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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
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第048話 「問題への動き 壱」

「……ゼクスくん」


 私……鈴音すずね冷撫れいなは、目の前の医務室で静かに眠っているゼクスくんを見つめていました、

 精神がとんでもなく不安定だったのと、【顕現】が暴走していながらも身体強化としてゼクスくんに従っていたこと。

 

 それらから、「脳が正常だと考えていながらも、暴走していた」という結論がなされ、今彼は眠っています。

 試験中の【神牙シンガ結晶】が神牙研究所から届けられるまで、目覚めることはないそうです。


 ゼクスくんの意識を奪っているのは、亜舞照あまてくんでした。


「今、精神を安定させるための効果を強くした【結晶】をこっちに輸送してる。……それが届くまで、僕が彼を見てるよ」


 亜舞照くんはそういって、私を元気づけるように頭をさすってくれます。亜舞照くんは光属性の使い手で、【顕現】されるものには精神の安定を促す効果が付きます。

 こういう風に特殊な効果がつく【顕現者】は、珍しくありません。


 けれど、ほとんどが焔属性の使い手なら【発火】とか。

 氷属性なら【凍結】などで、精神に直接干渉するものはとても珍しいものなのです。


 故に、戦う相手にそれを使うことで「戦意を喪失させる」事ができる彼に対し、抗えるほど心の強い人は1年生時点ではかなり少ないでしょう。


 だからこそ、亜舞照くんは戦闘系の授業で模擬戦はしないのです。

 しても、亜舞照くんの訓練にも、相手の訓練にもなりませんから。


「それにしても、アマツは大丈夫なの?」

「痛いけど大丈夫だ。……それよりも、今回のことは問題になる」


 アマツくんは、私達の隣で治療を受けています。

 ゼクスくんの治療を含め、今回つきっきりで治療を施している方は中立である神御裂かんみざき家に属する人物であり、情報が漏れる危険性はかなり低いでしょう。


 アマツくんの言葉に、私は困ったような顔をしました。

 古都音ことねさんもアガミくんも、斬灯りとさんもアズサさんも。


 今回の事件に、様々な問題が生じました。


 最もなものでゼクスくんが蒼穹城進の目を潰したこと。


 対立関係にあるアマツくんと刀眞遼が協力したのも問題になるかもしれません。


 刀眞家が「胤龍くん」を捨て、八龍家が「ゼクスくん」としたのも問題になります。


 暗黙の了解で「急所」を狙うのが禁止とされている、というものも問題です。


「……正直、ルールがガバガバなんだよね」


 亜舞照くんも頷きました。

 出力は抑えられている、しかも普通の人なら「普通」やってはいけないことは分かっており、それをしません。


 しかし、それを敢えて行う人も居ます。

 手加減を知らない人も居ます。


 そして今回、それが起きました。


「論理的に――って言っても、それはそれで駄目なんだよね」


 公式な試合では、「戦意を喪失させた方の負け。殺害は禁止する」というルールのみなのです。

 まあ、娯楽でされることが少ないのが唯一の救いでしょうか。


「……今回のことで、戦争になったりしないよね」

「学園のことだし、これからの対応次第かな」


 斬灯さんと亜舞照くんの話を隣で聞きながら、私はどうしようもない気持ちに襲われていました。





---



「ついにやってしまったか」


 冷躯れいくは、愕然とした面持ちのまま八龍家の応接室で頭を抱えた。隣にはカナンがおり、同じような表情でうつむいている。


 二人の向かい側に居るのは、外観的には冷躯とそう変わらない30歳代の男性だ。

 メガネをかけており髪の毛の色は燃えるような赤。

 どこか知的で、底知れない感覚を相手に与える男である。


「まだ、蒼穹城側からは何もきていないんだね」

「来てないぞ、ミソラ。今初めて知ったから驚いてるんだよ」


 彼の名前は神牙かみきば光空みそら

 アマツの父親であり、【神牙シンガ結晶】の開発者である。


 ミソラは今しがた、調整が終わった【結晶】を車にのせて学園へ向かわせたばかりであった。

 そのまま、八龍宅まで直行してきたのだ。


 事実を伝えるために、己の考えを伝えるために。


「蒼穹城側はどう考えているんだろうね。僕としては、『息子の自業自得だ』って考えてくれるのが一番だよ」


 冗談めかしてそういったミソラの言葉に、冷躯は弱々しい笑顔を見せる。

 結局、ゼクスは変わらなかったのだ。

 ずっとカナンと、ミソラたち協力者とゼクスが復讐にとらわれないよう教育してきたつもりだったし、表面的には成功していた。

 けれど、それはやっぱり表面的なことでしかなかったのだと。


 育て方が間違ったのかもしれない。

 精一杯の愛情を込めたつもりだった。

 けれど、それは所詮「つもり」でしかなかったのかもしれない。


「冷躯。そんなに落ち込むな。こっち側もなんとかしてみせると三貴神からもらった。あとは協議に持ち込むこと」

「そう言ってもらえて有り難いよ」

「まあ、僕としては正直なところ『ゼクス君グッジョブ』という気持ちだけれどもね」


 ミソラの言っている意味を汲みとって、冷躯は礼を言う。

 彼等3人は昔からの友人で、その間には利益を超越した関係がある。


 そして神牙ミソラという人物は、ゼクスと同様強く蒼穹城家と刀眞家を憎む存在であった。研究者として邪魔され、【顕現】の研究が50年遅れたという事実。

 事実は、神牙家全体をその2家への怒りで充満させるには、充分すぎるものだったのだ。


「アマツくんに、殺させないでありがとうと言ってくれ」

「僕からいう必要はない。直接言うんだ」


 しかし、保護者たちは必要以上の干渉を学園側から拒否されている。

 それは【八顕】であっても【三劔みつるぎ】であっても、例外ではない。


 しかし、疑問が顔にもろ出ている冷躯に対して、研究者であり神牙家当主であるミソラは笑っていた。






「僕は場所を用意したよ。……次の『11家会議』は今週の金曜日、八顕学園でとね」

次回更新は今日です。



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