第055話 「同調」
なんだか安心した気持ちになって、俺はそのあと先輩と一緒に色々な話をした。
かなり優しい人間だとは思う。
どうも、彼女と話をしているととんでもなく安心する。
やっぱり冷躯さんと同じ人種だ。相手を信用させえる何かが、そこにある。
しかも彼女は、決して俺の否定をしない。
古都音先輩の行動原因は、「俺がこれ以上傷つくのが嫌」が一番らしい。
「復讐は何にもならない」というわけではなく「復讐によってゼクス君が傷口を抉るのが嫌」と。
そう考えると申し訳ないが、今更中途半端にやめるわけにも行かない。
『大丈夫! もう5年間で抉れきったよ!』と明るく冗談めかして軽口を叩きたかったが、本気で泣かれそうだったからやめた。
……どうにかして、刀眞家全員を決闘に引きずり込んで殺せないものか。
と、俺は辺りを見回して。
目線の先に何かが写っているのを確認した。
「古都音先輩」
「はい」
「……あれ」
俺が指差した方向を、目を細めて確認した彼女は一瞬だけ動きを止める。
表情も固くなった。がすぐに元の優しい顔に戻ると、なんでもないようにこちらへ言葉を返す。
「刀眞さんと、善機寺さんですね」
「うん」
「……え、ちょっと」
古都音先輩。立ち上がった俺を見て唖然とする。
いや、そんな顔されても。
彼女が立つのを待って、善機寺たちの方をもう一度見やった。
善機寺は両足に包帯が巻かれており、骨折だと判断できる。
かなり痛々しく、申し訳ない気持ちになった。
もともと、善機寺には恨みも何もないからな。神牙たちは対立しているからあれだけど、八龍家は何もなし。
父さんは神牙家当主と仲がいいけれど、何かの契約をしているわけでもない。
だから、俺は自由に動けるのだけれど。
「自分から行くんですか?」
「善機寺颯に謝りたいし」
慌てて俺を追ってくる先輩の顔は、「頭でも打ったのか」という具合だろう。失礼な。
俺は端から見れば狂っているのかもしれないが、分別がつく狂人だ。
……狂人ってなんだっけ。
「でも、私は刀眞さんと目を合わせたくありません……」
「困ったな、でもアガミから離れるなって言われてるし。……まあ、俺と一緒にいるのなら大丈夫」
ぼそっ、と呟く彼女に俺はガシガシと頭をかいた。
刀眞遼って言ったって、もう言ってこないと思うけれどもな。
少なくとも俺の門前では言わないだろう。
そんな余裕もないだろうし。
「あっ」
「……ん?」
相手がこちらに気づいたようだ。
俺はたった今気がついた事にしておいて、そちらを見やる。
善機寺颯は周りを見回して……恐らく逃げ場を見つけようとしているし、刀眞遼は体中が震えていた。
なんだなんだ、武者震いか何か?
ここでドンパチやらかすのはよろしくないと思うけれど。
ほら、【顕現】の……前に彼等がやっていた、【顕現属法】の波動射出がそれだよ。
銃による抗争よりも酷いかもな。
「ほら、大丈夫でしょ?」
「……寧ろ相手が大丈夫ではないのですが」
古都音先輩、優しいな。相手の心配をするなんてさ。
俺は無理だわ。自分の事で精一杯だわ。
「善機寺」
「ひぃぃ!?」
俺が彼に話しかけると、過剰に反応した善機寺は一目散に逃げようと慌てて飛び出し、そのまま前へ放り出された。
その光景を見て彼を助け起こし、恐怖の顔で見つめられているのを確認しつつ、俺は彼と目を合わせようとする。
「今回は叩きに来たわけじゃないから、安心してくれ」
「……おう」
「申し訳なかった。復讐対象でもないのに、こうしてしまって」
頭を下げた俺に、善機寺颯が後ろにいた刀眞遼へ「頭おかしくなったのかね」と恐る恐る質問しているのが聞こえた。
んな失礼な。
俺は分別できる狂人だぞ。
……これさっきも言った気がする。
「……俺は、もう目の敵にされたくないんだ。怖いんだ。……2回の蹂躙で、正直いまでも怖い」
「それは本当に済まない。2回めに関しては特に」
頭をあげると、善機寺は半信半疑というよりは2割信8割疑の顔でこちらを見つめていた。
「なんて顔をしてるんだよ……俺は敵でない人には必要以上に手を出さないように勤めてるぞ?」
俺が話しかけているのは、飽くまでも善機寺であった。
刀眞遼が口を開いているのが分かる。こちらを見つめ、意を決して話し始めた彼に、俺は聞く価値無しと判断した。
「……反省しているよ、だから」
「反省が遅いし、どうせ怖気づいたんだろ。刀眞家は絶対に許さないから」
言葉に、刀眞遼の表情が固まった。
俺は善機寺に向けていた、「その他」への目つきから「敵」への目つきに変えつつそちらを向く。
「11家会議の時は後ろに気をつけるんだな。……まあ、正面から叩き潰してやるが」
「…………」
「将来の予定を全て狂わせてやる」
――さて、言いたいこともすんだしいいか。
そろそろ古都音先輩も我慢がならなくなったのか、泣きそうな顔をしている。
退散することにしよう。
そう考えて古都音先輩の制服を引きながら、踵を返す。
と、後ろの方から声がした。
「八龍ゼクス」
「ん?」
振り返ると、そこには善機寺が口を開いていた。
今日は流暢にしゃべるな。というかこうやって普通は喋っているのか。
その表情は真面目で、こちらも顔を引き締める。
「……今度、大切な話がしたい」
「おう。一段落したら話をしよう」
主語は付けなかったが、相手は「11家会議」のことだと分かってくれただろうか。
次こそ、俺は古都音先輩を引いてその場から離れた。
次回更新は今日のお昼だと思います。
変更。次回更新は起きたら。完成しました 3:24
↓人気投票続いてます。思ったよりも反応が多い。嬉しい。




