第051話 「ゼクスの目覚め」
……なんだか、俺はふわふわした場所に1人で浮いていた。
上下左右が本当にソレなのかもわからない。宇宙というのはこういう感覚なのだろうか、と考えながら俺は漂っている。
すこし離れたところに、3つの空間があった。
一つは蒼穹城進に俺が何度も何度も、見捨てられる空間。
一つは東雲契に俺が何度も何度も、見捨てられる空間。
一つは刀眞家の意思により、俺が何度も何度も窓から投げ飛ばされる空間。
けれど、今の俺はそれを見ても、何の怒りも湧いてこなかった。
もう、「復讐」のための力は手に入れた。これからはただ、これよりも酷い事を相手にしてやればいい。
過去に怒りを向けたって帰ってくるわけではない。
俺には父さんや母さんが、アマツや冷撫が、アガミ達が……俺を支えてくれているのだから。
「……なんだなんだ、俺の部屋でお通夜か?」
目が覚めると、まず目の前の光景を見て俺は、嫌な顔をした。
アマツに冷撫、アガミに古都音先輩、アズサさんに鳳鴻、月姫詠。その全員が厳しい顔をして俺を見つめたまま、何も話をしようとしない。
俺、目覚めたんだし少しは喜んでくれよと釈然とせず、彼等の返答を待っていると予想外ながら……一番最初に口を開いたのは鳳鴻であった。
「精神に問題はないかい? どこか欠如したとか、殺意が止まらないとか」
「心配してくれているのかどうかはわからないけれど、問題はないよ」
答えると、全員が一同に安心したような表情になる。
やっぱり心配はされていたみたいだ。ところであれから何日経過したんだろう?
あの2人はどうなった?
「経過したのは半日。神牙家当主様から新しく調整した【神牙結晶】を受け取り、効力をなしていると判断した時点で目覚めさせたよ」
鳳鴻が、俺に説明をしてくれた。
俺はどうも、昨日あのまま感情が暴走してやらかしたそうな。
何やったっけ、よく覚えてないぞ。
「善機寺は足を粉砕骨折、全治は多分数日で。蒼穹城は右目が一生使えなくなった」
蒼穹城に対してはやってやったぜ、としか感情が湧かないが……。
善機寺には悪いことをしたな、と思う。
復讐対象は3人で、善機寺は何もしていないのになー。
とばっちり、なんだよな……。
「……あの、もうやめにしませんか?」
呆然と次どうするか考えていた俺に、そう言ったのは古都音先輩だった。
目には涙をためていて、俺を見つめている。
は? と。
俺は彼女の言っていることが数秒理解できず、首を傾げた。
「何を?」
「……あんなに、ゼクス君の心を壊すようなこと、やめませんか?」
「やめないですよ」
古都音先輩の言葉に、俺は即答する。
彼女が俺を心配しているんだろうということは分かる。
けれど、やめるなんて勿体無い。
5年間の恨みなのだ。俺の心を壊し、ねじ曲げた人々に対して報復して、何が行けないというのだろう?
心はもう壊れているから、もう壊れようはないし。
「邪魔はしないでくださいね」
出来るだけ、相手の気に触らないよう気をつけながら柔らかい口調で忠告をしておく。
古都音先輩はそれを受け止めつつも、反論があるように口を開いた。
「でも、このままだと」
が、それにかぶせるようにして俺は意見をシャットアウト。
彼女の目を見つめ、出来るだけ笑いかけるように努力をしながら条件を示す。
「……では、復讐が終わったら俺の心を癒やしてください」
多分これで古都音先輩は言葉の意味を察してくれるだろう。
彼女が頷いたが、様子が変になったのは全員だった。
特に冷撫とアガミの表情が目に見えて変わる。
冷撫は途端に不機嫌になったし、アガミは安堵の表情が真面目な顔になって古都音先輩の反応を伺っているようにも見える。
アズサさんたち女子勢は何故か顔が赤くなっているし、アマツと鳳鴻は口笛を軽く吹いていた。
そして当人の古都音先輩は、俺の言葉を聞いて少々元気が出たようではあるが、不安点が残るらしく。
「……でも、私は。刀眞遼さんに……」
「それなら丁度いい。その時に決闘の場を用意してくれれば、こちらもわざわざ仕掛ける必要がなくなる」
ほらね、やっぱり俺は人を利用する傾向にあるようだ。
勿論。古都音先輩のことが嫌いなわけじゃないけれど、それでも一番は復讐だ。
蒼穹城に対しても、片目だけか。骨折はそれこそもっと酷い状態にしなければ【顕現者】のことだから長くても数週間で治ってしまう。
……金持ちはどうせ義眼【顕装】を購入するんだろうし、あまり変わらないんだよな。
まあ、それでも人間の目を再現できるわけじゃないけれど。
【顕装】なんて燃費の悪い事この上ないのに、それを常時使わないとだめ、というのはかなり酷だろう。普通に嵌めこむだけの義眼を使うんだろうか?
ざまあみやがれ。
「……はい。全てが終わったら、私が一生分支えますから」
えっ?
俺は、どうも彼女に重大な勘違いをさせてしまったらしい。
でも、婚約を迫られている人を救うならそれしか無いのか。
……その頃には、全てが終われば良いのだけれど。
「ちょっとアマツと2人で話がしたいんだけれど……」
古都音先輩から目を離し、俺は次にアマツに目を向けた。
何か、大切なことを思い出した気がする。
それこそ、アマツとの関係がこれから変わっていくほどの。
「分かった。……そうそう、11家会議が金曜日ここ八顕学園で行われるからそれだけ頭に入れておいて」
鳳鴻にそう言われ、頷く。
緊急の11家会議か。
……多分、俺のことなんだろうな。
みんなが鳳鴻に急かされて病室から出ていき、そこにいるのは俺とアマツだけになった。
彼は深刻な面持ちで、何を言われるのか理解しているようにも見える。
「昨日さ」
「…………」
俺はアマツから目をそらし、病室から出て行っていなかったもう一人の男を見つめた。正しくは1度出たが、今さっき勝手に入ってきたというべきか。
目の前に居る2人の「あ」から始まる名前の男子は、俺を見てなんとも言えない表情になる。
「昨日のこと鮮明に覚えていないんだけれど、最後の方に刀眞遼と協力してなかった? お二人さん」
次の更新予定は流石に明日です。いつもどおり早まるかもしれませんが。
人気投票を見てて気になったんですが、
ゼクスは復讐を最後までやりますからね……?
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