第345話 「フレズの精神空間」
【顕煌遺物】と契約をした【顕現者】には、精神空間がある。
――それはゼクスが父親である冷躯にも聞いた話だ。
この話を思い出していたゼクスは、取り敢えずフレズの精神空間へ侵入する手立てを考えていた。
『我の顕現力に乗せて精神を流してみるかの? 最初の、ゼクスと契約してしまった時にやっていたものじゃ』
ああ、と頷く。蒼穹城進から【髭切鬼丸】を奪い取ったとき、いきなり精神空間へ飛ばされたのを思い出し、ゼクスは少しだけ笑って見せた。
「分かった。やってみてくれ」
「……ゼクス?」
颯が、不穏な空気にいち早く気づき怪訝な顔をする。ゼクスは真顔だ。
完全に顔が硬直している。
「頼む。……俺がどうなるか分からないが、意識を取り戻すまで守ってくれ」
「――ああ、いいぞ」
上では一層大きな閃光がしたかと思うと、人一人がまるごと消えていた。
冷躯は周りの援護を一斉に始め、ライガはアガレアを処刑し終わりこちらに近づいてきた。
「ゼクス・ミカオリ。……何とか、私の娘を救ってはくれないだろうか?」
謝礼は何でも受け付ける、という言葉に対して――ゼクスは反応をしない。
「さて、行ってくるか」
御雷氷ゼクスの精神空間は、白い空間であった。周りにはなにもなく、純白の、しかし無限の広さを持った、巨大な空間。
しかし、フレズの精神空間は違う。水色の、水晶のような空間だ。
ちゃんと床がある。ちゃんと天井がある。壁があって、一色であるものの家具すらある。
「ここが――フレズの精神空間か」
思ったよりもガーリーな風景に、ゼクスが目を白黒させる。
オニマルもこれは予想外だったようで、『ゼクスの部屋もこうしないかのう?』等と言っている。
「するわけないだろ」
ゼクスはそれを一蹴。ここで、自身の腕が【髭切鬼丸】出ないことに気づく。
隣には、人格態のオニマルが見えていた。
「なんだか、懐かしいな」
『…………』
「いや、オニマルが悪いわけじゃないよ。俺の不注意だ」
不注意どころか、自身が勝手に戦いが終わったと勘違いしていたのが悪い。
ゼクスはそれからというもの、警戒を強めていることは彼の身体の一部になったオニマルも分かっている。
それでも。オニマルは、その状況を気にせずにはいられないのだ。
「その姿、やっぱり古都音に似てる気がする」
『そうかの? ……えへへ』
今までの態度と違うオニマルに、少々の違和感を覚えつつも。
ゼクスはフレズの精神空間を歩き回ってみる。
感じるのは、凍結した様な寒さ。痛み。
これが何を意味するのかは、分からない。
――兎に角、フレズを早く見つけないとな。
自身の身体がどうなっているのか、ゼクスは分からない。しかし精神空間から引き戻されないと言うことは、颯が頑張ってくれるのだろう――と思う。
「しかし思ったよりも広いな。……家みたいな構造をしているし、もしかしてこの部屋にいないってことなのかね?」
――
「あーあ……きりが無い」
ライザ・グンディールはため息をついて、倒れても倒れても人形の様に起き上がる【レヴェナント】の黒ローブの人影を見つめていた。
極力殺さないように、と意識だけを奪っていたつもりであるのだが、どうも意味がないらしいということで。
先程からは一切の手加減無く、槍を持って刺し殺しているはずなのであるが――。
直ぐにその【レヴェナント】の名前に相応しいほど、「蘇って」くる。
「何か【顕現】的なものがあるのなら、僕にはどうしようもないかなぁ」
「消し飛ばせないか? 私が悪魔にやったみたいに」
そんなライザの加勢にやってきたのは偶然にも名前が似ているライガ・エーテルであった。若い頃は一緒によくつるんだものだ――と、昔を懐かしむライザであるが、娘を竜に変えられた男の表情は未だ険しい。
「フレズさんは、まだどうにもならないの?」
「今、何らかの方法を使ってゼクス・ミカオリがやっているところだ。私には分からないけど」
「んー、そっちで彼を守っていた方が良いんじゃない?」
そこまで言って、また一人を片付ける。ライザはゼクスの居る方を見て、その傍に立っている男を見、ふぅと息を吐いた。
「ああ……レイクが居たら、君も必要ないか」
「悔しいが、そういうことだ」
本当はレイクに【不可侵】を使って無力化して欲しかったのだけど、というライザに、エーテルは首を振った。
「【ATraIoEs】が大混乱の今、手っ取り早く全てを終わらせるのが最優先だぞ」
「はいはい。……分かったよ」
ほら、と。
ライガ・エーテルは、ライザの槍に自身の顕現特性を纏わせる。
絶対なる破壊の雷を見、教官は少しだけ笑った。
「本当、昔のことを思い出すね」
違う人生の中で、同じ軌道を走っていた頃の記憶が呼び戻される。
毎度、リアルタイムで追って下さっている方々は申し訳ありません。
毎日更新を確約している一週間だけ、お付き合いくださいませ。
「無茶振られ管理官の裏事情。」
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