第355話 「急行:上空にて」
「ああ――、最悪だなぁ」
蒼穹城進は、始業式会場の上空から無数に降り注いでくる、コウモリのような集団を見上げてうめいた。
「本当に最悪だ」
――
ロスケイディア二皇国-日本間の遥か上空にて。
ゼクス達一行は、重々しい雰囲気で座席に座っていた。
季節は春。今日は八顕学園の始業式が執り行われている時間だが、ゼクス達は参加せず、ゆっくりと【ATraIoEs】で出来た仲間や友人、ライバルとのお別れ会を楽しむ予定だったのである。
しかし、今。誰もが押し黙って旅客機に乗っている。
「あんな別れ方で良かったのか」
重苦しい空気を断ち切ろうとしたのか、空気に耐えきれなくなったのかは分からないが――最初に口を開いたのは颯であった。
「仕方ないさ。ある程度予想出来ていたとはいえ緊急事態であるし、ネクサスも分かってくれたからこそ、こう――迅速に対応をしてくれた」
お別れ会を盛大に用意してくれたのは良かった。
それが昼から始まったのもかなり良かったことで、この事態になっても難色を示す生徒が一人も居なかったのは、本当にありがたいことである。
「寧ろネクサス達に感謝をすべきだと思う。こんな、超音速旅客機を即座にチャーターしてくれたのは、【|NeoValXione】の財力と行動力あってこそのものだ」
ゼクス達に飛び込んできた『とびきり悪いニュース』は、【Revenant】の八顕学園襲撃だった。
情報がはいって直ぐに、【ATraIoEs】の面々が起こした行動は、それは「迅速」と表現するしか出来ないような物だったのである。
「ともかく、この超音速便をチャーターしてくれたことに感謝しよう」
旅客機と言うよりはほぼロケットだ。理屈は分からないが、ゼクスはたいしたジーも感じられずに今、話が出来ている。
「とりあえず、すぐつくぞ。ついたあとの話をしよう」
後ろを振り返る。まず目線を合わせたのは、古都音・アガミ・雪璃・ミオの4人だ。
「4人はこのまま『終夜グループ』の本社に向かってくれ。皇さんがまってる」
皇とは、古都音の父親のことだ。『終夜グループ』の現会長でもある。
ゼクスは、【Revenant】の標的である自分達と彼女達を、分断させたかったのだ。
4人が頷いたのを確認し――古都音が少々顔をしかめたのを、確認する。
「私が、ゼクス君に戦って欲しくないと言っても、行ってしまうのでしょう?」
「古都音の気持ちが分からないでもないが……そういうことになるかな」
ゼクスとしても、古都音と一緒に居たくないわけではない。【ATraIoEs】にいても、殆ど安息の時間という物はなかった。
それは、フレズに対してずっと構っていたというわけではない。
【Revenant】という存在が出てきてしまった以上、古都音もゼクスも、戦わなければならないことは分かっていたのだ。
「この気体が音速よりもおそくなったら、俺とフレズを乗せて八顕学園へ飛ばしてくれ」
「承知した」
高度が、速度が遅くなっていく。
頃合いを見計らい、颯が飛び出す準備を終わらせ、二人を振り返る。
――準備は、出来た。
新章開始。
今までの物語では見ることのなかったものが見られると思います。




