第369話 「力の使いよう」
「鳳鴻くん。つまり、何が言いたいんだい?」
「善機寺颯の救出を優先して下さいませんか?」
会議室の外。人気のない廊下で、冷躯と鳳鴻が話をしていた。
会議室の中では既に、救出隊のメンバーも決まっている。後はゼクスがやってくれた特定から、現状どこに有るのか詳細を調べている途中だ。
「それは、万が一本当に強奪されていた場合、人質になっている人々を見捨てるようなものだぞ」
「無論、そうはさせませんが……。多分、あそこにいるのは、僕と同じような顕現特性を持った人物だと思います」
鳳鴻の考えとしては、全員洗脳されている可能性が高いということであった。
ついでに言えば、自分達が知っている以上の顕現特性を相手側が有していたとして、例えば一緒に救出してきたあとに自爆されると厄介だ――というのもあるのだろう。
冷躯も冷躯で、ずっと【不可侵】を発動させるのは不可能だ。
これでも人と比べれば充分過ぎるほどの顕現容量はあるが、無尽蔵とはほど遠い。
ゼクスが一晩中かけて日本全域に顕現力を行き渡らせるという、無茶を敢行できたのは、彼の才能と終夜古都音の協力あってのことである。
「なるほど」
「今回襲撃しに来た構成員達もそうでした。全員何故か【Revenant】に参入した以前の記憶が無い」
「君の言うことは分かるよ。……でも安心して、あの要塞は墜とさない」
鳳鴻はその顕現特性の異常さから、出来るだけ能力を使わないように努めてきた。
人の精神に干渉するのは禁忌だと考えていたからだ。
――冷躯は、そんな鳳鴻の悩みを理解できる。
彼は、亜舞照家の現当主なのだ。
「強すぎる力を持つと大変よな。……まあ、ちょっとゼクスと話をしてくるよ」
「お願いします。ゼクス君には、僕が屋上にいるって伝えて下さい」
――――
「起きてたのか、丁度はいいんだけどさ」
自室で粛々と待機していたゼクス、古都音、フレズの3人の前に現れたのは、冷躯であった。
冷躯の顔は疲れ切っている。
何かが会議室で発生したんだろう、とゼクスは考え。
しかし何も言わずに話を促した。
「その言いようだと、俺の出番はないみたいだね」
「――そうだな。颪もそうだが、ゼクスも候補から外された。俺は行く」
父さんが行くなら安心だね。
ゼクスは頷き、椅子に座り直す。
――正直、自分が行きたくないわけがない。
颯は果敢に戦ったはずだ。しかし、それでも。
実戦で何かあったのだろう、と考えるのは当然のことである。
すくなくとも、ゼクスが蒼穹城進と共に加勢に行こうとした瞬間までは、派手な敗北を予期させることはなかったのである。
考えられるとすれば、一瞬のスキを突かれたか。
「【Revenant】の連中が言っていた標的――という言葉が気になるが、相手の最大戦力が分からない以上、こちらもある程度本気で行こうという話になった」
そのための【至高の顕現者】だろう。
ゼクスは納得していた。それは、その直ぐ傍に座っていた古都音やフレズもだ。
しかし、冷躯1人で行くわけではないだろう・
古都音が質問をする。
「――他には、誰が行くのです?」
「俺の元同僚だね。今は顕察の特殊部隊に配属されている」
と、ここで。冷躯は先程から厳しい顔をしているゼクスに気がついた。
「何か、心配なことでも?」
「いや、大丈夫。気をつけて」
ゼクスは、単純に冷躯が心配だった。
自分を救ってくれた養親であり、ゼクスが「本当の父」と慕っている人でもある。
日本一強い【顕現者】、という異名も信じていないわけではない。
しかし、思うところはあった。
【Revenant】は、基本的に搦め手を使ってくるのではないか? と。
捕縛が目的なのだから、それはそうなのかも知れないが。
「心配しなくていいよ、ゼクス」
冷躯は出発の時はまた後で知らせると言って、部屋を出て行ってしまう。
古都音とフレズは顔を見合わせる。
彼が必死になって取り繕っていた、余裕の無さを感じてしまったのだ。
「なんだか、凄い形相だったね」
「今回の戦いは、それほどに厳しいと予測されるのでしょうか」
フレズは一応戦えるが、古都音は戦闘面に関しては全くの無力である。
そして、彼女の一番の問題は。
――ゼクスの弱点になり得るということだろう。
「【Revenant】との戦いが激化すれば、八顕学園も閉鎖、なんてことがあるのでしょうか」
「そうならないために、早く問題を終わらせないとね」
立ちあがったのは、ゼクス。
その瞳には、静かに炎が宿っている。
「どこへ行くのです?」
「鳳鴻の所。――八顕学園の周りくらいは、自分達で守らないとね」
ちょっとだけ古都音を頼める? という言葉に、フレズは頷く。
手に【顕煌遺物】である【氷晶槍】を発現させ、「まかせて」と元気よく笑
った。
ノベルアップ+様にて「四煌の顕現者」のリメイク(設定修正・1から書き直し)を掲載しました。
最終的にはこちらに逆輸入する予定なので、今すぐ気になるという方はノベルアップ+様の方(https://novelup.plus/story/825826692)へ、
待てるという方はもう少しお待ちくださいませ。




