表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第3部 第1章 迎撃と襲撃
361/374

第361話 「違和感。祈り。」

 最初に異変に気づいたのは、善機寺ぜんきじはやてであった。

 周りを見回してみると、【三貴神】は鳳鴻おおとりが精神操作し反逆した【Revenant(レヴェナント)】の構成員で一杯なはずなのだが、肝心の【三貴神】が揃っていないようにもみえる。


「――月姫詠つきよみは?」


 目の前ではフレズが戦っている。今のところ、彼女一人に任せても問題なさそうだと判断し、颯は飛び上がった。高所から見下ろした方が一人一人を把握しやすい、そう思ったからだ。


 しかし、そこに月姫詠つきよみ斬灯りとの姿はなかった。少し遅れて鳳鴻が異常に気づき周りを見回すが、――やはり居ない。


「さっきまでそこにいたのに!」


 鳳鴻が珍しく慌てている間に、颯は自身の周りに漂って言う顕現力から斬灯の在処を探し出す。

 

 ……上だ。

 颯は上を見た。そこにいるのは、人を抱えた男の影。


「あら、バレちゃった」


 上空に居た男はにやりと笑って、彼らを見下ろす。

 見つかった事に慌てている様子はない。ただ、ゆっくりと上昇していく。

 脇に抱えた人――月姫詠斬灯は動く気配すら見せない。


「このまま逃げるのは――出来なさそうだね」


 男は嗤う。

 地上に居る人々を。出来る事ならもっと、多くの人を攫っていきたかったが、一番良いのは非戦闘者を攫ってしまうことだと判断したからだ。


 しかし、男は目の前にやってきた人間を認めて、目を細める。


「月姫詠を離して貰おうか」

「嫌だといったら?」


 目の前に立っているのは、颯だ。

 その目は殺意に満ちており、また、決意にも満ちている。


「無論、許すはずがないだろう」


 八顕学園の上空で、颶風が吹き荒れる。

 男は細めた目を庇いながら、辺り一帯が黄緑色に煌めくのを視た。




――


 一方、【終夜グループ】の社内。

 保護された古都音をはじめとする数人は、八顕学園の状況も分からずやきもきせざるを得なくなっている。


「ここからじゃあ戦況が全く分からないのも考え物だな」


 アガミがうなり、数件の電話をかける。しかしどれもつながらないようだ。

 数分後、諦めた様にソファに座った彼の顔には、明らかな焦りが浮かんでいた。


 朗報も悲報もこちらに届いていない以上、保護を優先された彼らができることは少ない。

 ただ、待つだけだ。


「君たちがここにいるのは、戦況を判断する為ではないからね。……君たちを保護するためだ」


 終夜家当主のスメラギがきっぱりと言い放つ。

 ここにいる人たちの歯がゆさは、彼も分かっているつもりだ。


 終夜家はそもそもが戦闘に適した一族ではない。回復系の顕現を使いこなすという条件から考えれば、前線でも後衛だ。

 さらに、守ってもらう必要すらある。


 ――それは、娘である古都音もよく分かっていた。

 自分は祈ることしかできないのだ。恋人の無事と武運を。


「それでも、おにいが心配だし、颯さんも心配……」


 雪璃せつりが目に涙をためながら、つぶやく。自身も【ATraIoEs(アトラロイス)】では充分な鍛練を積んできたはずだ。

 それでも、“彼ら”は自分を戦力として考えてはくれない。


 多感な彼らを、スメラギはなんとか宥めたあと。

 自分の娘を見つめる。


 彼女が、自分から弱音を吐くことはないからだ。言いたいことを我慢してしまっているのかと、心配になることは多々ある。


「古都音は、心配していないのか?」

「ありません。ゼクス君が、帰ってこなかったことなんて一度もありませんでしたから」


 その言葉には、確かな信用があった。スメラギは、自身が仲間を送り出した時はこんな気持ちではなかったと確信する。

 少なくとも、今のアガミたちのように心配する人間だったからだ。


「ゼクス君が負けるはず、ありませんから」

「いや、他の人達とかだよ。……月姫詠さんとか、私は不安だけれど、な」

「……たしかに、そうですね」


 ゼクスに対する絶対的信用・信頼も、他の人に向ければ話は別だ。

 学園に集結しているだろう、【八顕】次代の面々を思って、不安が頭をよぎる。


「しかし、私達に出来る事は祈るだけです――」


 自分が前線で回復を担いたいと言っても、ゼクスは絶対に承諾しないだろう。分かっている。

 数年、彼と一緒にいて、自身との関係性が変わってきたことも分かっている。


 今の自分は、御雷氷みかおりゼクスという人物の弱点になり得るほど、親しくなってしまった。

 最初からそのつもりではあったとしても、事実は事実だ。


故に、やはり祈ること以外はできない。 

 



「――どうか、全員無事で居て」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ