表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第4章 機関最強
321/374

第321話 「殴り込み」

 ゼクスら一行が【ATraIoEs(アトラロイス)】に渡ってから、2ヶ月が経過した。

 未だに、ゼクスは一敗もしていない。今まで以上に【顕現オーソライズ】の訓練を重ねた結果、彼に勝利する見込みのある訓練生がいなくなってしまったのである。


 ――高みを目指す。


 明確な目標を掲げてきたはずであるゼクスは、マンネリ化しかけている現在の状況に不安を持って過ごしていた。【ATraIoEs(アトラロイス)】の面々は明らかに自分を警戒している。

 正直、復讐に心を狂わせていた頃の方が幾分か充実しているようにも感じられた。


 はやて達も順調に実力をくみ上げていっているが、ゼクスに届くかと言えば届かないのである。


「退屈だ」


 ゼクスは訓練を一旦切り上げ、短く呟いた。その言葉に颯たちはびくりと身体を震わせ、どうした物かと彼を見やる。

 今日は彼をイライラを最も癒やせるであろう古都音ことねがいない。【ATraIoEs(アトラロイス)】の外へ、商談の為に父のスメラギ氏といってしまった。

 

 よって、ゼクスの苛立ちを止める事は誰にも出来ないのである。

 闘争に寄る鎮圧も、失敗したわけで。


「ネクサス、なんとかしてくれ」


 ゼクスに気づかれないように、颯は素早くネクサスへ無茶ぶりをした。

 ネクサスは最近、非常に不調な状態である。ゼクスの周りも次々と戦いに身を投じていく中、彼はというと連敗に連敗を重ねていた。


「無茶ぶりはやめようね、颯」


 ネクサスはガシガシと頭を掻きむしりながら、さてどうしたものかと頭を悩ませる。最近でゼクスを本気にさせた人間など殆どいない。それは分かっているのだが、強いて言うならば、一人だけ居る。


「それなら、フレズと訓練をしてこれば良いんじゃないかな」


 現状、【ATraIoEs(アトラロイス)】で唯一ゼクスを本気にさせた女性、フレズ・エーテル。彼女の居る棟まで向かうことが、ネクサスにとっては既に憂鬱な事である。

 ゼクスの練習相手にこそなれど、彼自身は本気の状態でないフレズにすら敗北する。絶不調の今、頼みに言った結果――ボコボコにされることは間違いない。

 

「最近はエーテルも目立たなくなってしまったな」


 ヴァリエスは、自身の身体に流れる顕現力の調整装置を点検しながら軽口を叩く。実際、ゼクスが【氷像】のフレズに勝利してからと言うものの、彼女の活動は消極的だ。数十と積み上げた連勝記録が途絶えて落ち込んでいるのか、という予想が一般的であるが。


「暇だな」


 ゼクスだって、フレズが気にならないわけではない。立ち上がって一度のびをすると、ネクサスと颯はお互いに顔を見合わせた。

 

 次は、どんな無茶ぶりが自分たちへ降りかかってくるのだろうかと戦慄しながら。


「ちょっと、フレズの所に殴り込みをかけてこよう」



 そう言うが速いか、予備動作なしでゼクスは走り出した。

 顕現力の煌めきが目隠しのように修練所を包み、その眩しさに誰もが目を瞑ってしまう。


「あっ」


 煌めきが収まったとき、そこにゼクスの姿は勿論――ない。

 古都音にゼクスのお守りを頼まれていたネクサスと颯。それとヴァリエスは顔を真っ青にした。


「これは、まずい。非常に、まずい」

「そのくらい、俺にも理解できる」


 ――ゼクスが何か問題を起こせば、幻滅されるのは間違いなく自分たちである。




――



 ネクサス達が慌ててゼクスを追ったころ、ゼクスはというと既にフレズの所属する棟に到着していた。

 元々、ゼクスの所属する棟とフレズの所属する棟はそんなに離れていない。走れば数分で着く距離である。


 ――が、ゼクスの走る速度はその数分の1で到着を完了する。


「たのもー」


 低い声で、ゼクスは白に塗られた建物の中へ侵入する。

 何処の党も、基本的に中身の構造は似ている。ゼクスは誰も居ない廊下を、足音を忍ばせることなく歩くと、修練所のドアを開いた。


「誰か、俺と戦ってくれませんかね」


 突然入ってきた乱入者に、中にいた人々は凍り付く。【氷像】のフレズ・エーテルも、同様に凍り付いていた。

 ただ、少々彼女の様子が違うことは、表情があったこと。


 ゼクスが初対面で感じた無機質さは全くない。


「ミカオリ。残念ながら、今は訓練中だ」

「1対20してるんだから俺も混ぜてくれない?」

「……物足りないと思うけど」


 固まってしまっている教官は、ゼクスの強引な申し入れに頷くほかない。

 それも、「教官でもいいですよ、相手」と言われれば首を振るほかないのである。


「ミカオリと共闘か、なんだか不思議な気分だ」

「俺もだよ、フレズ・エーテル。だって1ヶ月前はああやって熱く戦ったのに」

「……馬鹿野郎」


 恥ずかしいことを言うな、とフレズの肌に赤みがかかる。





 ――ゼクスは気づいていないようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ