第049話 「問題への動き 弐」
「……なんで、こうなったんだ」
俺、刀眞遼は、集中治療室で目の手術を受けている蒼穹城進と、
同じく手術を受けている善機寺颯。
体力と精神力の急激な枯渇により危ない状態である東雲契の3人を見つめて、何もできない自分に歯がゆさを感じていた。
「……刀眞遼さんですか?」
「はい」
医者が俺を呼び、俺は頷く。
事情を知っているのだろう、彼は全員分の様態を厳しい顔で説明してくれた。
進は、片目の回復が【顕現者】の回復力を持ってしてもできず失明。その他骨折が何本かあるが、それは一週間もしないうちに回復する。
完全に使えなくなった右目は摘出して、義眼を嵌めこむらしい。
颯は足から観客席に突っ込んだため右足が粉砕骨折。左足もそれとそう変わらないが、どちらとも1ヶ月かかるという。
「相当実力の段階が高い相手に、双方とも傷めつけられていますね。……【顕現者】というものは、無意識の間に自身を守るため【顕現】を発動しますが、それが全く機能をなしていない。身体強化も……」
そう言って、医者は首をふる。
俺が話を続けてくださいと先を促すと、次は契の状態説明だ。
「少し前に神牙アマツさんが枯渇により入院されましたが、それの6倍以上酷い状態です。……かなり重度な昏睡状態です。体の中の顕現力がほぼ残されておらず、精神力と体力も微々たるものしか残っていませんでした。……話によると、貴方達は彼女を『電池』扱いしたらしいですね」
その言葉は、強く俺の心に突き刺さる。
進を止められなかった俺の責任だ。
そう、全ては俺の責任なのだ。5年前から、こうなることは決まっていたのかもしれない。
胤龍を俺たち刀眞家と進と契が見捨てた日から。
あの時、俺が胤龍を邪魔だと思っておらず庇ったら。
見捨てたあと、胤龍を探しに行っていたら。
一緒に両親に懇願していれば。
全ては「たられば」のことだ。しかし、そう思わずには居られない。
「八龍ゼクスは……どうですか?」
「それは伝えられません。亜舞照家当主から禁じられています」
その後も、医者から教えられるだけのことを教えてもらった。
この学園が始まって以来の最悪な事態だということ。
11家会議が金曜日……緊急で行われること。場所は八顕学園だ。
「……11家の当主が全員集まるとか」
11家会議。正しくは『日本顕現者協会常任理事会会議』。
普段は年によって違うけれど、だいたい3ヶ月に1回か4ヶ月に1回が通例のはず。
今年は前者のほうで、入学前に顔合わせで当主と次代候補が集まったが、そこに八龍ゼクスの姿はなかった。
ああ、そうか。
俺達に悟られないためだったんだな、と。
「善機寺さんと蒼穹城さんは手術が終わって少しすれば目覚めるでしょう。……そばに居てあげてくださいね」
「……はい」
いつの間にか、俺の目からは涙があふれていた。
自分のせいで変わってしまった弟と。
自業自得だが目を失った進と。
とばっちりを食らって足を砕かれた颯と。
非人道的な扱いを受けて危険な状態である契と。
それらを見て何もできないでいる自分に対して、感情が入り乱れる。
……決意はできた。
まず、胤龍からの「罰」を受けよう。
そして、これからは自分がしてきたことを改めようと。
場合によっては、刀眞という名前を捨てなければならないが……。
俺の中で、確実に何かが変わり始めた瞬間だった。
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「……まあ、自業自得だな」
蒼穹城邸の書斎で、1人の男が深い溜息をついていた。
外見はひげを蓄えた厳容な男性。毛の色は息子である進と同じ青で、進が順調に成長したならばそうなるだろうと感じ取ることができる。
名前は蒼穹城劫という。
「頼むから泣かないでくれ、司」
劫は、自分の向かい側に立って涙を流している女を見つめた。
黒く長い髪の毛を、短く切りそろえた淡麗な女性の名前は蒼穹城司。
彼の妻であり、進の母親である。
「蒼穹城の名前を持つ限り、この危険は考えられてきたことだ。私は進に、『どんな事があったとしても、友人は見捨てるな』と伝えた。ほかはどんな扱いをしたとしても、と」
けれど、蒼穹城進はそれを守らなかった。
蒼穹城の名前を借りて調子に乗ったかもしれない、【八顕】という立場が、天上人か何かに勘違いしたのかもしれない。
蒼穹城家は、代々の所業によって味方も多ければ敵も多い存在だった。味方は心酔したように援助を加え、敵は親の仇のように責め立てる。
その中には、本当に親の仇である人もいるだろう。
とにかく、進は刀眞胤龍を見捨てたのだ。「ゴミ」と相手を切り捨てたと笑った進に、普段は一人息子を許容してきた劫は、その時だけ轟雷のように怒った。
それが進に大きなダメージを与え、今は善機寺颯や刀眞遼と仲良くやって行けているらしい。
東雲契の扱いは酷いものであるが、劫が自分で責任を取れるならと容認している。
しかし、覆水盆に返らず。
切り捨てた胤龍は帰ってきた。切り捨てられた恨みを、命ではなく片目と骨数本で「今のところ」は許してくれている。
それを、劫は幸運と思わざるを得ない。
劫の弟は、報復によって命を奪われているのだから。
「自分の子だが……私としては、こう考えることしかできない」
進は、【顕現者】として同年代で見ても、特別優秀というわけではない。
そうであるのに、鍛錬すら満足に積まなかった。
溺れていたのだ、地位に。
蒼穹城家に、浸かってしまったのだと劫は確信した。
劫は冷酷な人間だが、身内にのみ柔らかさを見せている。
それを、進には友人まで拡大して欲しかったのだが……。
結果は、『大失敗』であった。
「司も、報復が恐ろしいなら……」
「私は、貴方についていくと決めました」
彼の言葉に、目の前の女性は毅然とした態度でそう返した。
その顔は未だ涙に濡れている。男は子を産まないが、女性は自分の命をかけて子を生み出した。
その大切な子が、傷つけられた。
怒りは抱いた。自業自得だとはいえ、八龍ゼクスという男を憎んだ。
しかし、問題を解決できる力は司にない。
その姿は奇しくも、蒼穹城進に酷く扱われている東雲契を、呆然と見つめることしかできない刀眞遼の状態によく似ていた。
「自業自得とはいえ、進は私の息子だ。……八龍に、落とし前はつけてもらおう」
劫は、まだ知らない。
八龍家に、神牙側全員のバックアップが付いていることを。
そして、その筆頭である神牙ミソラが。
一切の利益不利益を度外視して、『友人』である八龍冷躯を庇うだろうことを。
これで第2章は終了。
いつもどおり登場人物の簡単な説明をして……小話は今章に入る余地が無いのでまた飛ばします。
今から人物紹介を書き始めるので、第3章は運が良ければ今日の夜からになります。やる気が出れば夜が始まる前には更新できるかも。
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