第042話 「能あって脳なし」
『危機感がなさすぎです。中学時代に何もなかったのですか?』
とか。
『ゼクスって、(才)能はあるけど(頭)脳は無いよな』
とか。
そこからお昼時間、古都音先輩とアマツに散々な言われ方をした俺は少し機嫌が悪くなって、座学の見学に来ていた。
見学というよりも体験授業か。上級生の姿もチラホラとあって、なるほど中学とは違い。
思い望んでいた大学生活のようだと感じる。
ちなみにいま来ているのは、【顕現式構築の基礎】。
新しい顕現式を構築するのは至難の業なのに、授業で教えられるほど簡単に何時からなんていたんだろう、と興味を持ってのことで。
しかし残念ながら、考えていたものと違う。
今既存である日本の式と、英語の式。その2つの仕組みを紐解いていくのが目的らしい。
確かに、一番わかり易いだろうけれどもさ。
そうなると、俺の顕現式が異端だってとてもよくわかるよ。
「現に今、『属性指定』『顕現形態指定』の単語2つが存在しない顕現式は存在しない」
教授の言葉で、俺は完全に萎えた。
隣に居る古都音先輩が、机に突っ伏した俺を見て「起きてください」と注意する。
でも、その言葉で机に突っ伏したのは俺だけではなく、アマツもだった。
神牙家の頭脳と八龍家の才能で一緒に、ただ一人しか扱えない【re】式を開発したんだから、それが存在することがわかっているからである。
俺のアレに、先ほど教授が言った指定は一つも存在しない。
属性もそもそも、最初から決まっているものを【re】で呼び戻し、指定した数を【4】で指定。
ここの指定は属性を指定していないため、話と違う。
そして、俺の場合は形態は不定だ。ただ、相手を【拘束】するなら鎖、状態を【巻き戻し】するなら結界を張る杭と俺が想像しただけだ。
俺が詠唱で指定しているわけではない。
「……教師・教授達にゼクスのことは知れ渡っているわけではないのか」
「この前の事件で知っている人は知っていると思う、けれど」
んな話をアマツをしていたら、教授の叱責が飛んできた。
いかにも研究者、といった顔立ちの初老。
「私語をするな。……そこ、名前は?」
俺たちは顔を見合わせる。
名前かー。
「神牙アマツです」
「八龍ゼクス」
「一つ異を挟んでも?」
名前がおどろおどろしいと感じるのは、俺だけだろうか。
俺の名前とか完全に日本人じゃないだろ、って名前してるし。
アマツは苗字の「神牙」のインパクトが色んな意味で強すぎる。
ちなみに異を挟んでもいいかと質問したのはアマツだ。
教室中が騒ぎ始めたのを見るに、つまりはそういうことなんだろうな。
「あ、うん。どうぞ」
神牙は研究者一家だからなー、そりゃあ無理だわなー。
駄目ですなんて言えないよなー。
なんて考えながら、俺は嫌な予感がした。
「指定の単語は必要なくても発動できます」
「根拠は……?」
おい、やめろ。
待て待て待て。
先程、自身に対して「才能はあるけれど頭脳はない」と言った男が何を言うか、予想出来て慌てた。
俺を資料材料にするんじゃない!
「ここに、神牙家と八龍家の研究の成果があります」
と、俺の方を指差すアマツ。
冷撫が大きなため息を付き、古都音先輩とアガミが筆記用具を取り落として昼食時とそう変わらない反応を見せた。
だからやめろと言ったのに。
この授業に蒼穹城たちがいなくて良かった、と考えたが正直知られても問題なかった。
知識として持っていても、使えないし。
「よ、よし。では八龍君、神牙君、前に出なさ……出ていただけますか?」
腰が恐ろしい勢いで低くなった教授は、俺ではなくアマツをちらちらと見やって様子を伺っていた。
まあ、そうだよな。
【三劔】って言っても、所詮は「親の実力で上級社会に滑り込んだ」だけだもんな。
本当に気にするべきは【八顕】だよな、蒼穹城や刀眞みたいに機嫌を損ねたら首から上がなくなりかねないのが居るもの。
「実演をお願いできますか?」
俺に対しても敬語を使い始めたのは、「神牙家のご子息の友人」だからだろう。
正直、教授ならしっかりしてほしいよ。
とりあえず、何だそう?
あまり、教授が教授を辞めたくなるような【奇跡】は見せないほうが良いだろう。
【リコイル】は論外だ。……そのハゲ散らかした髪の毛を元に戻してやれば、使ってもいいかもしれないけれど。
「アマツ、何か【顕現】してくれ」
「おう」
アマツは、簡単に1本の脇差しを【顕現】した。
焔が噴き上がり、彼の顕現力の強さを明確に表す。
その脇差しは、焔を煌めかせていた。金色に煌めいている焔は、彼が焔属性を基準的に「極めた」ことを表している。
「では。神牙アマツの【顕現】した焔属性の脇差しに、別の属性を付与します」
俺はアマツの手に収まった脇差しを、両手で挟むようにして詠唱をした。
出来るだけわかりやすく、1パーツずつに区切って。
付与する属性は氷だけれど、このままじゃ書き換えてしまうから。
氷と焔を思い浮かべる。
「【2】:【re】:【realize】」
動作は一瞬だけだ。けれど、動体視力のいい人には俺の掌から氷属性の青色が噴出して脇差しを取り囲んだのがわかっただろう。
俺ができましたと声を上げると、教授は信じられないといった様子で俺とアマツを見つめていた。
「今、私には『属性指定』『顕現形態指定』のどちらも聞き取れなかっ」
「ないんです」
アマツが、難しいことは説明してくれた。
……この公開処刑、別に決闘とか試合とかするときは使う予定なんだからその時でいいかなぁ!?
駄目? ……駄目みたいですね、アマツの表情を見ている限り。
冗談でなく、復讐の邪魔になるからそんなに注目してほしくないんだが。
アマツもアマツで軽率なんだよな……。
次回更新予定も今日。5時あたりになるかと




