第370話 「顕現社会の常識」
気がついたら半年経ってました。失礼致しました。
「もう、沢山だ」
何日、たっただろうか。
善機寺颯は男を真っ直ぐ、その目で射貫きながら言葉を発した。
何日、何週間、何ヶ月。
どのくらいの時間が経ったかも分からない。
唯々白い空間。玉座の見える場所で、マルクトの言葉を聞いていればいるほど、戻れないような気がして。
それでも、颯の心は1つであった。
「……どういうこと?」
「もう良いと言っている。俺の心は変わらない。
洗脳も効かなければ、説得にも応じない。この場にゼクスがいない限り、俺の心もここにない」
提唱される、「一緒に、この世界へ反旗を翻そう」。
その言葉を真っ正面から一蹴した、その言葉に。
白く、人離れした美しい容姿を持つ少年……マルクトは、颯の言葉に。
初めて、顔を歪ませた。
「……君は、何も分かってないね。君は【瘴】と【燿】、2つの特異な顕現力を持っている限り、普通の【顕現者】ですらないんだ。
僕と同じ、ただの化け物だ。【八顕】の盾がなければ、今頃実験動物にされていただろうね」
ダムが決壊するように溢れるマルクトの言葉に、しかし颯は首を振る。
「もしも、の話はもう聞き飽きた」
「…………」
「未来は、今を前提にして構築される物だ!
机上の空論なんぞ、なんの役にも立たない!」
善機寺家にとって、【八顕】の権威などというのは無いに等しい。
元々【顕現】ではなく【顕現属法】を得意としていた時点で、一般に優秀とされる【顕現者】からは外れている。
そもそも、【八顕】というのは。
権威によって成り立っているものではない。
「未来が見えないというのなら……。
1人で勝手に絶望していろ」
颯の我慢の限界。
いくら【精神介入】していたとしても、その限界に気づけなかったマルクトは。
その、突然の豹変に、身体をわなわなと震わせる。
「なんで、わかって、くれないの。どうして、【友達】になってくれないの。
充分過ぎる素質は、持っているのに」
その【言葉】にも、颯は反応しない。
素質なぞ、【顕現者】であれば誰だって持っているだろう。
誰だって現在の【顕現者】社会に対しての不満は、少なからずあるだろう。
しかし、現状を今すぐ変えるために、旗を翻す必要は、颯には無い。
颯は【八顕】が一角、善機寺家の次代最有力候補である。
未来は自身が創ればいい。その為の力は、手の中にある。
……心の中にある。
「その反証が、第一に御雷氷ゼクスだから。そして第2に、俺自身だからだ」
黄緑色の、白い玉座を吹き飛ばさんとする強風……。
――颶風。
ここ数日、そもそも起動する気すら起きなかった顕現力が。
善機寺颯の内なる怒りに、反応する。
「貴様の一番嫌いな、【顕現者】社会の常識を教えてやる」
「……なに?」
「強い者が発言権を持つ、だ」




