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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3章 11家緊急会議
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第052話 「嗚咽と真実」

「そのことに対しては、俺は古都音さんに止めてくれって言われたからやった。ただそれだけだ」


 アガミは、俺の言葉に臆さずそう答えた。護衛としてその発言はどうかとも思うが、気にしない方向で行こう。

 彼は、なんというか、アマツとよく似ている人間だと思った。

 自分というものを持っていそうで持っていない。


 上手く偽装で来てるんだなと感心するが、それは結局不安定なものだ。

 護衛が自分で責任を取れないでどうするんだろうなと。


「アマツは?」

「使命感を覚えたから。……絶対にゼクスを殺人犯にはしたくないなって」


 ほら。……見てよこれ。

 この2人、結局は「任務」か「使命」かしかない。

 明確に違うのは、アガミがさらに受動的で代々課された「任務」に基づき古都音先輩の意思を実行していることと。

 アマツは理由はどうあれ、自分でそう考えて動いているところだ。


「はー……。俺は2人を敵だとは認識したくない」

「……俺だって、ゼクスを救いたい」


 アマツは俺から目をそらそうとしていない。

 使命感というただ、自分が信じる何かを信じ続けているのだろう。

 俺にはその目おを、拒絶することができなかった。


 たとえ使命感だけで動いているぶっ飛んだ人間でも、それは彼が感じて彼が信じた選択だ。

 でも、出来れば最後にして欲しいかな。


「アガミは?」

「古都音先輩がゼクスを気にかける限り……」

「そうじゃなく、君の意思は?」

「俺の意思は関係ないさ。古都音先輩が味方をするなら俺もそうする」


 どうも、こういう状況ではアガミと話が通じないらしい。

 彼の中に、自分がこうしたいというのはないんだろう。


 古都音先輩が望むなら命だって捨てるんだろうな、と彼の姿を見る。

 何か感情はないんだろうか、ただ「任務だから」なのか、それとも愛情や恋愛感情があってのことなんだろうか?

 俺にはわからない。人の気持を察する能力が長けているわけではない。


 おそらくこうだろうな、と考えているものは間違っている事が多々ある。


「まあ、良いや。……アガミ、アマツ。また宜しくな」

「こちらこそ」


 そういってアマツは笑い、アガミは外で待っているみんなを呼びに行った。


「話は終わった?」

「ああ、迷惑をかけた」


 それからは、退院可能になるまで穏やかな時間が夜まで続いた。

 


---



「……目が覚めたか、しん


 ……ここは、どこだ?


 目を開けると、そこには白い天井が広がっていて、

 少し首を動かしたら、そこにはりょうの姿がある。


 僕は……どうなったんだ?

 最後の記憶が……分からない。


 何をしていたんだろう、この……今日は何曜日だ?


「……この包帯は何? 僕は、大怪我をしたの?」


 ベッドを起こしてもらって、僕は1人泣いていただろう遼を見つめた。

 首を少々回すと、そこに眠っているはやての姿が見える。


 ……契もここにはいないし、どうもさっきから視界が狭い気がする。


「何も、覚えていないのか?」


 遼のその声は、震えていた。僕は「遼が遼だってことは分かるよ、問題ない」と答えて、はてと首をひねる。


 ……遼との距離が、正確に判断できない。


 頭に巻かれた包帯に気づいて、彼に状態を教えてもらう。

 あの日、何があったのか。


 遼は最初話をしたがらなかったけれど、僕が強い口調で命令したら口に出した。


 どうも、僕は……。

 僕は、ツグの報復を受けたらしい。


「5年の積もりに積もった恨みが、一気に胤龍を押し出したんだと思う」

「なに、それ。……劣等種に僕が完敗したってこと? 颯も体中包帯で一歩も動けないだろうし、……アレは?」


 アレ、とは勿論。契のことだった。

 確か合同の授業を受けて……。


 ここで、僕は一つのことに気がついて遼に問いかける。


「……なんで、片目が見えないんだ?」


 遼が堪えきれず、嗚咽を漏らした。

 彼の涙は初めて見た気がする。今までさんざん周りの人を馬鹿にして、嘲って笑って。


 そんな人が、僕の質問一つに涙を流している。


 僕は不思議に思って、「どうしたんだよ」と。

 でも、彼は答えようとしない。


「感覚がないんだよ、なんか。動かそうとしても、動かないっていうか」

「…………」

「目がつかれるんだ。……どうしたの、黙ってさ。泣いてさ。……あの時本当、何があったんだよ」


 遼が、重い口を開く。

 何度か発声しようとしているようにも見えたけれど、それを声に出すことができないみたいだ。


「……何だよ遼!」

「やめとけ……、進」


 隣から声がして、僕は颯の方を向いた。

 いつの間にか起きていたみたいで、僕を見つめている。


 颯は両足を紐に括りつけられていた。

 骨折なんだろうね、多分。


「颯は知ってるの? 何が起こったか」

「知ってるさ。……でも、俺は言いたくない」

「なんでだよ!」

「……言ったら、進が絶望するからだ」


 僕はその言葉が理解できない。

 契を手に入れて、蒼穹城という力を手に入れた。


 なのに、なんでそもそも八龍ゼクスなんかに負けたんだ。


「負けたのは自分の問題だろ、ただ練習を怠っただけだ。……俺は、怠っていなくとも足元にも及ばないが」

「何が言いたいんだよ……」

「俺から真実を言おうか? 嘘じゃないからな?」


 今日は流暢に話すな、と感想を抱きながら僕は頷く。









「蒼穹城進。お前は右目を失明した」

次回更新予定は今日。次回引き続き蒼穹城目線から始まります。



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