第034話 「それぞれ:ベッドの上」
「……はあぁ」
部屋に帰った俺は、買ってきたものを整理もせずにベッドに倒れ込んだ。
あのあと、アガミと古都音先輩がそれでも一緒に買物へ行きたいとのことで一緒についていった。
正直、楽しかった。二人共さっきの話を聞かなかったかのように明るく接してくれて、それが嬉しかった。
けれど、俺は古都音先輩がずっとこっちを気遣っていることに気づかないわけがなかった。
出来るだけ露骨にならないよう、さり気なく話しかけてくれたのだろう。
ありがたかった。確かにそうだ。
アマツや冷撫と一緒に居た時、それと同じ雰囲気がそこにはあって。
「……古都音先輩、か」
正直、好みのタイプかと言われればストライクど真ん中である。
あの艶のある黒髪も、顔も、目も。
ずっと見ていたいもので、そばに居てくれるだけで気持ちが軽くなるのを感じていた。
……だが、なあ。
俺が一緒にいていい人間じゃない気がするんだよな。
「アマツに謝らないと」
とっかえたばっかりなのに、もう【結晶】割っちゃったよ。
しかも今回は前みたいに「割れかけ」じゃない。5つの比較的大きな欠片と、数百の粉に分解されてしまった。
……修復不可能だろうな。
勿論欠片は回収してあるけれど、なんだろうこれ。
俺に【神牙結晶】の実験台を任せるのは間違ってたんじゃないか。
確かに効果は分かった、けれど俺では燃費が悪すぎるのか、負荷が強すぎるのか、すぐに壊れる。
まだ3日だぞ、なのにもう2つも破損させてしまった。
……【結晶】が無いからか、だんだん自分の気持ちが落ち込んでいくのを感じる。
明後日から学園行きたくなくなってきたぞ……。
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「こっとねさんが、おせっかい♪」
俺、蜂統アガミはとりあえず適当に歌って現実逃避することにした。
ほんと古都音さん何考えてるんだよ、おせっかいが過ぎてそれどころの話じゃなくなってきたぞ。
絶対ゼクスもそんなこと望んでいないんだよな、今のところは。
ゼクスの闇は、彼自身が一度ケリを付けることで初めて他者の介入を可能にするものだ。
それまで、俺達はゼクスと友人になりたいんだったら、それを分かったうえで邪魔をしないのが一番なんだよな……。
俺はベッドをじたばたしながら古都音さんが完全にスイッチを入れた目をしていたことを思い出し、毒を吐きそうになる。
「放っておけないからって。ああやって人の助けになろうとするのか……」
俺には無理だよ。アマツと同じような人間だから。
アマツが使命感なら、俺は任務感で生きてきている人間だ。
代々の護衛役として、古都音さんを守護する。
勿論、代役がいないかぎりは墓場までね。
それが俺の墓場になるか、古都音さんの墓場になるかは分からないが。
でも、古都音さんがゼクスを救いたいっていうのなら、俺は補助するしか無いんだよな。
「ゼクス、気持ちはわからんでもないが」
俺はゼクスみたいに残酷になりきれないんでな、全面協力っていう訳にはいかないぜ。
できるのは古都音さんの許す範囲だけだ。
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「……うぅ、涙が止まりません」
ゼクス君の、感情に当てられて先程から涙が止まらないのです。
私……終夜古都音は、ベッドで仰向けになって天井を見つめていました。
深い悲しみ、強い恨み、そしてそれを無理やり抑えこもうとしている抑制心。
私は相手が何を考えているのか、おぼろげながら感じ取ることができます。それは誰でも分かるような外からではなく、うちに秘めていることが全て。
刀眞遼さんは分かりやすいから対応も簡単なんですけれどもね。
でも、私はちょっと特別な理由で攻撃が不得手ですし、アガミ君は攻撃ができません。
アマツ君や鳳鴻君がいてくれる時は彼等が代わりに反発はしてくれるのですが、いつもいるわけではありません。
私は父親に教わった言葉を思い出します。
『終夜は夜を終わらせるって書くんだ。古都音も救いたい人がいれば、手を差し伸べなさい』
『相手を愛せるのなら、相手を信じなさい。信じきれば、それが運命の人になるだろう』
『ただしアガミはダメだ』
……アガミ君を対象に入れないというのは、公私混同が命取りになるからなのでしょうけれど。
やっぱり言い方に悪意を感じるのは私だけでしょうか。
……それにしても、運命の人ですか。
少なくとも、入学して1年はいませんでした。
言い寄ってくる人はたくさんいました。それに、アガミ君がいなかったので何も大事が起こらなかったことが奇跡でしょうけれど。
今年こそ、見つかるのでしょうかね……。
それがゼクス君だったらいい、なんていえません。
ですが、恐らくもう時間がないのです。刀眞家が何時、強行するのかわからないから。
あって時間は1年間。
……少ないですね。




