第325話 「外への誘い」
「はぁぁぁぁ?」
ゼクスは、地面に倒れ伏した4人を見つめて呆れ気味にため息をついていた。
荒い息を整えようと必死に押さえている護衛の2人――ミュラクとミオは「無理です」と半泣きの状態になっており。
また颯とネクサスは、泣きこそしないものの全身汗だらけ。それも本能的な恐怖による冷や汗が殆どを占めていた。
「1対4で、かつ俺は顕現特性を一つも使ってないんだぞ」
ゼクスは圧倒的強者であった。4人を相手にしても、多少苦戦しただけである。
少なくとも、最初のほうはゼクスも戦い方が分からず、防衛に徹していたのだが。
ネクサスと颯が連携に失敗し、ボロを見せた瞬間にゼクスが一転攻勢。
そのまま、2人の隙を顕現力の塊で吹き飛ばすと、動きについて行けない護衛2人を巻き込んで倒してしまったのだ。
「ミュラクとミオは、俺レベルの刺客がネクサスを襲ったらどうするつもりなんだ」
ゼクスの言葉に、2人は言葉を失う。
特に責任を感じているのはミオのほうである。どちらかと言えば、護衛の役割のほうが強い彼女にとって、それを言われてしまうと返す言葉が見つからないのだ。
彼レベルの敵がやってきたら、私は焼きに立たないのだろうか。
そんな不安が少女を襲う。
「まあ、ネクサスもせっかく【半顕煌遺物】を持っているのに、それじゃ駄目だな。颯も」
宝ならぬ、力の持ち腐れ。颯は自分の【瘴】と【燿】がまさか、純粋な顕現力に打ち勝てないことに対して、自分自身に腹を立てていたし、ネクサスもそうだ。
相手が強いわけではないのだ。少なくとも、あれだけのハンディキャップをもらい、さらに【髭切鬼丸】の権能も何一つ使っていない。
ほぼ片腕――しかも利き腕ではない左腕で戦っていたのにもかかわらず、自分達が負けたのは単に自分達の実力不足である。
颯もネクサスも、十分過ぎるほどにソレを理解していた。
「はい、じゃあ訓練頑張りますか」
「うん……」
ネクサスは、もしかしたらゼクスが怒ってしまっているのかとも思い、恐る恐る彼の表情を伺う。
――が、特にいつも通りのようだ。
彼は安心して、訓練を再開する。
――――
「そういえば、今度【ATraIoEs】の外に出て遊ばない?」
その日の昼休憩。ゼクス達はネクサスから、そんな誘いを受けた。
基本的に、ゼクスが【ATraIoEs】の敷地よりも外に出ることはない。【ATraIoEs】自体が一つの町となっている現状、中で生活の衣食住は十分過ぎるほどにまかなえるからである。
用事と呼べる用事は、来週に控えた食事会程度だろうか。古都音は特に気にしなくても良いと言っていたが、ゼクスは既に臨戦態勢である。
相手がどう言う人間か知ったこっちゃないが、煽られたら全力で喧嘩を買うつもりでいた。
次代としてあるまじき思想である。
「いいけど、何をするんだ? 俺は八顕学園にいたときでさえ、遊びを知らない」
「なら俺が連れて行くからねー。まあ、楽しみにしておくと良いよ!」
ネクサスは、目の前のワンタン麺を口に書き込みながらそういった。
ゼクスはというと、――ふと視線を感じて、ミオのほうに目を向ける。
「何か?」
しかし、返ってきたのは無言であった。
代わりに、少々熱の籠もった視線が注がれ、ゼクスは大抵のことを察する。
――いいのかよ、婚約者がいながら。
そんなことを考えていたゼクスであるが、すぐに頭を振って意識を目の前の麻婆豆腐に戻す。ケバケバしいほど真っ赤なそれは、地獄の釜のようにぐつぐつと煮えたぎっていた。
「あっちぃ-」




