第359話 「猪突猛進」
進・遼のペアと、【レヴェナント】の戦いは続いていた。
顕現力の純粋な威力であれば、もちろん2人の方が高い。しかしリーダー格はほかの構成員と格が違うようで、そのすべてに対処して2人の体力を確実に奪っている。
負けはしていないが、勝ちもしない。使えるリソースを確実に削られつつあることに半ば不安と焦りを感じながら、進は【氷神切兼光】で名も知らぬ相手の剣を受け止めていた。
『一度下がれ、進』
カネミツに指示され、後ろに下がる。
同時に遼も男から距離を取り、感覚を研ぎ澄ませながらも息をつく。
男を見ると、まだ若干の余裕があるようだった。ほかの構成員は正直少々苦戦する程度だったが、この男はやはりちがう。
自分たちと、真剣に戦っている気がしてこない。
――と、男が口を開く。その言葉は、結果的に進たちの警戒をさらに強めることに成ったのだが。
「【レヴェナント】に加入しないか?」
なるほどと進は思った。彼ら【レヴェナント】が【氷神切兼光】や他の、特異な【顕現者】を狙って攫っているのは、その力がほしいのかと。
しかし、肝心な目的は分からない。
進の返事は、鼻で嗤うことだった。
「反社会勢力に加入すると、本気で思っているのかな?」
男が眉をひそめる。それは、【八顕】の蒼穹城家がどんな存在なのか知っているからだろう。
「確かに、蒼穹城家も刀眞家も今までたくさんの妨害をしてきたし、悪事も働いてきただろうけれど、その根幹にあるのはこの日本の発展のためなんだよ。今まではその方法が間違っていただけで、目が覚めた次代からはそうならないだろうね」
「日本だけの話ではない。――この世界を変えないか?」
突拍子のない話に、あきれて笑いしか出てこなくなった進と対称的に、遼はいらだちを抑えられない様子だ。
「何をとち狂っているのか俺たちには分からないが。……俺はこの社会に不満を抱いていないし、不満があるなら力でなんとかなるだろ」
「それは、権力を持つ者だけが言える話だ!」
「そうかな」
男の反論に、進が思い浮かべたのは。
自分たちに見事復讐を成し遂げ、今は【八顕】の次代に仲間入りした少年だった。
「少なくとも僕達は、権力を失った状態から才能と努力で地位を勝ち取った人を知っているけれど?」
――爆発音がした。かなり遠くでありながら、地面が揺れる感覚に、進と遼も、男もその方向を向いてしまう。
「相手の増援か?」
近づいてくるのは、顕現力の塊だ。遼がやっかいなことになった、と顔をしかめながら退路を探している。
目の前の男とも2人かがりで苦戦しているところなのだ。それよりもさらに強い【レヴェナント】の増援がやってきたら、再起不能になるのは火を見るよりも明らかだろう。
しかし、進は義眼でその姿を認めると、ほっと一息つく。
「――違う」
【レヴェナント】の構成員があちこちの方向に吹き飛ばされていく。
見ているだけで滑稽で、同時に敵にとっては恐ろしくも感じられるその光景に、懐かしい顕現力を感じ取って。
進は言葉を続けた。
「こっちの増援だ」
その言葉に、跳ねるように立ち上がったのは男の方だった。
一直線にやってくる人影を進の認知から遅れること5秒後、相手が誰か認め、回避行動を取ろうとする。
「遅えよ」
――しかし、その行動はすでに遅すぎた。
男は、自身の体が「その」顕現力に包み込まれていた、いや。
囲まれていて、目の前には手が、拳が迫っている。
次の瞬間、男の天地は逆転し。
頭の位置とは逆に、意識は空の彼方へ飛んでいた。
多分スランプ抜けた。完全復活した。




