第340話 「【レヴェナント】と暴走態」
「【捕縛】」
戦いの最中、特別観戦席で声が響いた。続く金属の擦れ合う音。
ゼヴァートは「うっ」と声を上げ、隣に居た少年を睨みつける。
「どういう意味だ」
「……そろそろ行動を起こすべきだと判断したんだよ、ゼヴァート。いや、セヴォルト・エーテルと呼んだ方がいいかな?」
この学園でフレズとゼクスしか知らない筈の事実に、ゼヴァートは目を見開く。
いつの間に、この男に知られてしまったのか。
「君は僕唯一の友ですからね。……このままここで大人しく、最前席で見て頂きましょう」
ヴィレンはそう言って、自制するために動きを鈍らせたセイレム=フレズのほうを向く。
「何をするつもりだ」
「もう潮時ですからね。……僕の計画が、始まります」
――
「フレズ?」
ゼクスは、目の前に居る少女の動きがあからさまに違って来たのを感じて、攻撃の手を止めた。先程までの余裕もなければ、攻撃も防御もせず、何かを抑えるように硬直している。
「――嫌」
声が聞こえ、ゼクスも硬直する。彼女の声が、あまりにも痛々しく悲しみに満ちていたものであったからだ。
同時に、感じたのはただでさえ強大であった顕現力の更なる膨らみ。
それは「セイレム」として偽装された顕現力ではなく、「フレズ」の顕現力だ。
彼女の本質なる顕現力が、秒ごとに膨らんでいく。
「――この姿は、だめ」
セイレムは既に涙声であった。ゼクスも戦いをやめてしまい、また観客席の多くの人々も何事かと首を傾げている。
その時、頭上から声がした。
「だめですよ、自制しようなんて思ったら」
そこに居る男の名前は、ヴィレン。しかしゼクスは、それを知らない。
「乱入者? 誰だよ?」
「【ATraIoEs】、三角が一角、ヴィレンと申します。まあそれも偽名ではありますが」
ヴィレンは、セイレムを見下ろす。彼女が、自身になにが起こっているのかわからないことを確認して、口角をつり上げる。
「私は【Revenant】所属のアガリアと申します。以後、お見知りおきを」
彼の言葉で一度に、多くの人が動いた。
どこからともなく現れる黒いローブに身を包んだ人が、数十人。
来賓席から飛び出す二筋の顕現力。
そして、観客席に居る訓練生達も、素早く動く。
「おっと、やはり【ATraIoEs】は動きが速い。……では、セイレムは暴れて下さいね」
ヴィレンは、少女に手を向ける。
途端、彼女に付けていたブレスレットが怪しげに点滅したかと思うと、顕現力は爆発し――。
セイレムの居た場所には、氷の竜が存在していた。
――
「こんな日を狙ってくるなんてな。……俺達の居る目の前でやったのはわざとか?」
来賓席から飛び出した二筋の顕現力――御雷氷冷躯とライガ・エーテルは、ヴィレン改めアガレアと対峙していた。
【Revenant】。最近この地域の、有力者の子息を殺し廻っている犯罪者集団である。冷躯は情報を掴んではいたものの、【ATraIoEs】側から「問題ない」と言われていたのだ。
しかし、こういう状況になってしまった以上、動かざるをえない。
「さて、どう思われます?」
アガレアは口角をあげっぱなしで、後ろにいたローブ姿の人達に手で合図を送る。
指令は、より多くの被害を出すこと。
「ライザ・グンディール、教官としての使命を果たしてからだ」
冷躯は、加勢しようとこちらに近づいてきた男にそう言い放つ。
ライガも、別の男に同じようなことを言っていた。
「ダルタニス・タロン。君もだぞ」
アガレアの笑みは止まらない。
目の前に居る二人の【顕現者】に、全く恐れを抱いていないかのように。
「勿論、御二方の事は存じていますよ。【解放者】エーテルに、【至高】ミカオリでしょう?」
「それなら、話は早い」
三人の内、最初に動いたのはライガであった。娘を暴走させた男に、娘の決断を邪魔した男に言いようのない怒りを感じ、バチバチと周りに顕現力が放出され始める。
「レイク。申し訳ないが、サポートに回ってくれ」
「いいよ」
咆哮し、動き始めたフレズの暴走態に意識の数分の1を割きながら、頷く。
「お前が何者だろうと、ここで消し飛ばす」
「出来るものなら、やってみると良いですよ」




