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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 間章 凱旋準備
352/374

第352話 「こころのつよさ」

「こんな場所にいたのか」

「……颯」


 日も暮れてきた頃のこと。

 【ATraIoEs(アトラロイス)】に無数に点在する小さな広場で、男は1人ベンチに座って頭を抱えていた

 ゼクスは、近づいてきた颯に気づき、曖昧な笑みを浮かべる。


「何かに悩んでいる顔をしている」

「分かるか?」

「すくなくとも、復讐にとりつかれている時。そんな顔はしていなかった」


 颯の率直な意見に、はははと乾いた笑みを見せるゼクス。

 確かに、と過去を振り返る。

 ――あの時は守りたい人もいなかったし、制約のことも何も、考えずに生きてこれた。

 しかし今は違う。


「復讐が終わって、俺はひとまず目標がなくなった」

「うむ」


 ゼクスの隣に座った颯は、頷きながら自身も少々考えてみる。

 彼自身の目標はもう決まっている。ゼクスの傍で一緒に戦うことだ。

 しかも、それは彼と一緒にいる現状達成されていること。


 寧ろ、ゼクスに出会うまで……。今までが、目標もなくのんべんだらりとしていたのだ。


「その後に、父さんみたいになりたいと思った。自分を拾ってくれた父さんみたいな【強さ】が欲しかった」

「うむ」


 ゼクスは昔懐かしそうに空を仰ぐ。もちろん養親、冷躯のことだ。

 【至高の顕現者】。そう呼ばれている顕現者に自分が拾われたのは、とても本当に幸福なことだったのだとゼクスは実感する。


 養親のように強い人になりたい、と思った。そのために更なる高みに行きたくて、ネクサスの言葉に乗って、ここ【ATraIoEs(アトラロイス)】までやってきた。

 しかしそれは自分1人の強さではなく、颯たちと一緒に戦うことを想定したもの。

 顕現者としての強さは、【八顕】当主たちの足下にも及ばないが、それでも学生としてはかなりの上位に食い込むだろうことは分かっている。


 それでも、ゼクスは精神の強さをまだ持ち合わせていない。

 すくなくとも、そう自覚していた。


「俺は【|Parake-Rususパラケルスス】にいったところで、心が強くなるとは思えないんだ」

「……心の強さか。……難しい問題だな」


 復讐をしていた時は信じられないくらい心は強かったが、と。颯は口を滑らせそうになったが、何とかとどまる。ゼクスはそんなことを求めていない。

 少しの間だけ悩んで、颯の出した結論は――。


「冷躯さんも少々特殊だと俺は聞いている。なんせ御氷家の出身だからな」

「そのへんよく分からないんだが、説明出来るのか?」


 颯はとぼけるようにして首を傾げ、ゼクスは興味を失った。

 自分が追い出されたとはいえ元刀眞家という、【八顕】の一角を担っていた場所に生まれながら、殆どそういった知識を持っていないことに歯がみする。

 一体御氷家とはなんなのだろう? しかし、その興味は今殆ど薄れ、さて古都音たちを心配させてしまったし戻るか、という気持ちにゼクスはなっている。


 そこに――。


「あら、ここにいたんですか」

「ミオ?」


 あらわれたのは、ネクサスの婚約者であるミオであった。彼女は夕暮れの太陽を反射した銀色の髪の毛をふわふわと揺らしながら、二人を見つめている。

 何の用だろう? と二人が顔を見合わせるなか、少女は一度深呼吸をする。


「ネクサスさんからの命で、私も八顕学園に同行することになりました。帰宅準備中申し訳ないのですが、これからもよろしく御願い致します」




――



 時は3時間前。ゼクスとフレズが面談をしている頃、部屋の外で待っている古都音たちよりも少々離れた場所に、ネクサス・ミオ・ミュラクの3人は立っていた。

 決してゼクスたちが気にならないわけではない。寧ろネクサスもミオも、これからゼクスがどんな選択をするのか、気になって仕方が無いという状況だ。

 ――ミュラクは、殆ど興味が無いようであったが。


「きっとゼクスさんは【|Parake-Rususパラケルスス】に招待されてしまうと思うのですが、どう言う判断をするのでしょう」


 ミオの内心はハラハラだ。いろんな意味で気になっている存在になりつつあるゼクスが顕現者特別育成機関:【|ParakeRususパラケルスス】に行ってしまっては、ついていくことすら叶わなくなる。それは困る。

 そんな彼女にたいして、ネクサスは首を振った。


「僕は行かないと思うけどなぁ」

 

 彼はこの数ヶ月、ゼクスをじっと見てきたのだ。そもそもここ【ATraIoEs(アトラロイス)】に招待したのもネクサスである。古都音や颯よりは理解度が低いものの、それでも多少なりとは彼を分かっているつもりであった。


「何故です?」

「彼の考え的には、もう1人で歩む時期は過ぎたとか、考えてるんじゃないかと思って」


 復讐はひとまずの終焉を迎えたのだ。彼は自分に納得の行く形で終わらせた筈。

 それまでは間接的な協力関係は多少あったとしても、殆ど1人で実行してきた。

 1人で動いてきたのだ。


「そうだ、ミオ」

「はい?」




「八顕学園に行きたくないかい?」




 ミオが、歓喜の声を上げた。

  

この章はさっさと終わらせて日本に帰らせます。

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