではなく「復讐によってゼクス君が傷口を抉るのが嫌」と。


 そう考えると申し訳ないが、今更中途半端にやめるわけにも行かない。


『大丈夫! もう5年間で抉れきったよ!』と明るく冗談めかして軽口を叩きたかったが、本気で泣かれそうだったからやめた。


 ……どうにかして、刀眞家全員を決闘に引きずり込んで殺せないものか。


 と、俺は辺りを見回して。

 目線の先に何かが写っているのを確認した。


「古都音先輩」

「はい」

「……あれ」


 俺が指差した方向を、目を細めて確認した彼女は一瞬だけ動きを止める。


 表情も固くなった。がすぐに元の優しい顔に戻ると、なんでもないようにこちらへ言葉を返す。


刀眞とうまさんと、善機寺ぜんきじさんですね」

「うん」

「……え、ちょっと」


 古都音先輩。立ち上がった俺を見て唖然とする。

 いや、そんな顔されても。


 彼女が立つのを待って、善機寺たちの方をもう一度見やった。

 善機寺は両足に包帯が巻かれており、骨折だと判断できる。


 かなり痛々しく、申し訳ない気持ちになった。

 もともと、善機寺には恨みも何もないからな。神牙たちは対立しているからあれだけど、八龍家は何もなし。


 父さんは神牙家当主と仲がいいけれど、何かの契約をしているわけでもない。

 だから、俺は自由に動けるのだけれど。


「自分から行くんですか?」

「善機寺颯に謝りたいし」


 慌てて俺を追ってくる先輩の顔は、「頭でも打ったのか」という具合だろう。失礼な。

 俺は端から見れば狂っているのかもしれないが、分別がつく狂人だ。


 ……狂人ってなんだっけ。


「でも、私は刀眞さんと目を合わせたくありません……」

「困ったな、でもアガミから離れるなって言われてるし。……まあ、俺と一緒にいるのなら大丈夫」


 ぼそっ、と呟く彼女に俺はガシガシと頭をかいた。

 刀眞遼って言ったって、もう言ってこないと思うけれどもな。


 少なくとも俺の門前では言わないだろう。

 そんな余裕もないだろうし。


「あっ」

「……ん?」


 相手がこちらに気づいたようだ。

 俺はたった今気がついた事にしておいて、そちらを見やる。


 善機寺颯は周りを見回して……恐らく逃げ場を見つけようとしているし、刀眞遼は体中が震えていた。


 なんだなんだ、武者震いか何か?

 ここでドンパチやらかすのはよろしくないと思うけれど。


 ほら、【顕現】の……前に彼等がやっていた、【顕現属法】の波動射出がそれだよ。

 銃による抗争よりも酷いかもな。


「ほら、大丈夫でしょ?」

「……寧ろ相手が大丈夫ではないのですが」


 古都音先輩、優しいな。相手の心配をするなんてさ。

 俺は無理だわ。自分の事で精一杯だわ。


「善機寺」

「ひぃぃ!?」


 俺が彼に話しかけると、過剰に反応した善機寺は一目散に逃げようと慌てて飛び出し、そのまま前へ放り出された。

 その光景を見て彼を助け起こし、恐怖の顔で見つめられているのを確認しつつ、俺は彼と目を合わせようとする。


「今回は叩きに来たわけじゃないから、安心してくれ」

「……おう」

「申し訳なかった。復讐対象でもないのに、こうしてしまって」


 頭を下げた俺に、善機寺颯が後ろにいた刀眞遼へ「頭おかしくなったのかね」と恐る恐る質問しているのが聞こえた。

 んな失礼な。


 俺は分別できる狂人だぞ。

 ……これさっきも言った気がする。


「……俺は、もう目の敵にされたくないんだ。怖いんだ。……2回の蹂躙で、正直いまでも怖い」

「それは本当に済まない。2回めに関しては特に」


 頭をあげると、善機寺は半信半疑というよりは2割信8割疑の顔でこちらを見つめていた。


「なんて顔をしてるんだよ……俺は敵でない人には必要以上に手を出さないように勤めてるぞ?」


 俺が話しかけているのは、飽くまでも善機寺であった。

 刀眞遼が口を開いているのが分かる。こちらを見つめ、意を決して話し始めた彼に、俺は聞く価値無しと判断した。


「……反省しているよ、だから」

「反省が遅いし、どうせ怖気づいたんだろ。刀眞家は絶対に許さないから」


 言葉に、刀眞遼の表情が固まった。

 俺は善機寺に向けていた、「その他」への目つきから「敵」への目つきに変えつつそちらを向く。


「11家会議の時は後ろに気をつけるんだな。……まあ、正面から叩き潰してやるが」

「…………」

「将来の予定を全て狂わせてやる」


 ――さて、言いたいこともすんだしいいか。

 そろそろ古都音先輩も我慢がならなくなったのか、泣きそうな顔をしている。

 退散することにしよう。


 そう考えて古都音先輩の制服を引きながら、踵を返す。


 と、後ろの方から声がした。


「八龍ゼクス」

「ん?」


 振り返ると、そこには善機寺が口を開いていた。

 今日は流暢にしゃべるな。というかこうやって普通は喋っているのか。


 その表情は真面目で、こちらも顔を引き締める。

 

「……今度、大切な話がしたい」

「おう。一段落したら話をしよう」


 主語は付けなかったが、相手は「11家会議」のことだと分かってくれただろうか。

 次こそ、俺は古都音先輩を引いてその場から離れた。

次回更新は今日のお昼だと思います。

変更。次回更新は起きたら。完成しました 3:24



↓人気投票続いてます。思ったよりも反応が多い。嬉しい。

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