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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
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第036話 「似た立場、真逆の境遇」

「今、自分が言ったことの意味わかってる? 本気で言っているのかってきいてるんだけど、契」


 僕は彼女の胸ぐらを両手でつかんで、壁に押し付けた。

 契は怯えているけれど、そんなものは関係ない。自分の言ったことの意味を考えてもらわないと、困る。

 

「他に好きな人ができたって? 君、東雲家が蒼穹城そらしろ家の言葉一つで潰れるってわかってて言ってる? 君は【物】なんだよ」


 喉を押し付けられて苦しそうに、喘ぐ声が聞こえた。その口は「ごめんなさい」と動いているけれど、まだ許す気はない。

 契は自分がどんな立場にいるのかわかってないんだね。

 

 契の親が経営している【顕装】会社が本当に潰れるか潰れないかの瀬戸際で、僕のお父様はその技術力に目をつけたんだ。

 中小企業だったけれど、資金援助の代わりにスポンサーになってもらって。

 同時に、僕は彼女を得た。

 

 契は回復能力を持つ【顕現】をすることができる。【顕装】ではまだ再現されてなくて、確率的には1000人に一人くらいだけれど……。

 その効力は絶大で、だからこそ僕は自分よりも下の存在をそばに置いてる。

 

 それがなかったら、今頃壊しているというのに。

 

「黙って言うことだけを聞いてればいいの。わかる?」

「はい……ごめんなさい」


 涙ながらに必死に謝る契に飽きて、僕は彼女を地面に下ろす。

 後ろのほうで遼の声がした。


「もうやめときな。人に対しては傷物にするなとかいうのに」

「僕の所有物だから、僕が何やってもいいでしょう?」

「……はいはい」


 そう、この子は僕のものだ。

 だから、他の人に邪魔される権利はない。


「契も、元弟みたいになりたくないなら変なこと言うなって」


 びくり、と契が反応した。

 契の好き「だった」人、か。 


 刀眞の人だった間はちゃんと接していたけれど、彼は僕達とは違う人種だったからね。

 弱きを助ける人間だった。兄の遼とはぜんぜん違う。


 僕らは、弱気を助けるのが悪だと考えているからさ。

 彼が「素質なし」の無能と知った時は清々したけどね。


 だから、契の母親に根回しして、これ以上関わらせないようにした。

 遼にも言って追い出させたけど、それは契に言ってない。


 今頃っていうか、ずっと前に死んでいるだろうさ。


つぐくんは……」

「忘れなよ。死人に思いを馳せたって、意味が無い」


 それでも、死んだとは思っていないようで。

 僕は希望を抱く彼女に、イライラしてしまう。


「……遼、行こう」

「ん? おう」


 顔を包帯だらけにして、さながらミイラ男のようになっている彼を見向きもせず声をかける。

 さてどこに行こうか。……この学園で僕は、僕の帝国を創りあげたいね。



---



「好きな人ができました、か」


 俺……神牙アマツは頬を染めた鈴音すずねを、妙な感情で見つめていた。

 ゼクスはここにいない。なんかアガミに呼ばれたらしく、そっちに言ってしまった。


 まあ、鈴音がこんな話をしたら「熱酷いな」とか言いそうだが……。


「はい」

「……誰?」

「早いですね」


 いや、鈴音はわかっているのだろうか?

 自分の立場、よくわかっているのだろうか。


 ちょっと聞いてみようっと。


「鈴音」

「はい」

「俺は鈴音のなんだ?」

「未来の旦那様です」


 即答。それも堂々と言った鈴音は、それでいながらも少し恥ずかしそうではある。

 きちんと理解はしているようだ。

 鈴音の性格だから当たり前か、よしよし。


 俺は彼女の頭をわしゃわしゃとなでてやる。

 少し熱っぽさはあるようだけれど、俺のために頑張ってくれたもんな。


 ありがとな。


「わかっているなら問題はないと思うけれど、アレだぞ? ちゃんと事情を説明しないと、将来の話になった時に困るからな」

「はい。あくまでも遊びで、ですよね。純潔も守ります」


 その言い方もどうかと思うけれどもな。

 軽い関係でいってくれると有り難い。出来れば純潔も……って先回りされてた。


 正直、純潔はどうでもいいんだけれどもな、俺は。

 でも、親たちが納得しないから。


 俺が鈴音とこんな関係になったのは、鈴音の母親が所長を務めていた研究所にスポンサーがつかなくなった、というのが原因だ。

 父上が所長をやっている【神牙研究所】、と言えば誰でも知っているだろうけれど。国から金が出ているし。


 まあ、技術共有と両者の統合をした時に家族ぐるみでとんでもなく仲良くなって。

 でも俺は研究者タイプじゃないから、跡取りを家から出さないといけないらしく。


 その結果、鈴音とは許嫁関係ということになってしまった。

 俺は彼女が嫌いなわけじゃない。けれど、鈴音だって人間だ。


 この学園を卒業した後の数十年がすでに決まっているのなら、この7年間くらいは自由に恋愛してしまっても良いんじゃないかと、俺は考えている。


「で、誰だよ」

「……それはアマツくんもおわかりかと思いますけれど」

「ゼクス? ……望み低そう」


 俺が半目でジトッと彼女を見つめると、弁解するように鈴音は首を振った。

 何が違うんだろ。ゼクスとお付き合いしたいとかじゃないのか?


 ゼクスは今それどころじゃないし、無理だと思ったんだけれど。


「お付き合いは勿論理想なのです。なのですけれど、ダメだったら傍にいて、支えたいのです。精神的に私も弱いですし、ゼクスくんも弱いから」


 おいおい……、古都音さんと言ってること同じじゃねえか。

 駄目だってそれは。

次回更新予定は今日です。

早くて午後、遅くて夜。

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