第350話 「親子面談」
お久し振りです。
【ATraIoEs】編はこれで最後です。
場の雰囲気は、実に重苦しい。ここはグンディール棟の会議室で、ゼクスの隣にはフレズが、その向かい側にはライガ・エーテルと御雷氷冷躯が座っている。
子と親が対面しているこの状況で、ゼクスは僅かに冷や汗をかいていた。
目の前の2人の威圧感が、半端なものである訳がないからだ。
「ちゃんと話をするのは初めてかな、御雷氷ゼクス。私の名前はライガ・エーテル。 【元素霊】――君たち【八顕】のような存在の、一角を担っている」
そのくらいは、ゼクスもしっていた。【ATraIoEs】に留学することが決定している時点で、ある程度の知識は持っている。
しかし、その存在が――。目の前に、それも対面しているとなると、それはそれで勝手が違うというものだ。
【解放者】、エーテル。父親である冷躯と共に、かなりの上級者だと呼ばれている顕現者の1人。
「今日はそんな、堅苦しい話をしに来たわけじゃないんだ。少しくらいはリラックスしてくれてもいいと思うんだけれど」
「そう言われましても」
ゼクスは、今から何の話がなされるか、分かっている。
隣に座っている少女の事に関してだ。数日前の「あの」状況であれば、きっとフレズとの約束も伝わっていることだろう。
正直、フレズとの未来の話は終夜家ともなんとかしたいところではあるが、目の前の男は、自分にしか目が行かないようであったし――と。
「今回は、君への褒美を与えたいな、と思って。……それから、こちらからも一つの要求がある。――勿論、最終的な決定権は君にあって、こちらに拘束力は全くないことを宣言させてもらおう」
ちらり、と。ゼクスは向かい側にいる父の方をみる。――が、その表情に変わりが無いことを確認して、相手が嘘をついていないことを確認した。
「何か、欲しいものはあるかね? ……目を見る限り、もう決まっているようではあるが」
「そうですね――」
フレズの方を見る。
少女は、不安そうにゼクスの方を向いている。この後どういう発言が出てくるか、分からないというように。
息を吸って、吐く。ゼクスの考えは既に決まっている。
「フレズをください」
一瞬だけ時が止まったような感覚に、ゼクスは臆さない。
ライガの目が訝しむように、試すように。
細くなるのを感じながら、次の言葉を発する。
「俺にはフレズが必要ですから。一緒に力を高めあう存在として」
フレズは、小躍りしそうになった自分を抑えるのに必死であった。父親の顔を見ても、その興奮は抑えられない。
自身が妾……二番手であったとしても、それでも構わない程。
そんな娘の様子を見て、ライガの心境は複雑だ。フレズが幸せになるのであればそれでも良いと考えているし、フレズは次代の候補とはいえ上にセヴォルトが居る。
相手が旧友の息子で、最有力候補であることも分かる。
しかし、自身から「側室で良い」と宣言されるとは思わなかったのだ。
ライガはゼクスの事をよくしらない。その血が刀眞家のものであるのはどうでも良いことではあるが、ゼクスという存在をよく知らない以上、「あいわかった」と首を縦に振るわけにも行かない。
次代の最有力候補でないにしても、大切な娘だ。
「フレズは? それで本当にいいんだね?」
「うん」
机に頭を突っ込ませかねないほどの勢いで、フレズは首を縦に振った。ゼクスとは出会ってから長いという訳ではないが、その強さに感化されたこともある。
同時に、彼の信念にも感化された。
だからこそ、いつの間にか思慕になり、恋慕になったのだろう。
「ずっと着いていけるよ。彼なら、止めてくれるし」
ゼクスの方をみる。少年は分かってる、というように頷くと、ライガの目を真っ正面から見つめた。
その目には一つも、迷いがない。
「勿論、その程度の責任はとるつもりです。……これから日本に戻っても、彼女を手放すつもりはない」
一度受け入れると決めたのだ。彼女が【龍化】しても、その思いは変わらなかった。
自身が自身で特殊すぎるから。目の前の少女が特殊であったとしても、受け入れることが出来る。
「そう、か」
ゼクスの目に、鬼気迫るものを感じ取ったライガは。
思わず本能的に後ろへ1歩、下がりそうになった。
――自身が目の前の男に、臆するとは思わなかったのだが。
どこか隣に居る、冷躯と似通ったオーラを感じてライガは昔を懐かしむように目を細めた。
「私はフレズが構わないというならば、問題はないよ。君も日本【八顕】の次代であろうし」
一息。男は、本題に入る。
「ところで、こちらとしても一つ。君を『更なる高みへ導く』提案があるのだけれど?」




