表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
38/374

第038話 「穏やかな心境」

 そのメンバーは、ひときわ他の人と明らかに違う異彩を放っている集団だった。

 【八顕】が総数4名、【三劔みつるぎ】が2名。それに続く名家の娘が2名。


 他の人が確実に近寄りたくないレベルのそれらは、食堂の隅に集まって食事をとっている。


 そう、俺達だ。


「これは酷い」


 俺は、周りの人々がちらちらとこっちを見ながらも、目を合わせると蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを目の当たりにして溜息をつく。


 やっぱり、この学園でもこういう感じなんだなと。

 中学時代も大して変わらなかった。


 苗字が「刀眞」でも「八龍」でもそう変わらない。

 だから友人は冷撫れいなとアマツ以外、殆どできなかったわけなのだけれど。


「なーに八龍君、食べないの?」


 隣で制服改造和服女が、俺のポテトフライをつまみ食いしている。

 無遠慮な奴だ、無邪気に笑いおって。


「食べないと無くなっちゃうよー?」

「自分で購入したものが、食べないとなくなるのは不自然かと」


 彼女、月姫詠ツキヨミ斬灯りとは素知らぬ顔で俺のポテトフライを食べ続けている。

 その手を掴んで止めたのは鳳鴻おおとりだ。


「粗相はだめだよ、斬灯」

「いいじゃん、別にこんなところで何やってもー」

「僕たちは11家なんだ、公的な場所でなくても注目はされる」


 態度を云々、月姫詠に説教している彼はまるで妹に説教をする兄のようだった。

 ぶぅ、とふてくされている少女を無視して俺はやっと、半分ほどがすでに消え失せたポテトフライを食べ始める。


 ……食堂なのにレベルが高いな。そこらへんのファーストフードより美味いぞ。


 と、俺の方を気遣うように見ている2つの視線に気づく。


「……何か?」

「いえ、何も」


 1人は古都音ことね先輩だ。一昨日の涙を俺は一生忘れないだろう。

 悲しく、同時に美しいものだったと思う。それが誰のためか、俺のためか、それとも彼女自身のためなのかはわからない。


 けれど、少なくとも優しさを感じられる態度だった。


「冷撫は?」

「……何もないです、けど」


 もう1人は冷撫。どこか不機嫌そうな顔で頬をふくらませている。

 それは、俺と古都音先輩を交互に見てのようにも感じられた。


 何かあったんだろうか。俺にはよくわからないな。


「人気だねぇ、八龍ゼクス君は。私も妬いちゃうなぁ」

「妬かれる前に焼いてやろうか?」


 冗談とはわかっているけれど、アズサさんは少々アレなのではないか。

 俺の言葉じゃないような気もするけれど。


 彼女と話をしていると、どれが本心でどれが冗談なのか分からなくなる。


「冗談よ、冗談。でも……本心でもあるかも?」

「出会って一週間も経ってないのに?」


 次はコーラに手を伸ばした月姫詠の手を抑えながら、俺は質問をする。

 ええい、全員で食べてもいいものは割り勘して買っただろうが、男達で!


「レディには優しくしなさいよー」

「身長的には淑女レディでなく少女ガールだろうに、何を言っているのやら」

「いいんですー、女の子は背が小さいほうがモテるんですー!」


 彼女はそこまで言い切ってから、アズサさんと古都音先輩のほうをハッとして向いた。

 アズサさんは怖い笑顔だ。


 古都音先輩は聞こえていなかったようで、ハテナマークを頭の上に浮かべているけれど。


「ひぃん!?」

「でも、確かに冷撫ちゃんくらいがちょうどいいとは思うけれどもね。貴方は小さすぎ」


 背丈的に言えば、古都音先輩は女性の中で一番背が高いだろう。

 俺は170cm後半だが、恐らく165近くはある。女性平均よりも少々高い。


 それに追従するようにアズサさん。そんなに変わらない。

 で冷撫。冷撫が標準じゃないかな。


 で、月姫詠斬灯は恐ろしく低い。150無い。


「小さい」

「小さいゆーな!」


 アガミが正直に口に出して、後で覚えていろと恨み口を吐かれていた。


「……随分と穏やかな顔をしているな、って感じて」


 古都音先輩の言葉に、俺は先程アマツに話しかけられた時とそう変わらない返事をした。

 アマツはその言葉を聞いて、他の人々の反応を伺っているようだ。


「……何を心配しているのか、俺にはわからないかな。だって君は()()()側にいるだろう?」


 俺をなだめるでもなく、同情するでもなく。

 ただ、事実を伝えるだけの鳳鴻の言葉は、強く俺の心に響いた。


「君が昔、刀眞とうまの人間であったとしても変わらないさ。冷躯れいくさんの息子になって、5年間鍛錬を積んできたのなら、俺たちは今を見る」


 過程は大切だけれど、結果も大切だと。

 結果が良い方に向かっているのなら尚更結果を重視すべきではないかと、亜舞照鳳鴻は続ける。


「ほら、言ったろ。安心しろって」


 アマツは確かに不安もわかるが、と俺に。


「人間不信も分かるが、俺の友人たちだ。少しは信じてやってくれ」


 ……はぁ、俺はやっぱりこういうのに弱いのかね。

 一人ひとりの顔を見つめた。誰もがまっすぐ俺を見ている。


 嫌悪するような顔は見受けられなかった。


 少なくとも、この学園では。このコミュニティーでは上手くやっていけそうだと、信じたい気持ちになった。



次の更新は明日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ