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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
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第046話 「それぞれの思惑」

 蒼穹城そらしろしんが、声にならない絶叫をあげて、周りの注目を浴びた頃。


 観客席では、須鎖乃すさの亜舞照あまて月姫詠つきよみと終夜古都音は観客席で、顔を蒼白にしていた。


「流石に、あれはまずくない?」


 ちょうどゼクスが蒼穹城の目を【顕現】したナイフで貫いたところである。

 蒼穹城は貫かれた右の目を手で抑えながらも気絶せず、信じられないといった表情で目の前の男を見つめていた。


 何度か声を発しようとするが、口から出てくるのは掠れた悲鳴。

 目を貫かれて気絶していない時点でその気力の強さが鑑みれたが、目の前に立っていたゼクスは歪んだ笑顔をみせていた。


「痛いか?」

「……ぁぐ……」

「蒼穹城進、お前は人ごく一部の人以外を【モノ】だと認識していたよな」


 彼の声は、戦いすら放棄され尽くした静かな戦場で響いた。


 全員が彼等の「異常な光景」を見て愕然としている。その中で……。

 

 蒼穹城の息子が目を貫かれた、という事実を目の前で見た人々はそれぞれ各々の反応を示している。


 犯人に対して怒りの顔を向ける人もいれば、蒼穹城に対して今までしてきたことの報いだと嘲る人もいた。

 観客席も同じ。その中で、4人は複雑な思いを抱きながら蒼穹城ではなく、ゼクスを見やる。


「あれが、ゼクスくんの苦しみだったのですね」


 古都音は復讐の最中であるゼクスを見つめて、悲しそうな声を絞り出した。

 目を穿うがてば、一般人ならショック死すらしかけるものだ。


 それでも良いと考えたのだろうか。古都音には、ゼクスの気持ちが理解できない。

 けれど、理解しようとはしていた。


 あれが、恨み。ゼクスが5年間溜め込んできた、彼の闇だ。

 ただ――。

 それを考えてしまうだけでも、古都音は泣き出したくなってしまう。


 彼女は覚えている。刀眞遼を殴った時、彼が「悲しい」と言っていたことを。

 それでも、復讐を実行する。ということはそれなりの理由があり。


 その結果が、これだというのだろうか、と。


「なら、お前は只今を持って俺の復讐対象である【モノ】扱いしても、構わないよなぁ?」


 そう言い放ち、ゼクスは動いた。目を手で抑えて、立つのすらやっとといった様子である蒼穹城に近づくと、無造作に攻撃を仕掛ける。

 

 目標はこれも迷いなく、貫いた右目であった。

 執拗に、執拗に。傷口を抉るような攻撃を加え、それを見ていた女子生徒達が悲鳴を上げる。


 それは須鎖乃アズサや。月姫詠斬灯も例外ではない。


「……なんで、あんな」


 あんなに残酷なことが出来るの、と。アズサは震える声でゼクスを見つめている。

 斬灯に至ってはすでに目をそむけ……、その光景を見たくないと首を振っていた。


 しかし、そこに唯一居た男子生徒である鳳鴻おおとりの言葉は厳しいものであった。


「いや、全員見るんだ」

「なんでよ」

「……僕たちは、彼を気遣う義務があるからだ」


 義務という言葉に、アズサと斬灯はハッとした。

 それは、どちらかと言えば親からの命令に近い。義務、彼等三貴神に課せられた目的は「八龍ゼクスをこちら側に取り込めるようにしろ」。


 表向きにはアマツや彼等と中の良いゼクスであるが、八龍家は蜂統家と違い社会的には「中立」。

 ……八龍冷躯の代は諦め、ゼクスの代で確実になるようにしろというのが亜舞照家当主の指示である。


「でも――」

「でもじゃなく、この7年間でゼクスくんを良い方に向かわせないと、僕達の未来はないんだよ」


 それは分かっているけれど、あれはあんまりだよと。

 アズサは、ふてくされたように呟いた。


 11家だけでなく、【顕現】に関係する会社や政治やは2分されている。

 だからこそ、強固なものにしなければならないのは理解できていたが……。

 

 正直、そこに居たゼクスという少年に恐怖を抱いている。

 同時に、人というのはどこまで残酷になるか。わからなくなって頭を抱えた。


 古都音は、目に涙をためてゼクスを見つめている。


「私に何か出来れば良いのですが」

「……ゼクス君のことが気になるの?」

「冷撫ちゃんには不可能ですが、私なら一生をかけて彼を支えてあげられますから」


 しかし、それも刀眞家との話がついてからだ。

 





 試合開始から25分。制限時間が迫っても、執拗に蒼穹城を責め続けるゼクスに教師陣は制止を試みたが、彼は止まらなかった。

 殺意の塊と化していたゼクスを必死に止めようとしているのは冷撫とアマツである。勿論、そこにはアガミもいた。


 試合中には案外分かりやすい抜け道が存在し、それは「何をやっても良い」ということだ。拷問でも、なんでも。それは試合中の事故として処理されて11家であっても関与が不可能。


 【顕現者オーソライザー】という存在のリスクを考えさせるために、わざと設置した抜け道ではあるが、それを利用する人は少なかった。


 だからこそ、試合後にも攻撃すると大きな問題となる。

 しかし、制限時間はまだ、残っている。


「そのままじゃ殺人になるんだよ! ゼクス!」


 ゼクスは今、アマツに羽交い締めにされていた。

 先程から感情が口から溢れ「死ね」と口にする。


 怨嗟の籠もった一言一言は、黒い感情を周りに吐き出し、周りを恐怖させて……。

 同時に、観客席に座っている古都音達を更に心配させる。


「ただの恨みじゃないみたいな感じがするの」


 アズサは、ゼクスの感情を軽視しているわけではなかった。

 少年にもなっていない児童期に友人・幼なじみ・家族の全員から拒絶されたその心の傷は、恐らくとても深いものなのだろうと考えることは出来る。


 しかし、だからといって相手の目を潰すことはなかったんじゃないか。

 相手を殺そうとまでしなくて良いんじゃないか。


「もし、冷躯れいくさんが独自の教育を施してたら?」

「……僕はそれを信じたくないね。彼は聖人だと僕は思ってる。……そこら辺の人間よりは遥かに正義に満ちている」


 鳳鴻は何故、ゼクスがここまで憎しみを持っているのか、知っていた。


 【八顕協定】――如何なる時も【八顕】の次代は保護され。

 破門されても他の近しい【八顕】が――、刀眞家なら蒼穹城家が――保護する「義務」をもつという協定。


 それを、反故にされている。


 ……万が一の時には僕達が止めるよと、鳳鴻たちは準備に入り。

 ゼクスは、アマツに取り押さえられながらも蒼穹城に恨みつらみを吐き、蒼穹城は目の痛みに必死の思いで耐えつつ立っている。

 


 試合は、混沌を極めていた。

 

次回更新予定は今日。

これでピッタリ10万文字。

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