第371話 「世界的作戦」
「そろそろ、颯君が行動を起こしてくれる頃だろう」
日本海。
御雷氷冷躯は、ステルス仕様に改造したクルーズ船の上で、顕現力を潜めながら、上空に浮かぶ点――。
空に浮かぶ、現在は【Revenant】の日本拠点として使われているらしい空中基地を、見上げていた。
「準備等々で、結局1週間も時が経ってしまった」
ぼやきながら、険しい面持ちで振り返ると。
そこにいるのは、9人ほどの男女。
「それにしても、よく集まってくれたな。みんな」
冷躯の言葉に、緊張した面持ちながらも朗らかに笑う彼ら。
その全員が彼の、顕察時代の元同僚である。
顕察の中で、通称「御氷隊」と呼ばれていた彼らは、元隊長である冷躯を真っ直ぐに見つめていた。
「突然、隊長が【八顕】に参入することになってから数年。
僕達は、何も動くことが出来ませんでした」
言葉を発したのは、その9人の中でも一番冷躯に近い位置に立っていた男である。
髪の毛は冷躯と同じような銀髪で、少々の黒いメッシュ。
周りに限りなく「爽やか」な、メンソール的印象を与えている男だ。
名前を、涼枢野銀という。
「だからこそ、今回の呼びかけは手持ち無沙汰気味であった我々を、呼び覚ますのに充分過ぎるものでした。
――強いて言えば、御雷氷側で私設部隊を作って下されば、すぐにでも転職するのですが」
「わかった。考えておく」
世間話をしつつ、冷躯は時を待っていた。
今回の作戦は簡単。
目的は善機寺颯の救出と同時に、【Revenant】を壊滅させることである。
世界にいくつあるかもわからない【Revenant】の活動拠点。
それを人脈と権力を総動員して探した結果、日本支部とロスケイディア支部を含む、十数箇所を発見することが出来た。
「1つずつ潰していたら、キリがない」
そう考えた各者の協議の結果、導き出されたのが。
――ほぼ同じタイミングで一斉に叩く、という方法だ。
「この辺りでシメておかないと、世界の未来を担う次代達が。安心して学園生活を遅れませんものね」
「【ATraIoEs】の襲撃――フレズ・エーテルの暴走事件と、今回の八顕学園襲撃事件。それ以外にも多々あるが、強硬手段を使うには充分過ぎる理由だ」
涼枢野銀の言葉に、冷躯は御氷隊の1人1人を見やる。
全員、覚悟の決まりきった眼をしていた。
「――颯君の颶風だ」
上空で、顕現力が爆発する。
冷躯は隊員たちに、もう一度だけ目配せをして。
一気に上空へ、飛び出した。
――――
「今頃、きっと冷躯様達が戦っているころですね」
古都音の言葉を聞いて、俺――御雷氷ゼクスはやきもきしながら学生寮で待機をしていた。
結局、この1週間。父さんには一緒についていきたいと何度も主張したが、それが聞き入られることはなかった。
ネクサスは俺達を見送って直ぐ、ロスケイディア二皇国からこちらにやってきて。
そして直ぐに、また国へ戻ってしまっている。
きっと今頃は、ネクストさんたち、ロスケイディアの精鋭と、ロスケイディアを拠点としている【Revenant】の処理にむかっている頃だろう。
――それにしても……、やることがない。
俺の役目が一旦終わった、というのも1つだ。
こちらの役目は颯を探すことで、その次は日本に他の活動拠点がないか探すことだった。
颯は一晩で探し、他の活動拠点も数日とかからずに探しきることが出来ている。
今頃、【八顕】の本家・分家の連合部隊が、処理に向かっていることだろう。
故に、俺にはやることがない。
「状況が分からないっていうのは、色々と、きついな」
「鳳鴻くんの話があるまで、動くなと言われていますしね……」
オニマルも今は、完全に沈黙している。
つまり、やることが……。と。
本日何回目かも忘れてしまった、焦りから来るぼやきを口に出そうという所に。
電話が、かかってきた。
ノベルアッププラス様にて、リメイク・加筆修正版の「四煌の顕現者―ゼクス・ファーヴニルの闘争譚―」を誠意更新中です。
ストーリーの大元も変わりつつあるので、良ければそちらもどうぞ。




