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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3章 11家緊急会議
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第053話 「錯乱と遭遇」

「は……? 何いってんの」


 僕は、颯の言葉が信じられなくて、怒りがこみ上げてきた。

 これは四月馬鹿で、何かの間違いなんじゃないかなって考える。


 そうだ、はやては僕を元気づけようとして……。

 元気づけようとして、「失明した」なんていう? 普通。


「嘘だ……」


 自然と、言葉が口から漏れでた。

 これは何かの冗談に違いないと、何度も「嘘だ」と呟く。


 呟けばいつか、2人が「嘘だよ」と答えてくれるような気がして。

 でも、それはなかった。


「……じゃあ、本当に?」

「刺されたんだよ、右目を。八龍ゼクスの【顕現】によって」

「でも、出力は抑えられてる! 肌を傷つけることができないのなら、目だって傷つけることができないはずで――!」


 さらに、僕は絶対に【顕現】の防御障壁を発動した!

 それならば、貫くことなんて不可能で……!


 ということは、八龍ゼクスがルール違反をしたことになる!


 目は戻らなくても、相手を社会的に地獄に落とすことは可能だ!


「……違うんだ進」

「何が!?」


 一気にまくし立てる僕に、颯は制止するような素振りを見せた。

 でも、ソレが気に入らない。


「あいつはそういう次元じゃないんだ」

「えっ」


 言葉を続けたのは、遼。


「あいつ、無詠唱で出力の抑えられた急造の障壁だったら、素手で突破できるんだよ」


 僕は、そういう人が多いことを知っている。父さんもそうだし、【八顕】【三劔】の当主たちは全員できることだ。


 けれど、この歳ではありえない。

 何年も鍛錬を積んで、それこそ戦闘に明け暮れて……!?


「多分、5年間のうちに手に入れたんだ。血を飲むような努力をして」


 そういった遼の顔は妙に怖かった。

 努力、だってさ。努力。


「努力だって。才能のない人がやることじゃん」

「その【才能がない】人による努力で進は、こうなってるんだぞ」


 しかも、4人がかりで鎮めたんだと遼はいう。

 神牙アマツとか、蜂統アガミと協力してだってさ。


「何、裏切ったの?」

「あそこで俺がやらなかったら今頃死んでたぞ、進」


 遼の顔は厳しい。今まで僕達といて、1回も見せなかった顔だ。


「俺たちは大きな勘違いをしていたんだよ」

「……何が言いたいの?」

「ゼクスは……胤龍は、無能でも何でもないんだ」


 僕は、彼が頭を打ったのかと予想する。お前が言うなと。

 でも隣で颯も大きく頷いていた。


 なんだよ、二人共。

 ならいいよ。僕が次は1対1で戦えば、良いんでしょう?


 それで勝てば相手の無能が証明できるね、というと。

 遼は大きくため息を付いて、「全く学習しないのな」と僕を諌めた。


 今日は水曜日だ。金曜日まであと1日しかないけれど、今回は正面からなら不覚はとらない。

 この僕が! 負けるはずがない!


「片目の生活にもなれないといけないだろ」

「そんなのどうでもいいよ。僕は、八龍ゼクスに勝って無能をしらしめるんだ」


 そうと決まれば父さんに連絡だ。

 遼の情報によれば、今週の金曜日に学園ここで緊急の11家会議が行われるそうな。


 だったら、そこで恥をかかせてやる。


「父さんは指示して、義眼の手術を終わらせてるんだよね」

「……なんで知ってる」

「僕が予め言っているからさ。何かあったら全部【顕装】に変えてくれって」


 まさか、こんな早く来るなんてね。

 ……多分目は埋め込まれてる。感覚はないけれど、恐らく明日には説明を受けて簡単なリハビリが始まるはずだ。


 これなら、勝てる。


「駄目だ。……ちょっと颯、車椅子押すから相談乗ってくれよ」

「……OK」


 2人がなんやかんやで準備を始め、病室には僕一人になった。

 さっきまで大仰に両足を釣っていたけれど、あれ必要なかったんじゃないかな。それとも回復した?


 静かだ。


 ……静かだ。


 でも、僕の心は騒がしい。


 無能が今頃でしゃばってきて、不意打ちで人の目を潰してくれたこと、後悔させてやる。

 ……相手が憎しみで来るのなら、僕も憎しみで行こう。



---



「颯が、俺達から離れる……?」

「トラウマになった。もう付き合ってられない」


 善機寺ぜんきじ颯は、車いすの上で座って刀眞遼に首を振っていた。


 それもそのはず、颯は自分がゼクスからの恨みを受けていない事を明言されておりながら、実戦テストにて「見せしめ」として完膚なきまでに倒されて、今回は両足の粉砕骨折である。


 颯には、ゼクスに抗おうとする気持ちが一切消えている。

 そもそも、颯は自分が刀眞や蒼穹城と一緒にいたからこうなったのではないかと本気で考え始めているのだ。


「でもさ」

「でもじゃない。……本来、善機寺家は中立側だと文献で読んだことがある」


 颯が、父親の書斎で見つけた資料にそう書いてあったのを、今頃になって思い出す。

 親に言われるまま、彼等と一緒にいるのは間違っているのではないかと入学時点から考えているのだ。


 勿論、それを表に出すことはなかったが。



 【八顕】は最初、勢力が【三貴神】・【刀眞・蒼穹城】・【神牙】・【善機寺】・【神御裂】と分かれていた。

 神牙家は1家では研究が2家のせいで出来なくなってしまい、対抗策として【三貴神】側についたが、研究を始めるにつれて家の力が増大し、今では神牙派と呼ばれている。


 しかし、善機寺家には何故そちらについたのか、知っているのは故人になった当人たちのみであり、颯は生まれた瞬間から「そうなっていた」のだ。


「正直、さっきの進を見ただろ。言っちゃ悪いだろうが、俺には見てられないよ」

「……それはそうだろうけれど」


 勝ち目がないと、仲間内でも明確に分かっているのに本人はわかっていないのだ。


 学園の中庭を散歩しながら、2人は大きくため息をつく。


「俺達って、色々と矛盾してないかな……」

「だからこそだ。今のままでは、【悪役】として生涯を過ごすことになる」


 八龍ゼクスが刀眞家と蒼穹城家を憎んでいる限り、敵対しようとしている限り。

 颯がこの学園で生き残るには、足を洗うことが最大条件になる。


「あっ」

「ん?」


 と、中庭を周り。

 遼は突然そこに現れた人間を見て、足を止めがくがくと震えだした。

 それは颯も一緒で、今すぐ逃げ出したい気分で周りを見回す。








 目の前には、終夜よすがら古都音ことねと2人で歩いている、八龍ゼクスの姿があったから。



 双方が膠着し、その間に風が吹き抜けた。

次回更新予定は今日の夜です。だいたい22時ごろが理想。

久しぶりにハートフルにしたいです。

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