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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
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第319話 「氷嵐の煌と隠し玉」

 一度離れて、再び対峙する。

 お互い、自分の状態を確認して、最初に口を開いたのはゼクスの方であった。


「思ったより消耗が激しいな。……【ATraIoEs(アトラロイス)】に来て、最初の重症が今日か」


 男の方は、背中と肩が槍によって貫かれていた。氷の【顕現オーソライズ】によるためか、出血は思ったよりも少ない――が、代わりに麻痺している。

 【巻戻リコイル】の範囲は「顕現力を送れる範囲」であるが、自分の体は無理。

 しかし、敵側の氷で止血されている状態では、いつそれが終わるかわかったものではない。


 ゼクスは素早く特性を使用し、多少荒療治ではあるが自身のものに【書換リライト】することにした。

 同時に、左腕がほぼ動かないことにも気づくが、この程度なら試合後に古都音に見てもらえばいいだろう。


 【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を一旦納刀しながら、男は少女の方を見た。


「……むぅ」


 フレズは、胸のアーマーだけが綺麗に剥がされたことに顔をしかめていた。

 【氷鎧】は、周りに展開した氷を一旦全て鎧に変換する顕現特性である。

 よって、新しく鎧を追加することはできず、弱点を隠すには再装着が必要だ。


 ――しかし、顕現力が……。


 フレズはゼクスのように無尽蔵の顕現力を持っているわけではない。もともと、氷嵐だけで殆どの場合は対戦が終わる。鎧として【顕現オーソライズ】してから、どのくらいの時間持続させられるかは、分からない。


 ――【氷鎧】を再装着したときを狙ってくる。

 ――あの、【鎧】を再装着したときを狙う。


 ゼクスの攻めるタイミングは的確であるが、その代償としてひねりがないため予測されやすい。フレズは見抜けていた。

 

 だからこそ、煙に巻く。


 最初に動いたのは、ゼクスではなくフレズであった。

 氷属性の【顕現属法ソーサリー】の応用で濃霧を作り出すと、ゼクスの視線を着るように移動する。

 目の前の【三煌】を警戒しているのだ。ただ3属性使えるだけなら、複合で攻撃されても自身の氷で対抗できる。

 残念ながらまだ煌めいてはいないが、それでもフレズは自分の力を信じている。


「【解除】、――【氷鎧】!」


 一方、ゼクスは【拒絶リジェクト】以外なら惜しみなく使う方針に切り替えた。

 視界は霧に覆われ、フレズのいる場所を特定できない。

 それなら、どこにいようが高速で動ける【強襲リアサルト】を。


 もう一つ。

 使う顕現特性は、1つの動作を正確にする【執行エグゼクション】。


「霧を払う」


 相棒オニマルに合図をしながら、【顕現オーソライズ】。

 抜刀するように【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を出現させ、風を巻き起こす。


 ……が、霧を払ってもフレズの姿はそこにない。


「――上じゃ!」


 オニマルの警告。氷の嵐を【氷鎧】に変換しながら、さながら流星のように槍を振り下ろすフレズ。

 ゼクスは動けない。【強襲リアサルト】は使った後である。


「まずい――」


 そう考えているうちにも、槍は迫ってきた。

 乾坤一擲の一撃。顕現された槍は、煌めいている。





―――





 観客の殆どは、ゼクスの負けを確信した。

 無敗を誇っていたゼクス・ミカオリを下したのはこれまた無敗のフレズ・エーテル。【ATraIoEs(アトラロイス)】で発刊される新聞の1面に載り、フレズの価値が高騰する。

 しかも、最後の最後で【煌】まで発現させることが出来たのであれば、言うことはない。


 会場には先程切り払われた、氷属性の霧が再び戻ってきているためどうなったかはわからないが――。

 十中八九フレズの勝ちだろう、と殆どの観客は考えていた。


 ――ゼクスの「切り札」を知っている人を除いては。



「――どういうこと?」


 フレズは、勝利への確信が一気に崩れたのを感じた。

 目の前の男は、自分の槍によって貫かれ、顕現力をまるごと持って行かれて負ける。


 はずであったのに、槍は身体を半分通過したところでピタリと止まっていた。

 薄ら寒い予感。フレズは本能的な危険を察知したが、思考はそれに追いつかない。


「まさか、な」


 ゼクスは、汗を滝のように流しながらも笑っていた。

 相当の顕現力を持って行かれてはいるのだろう。寧ろ【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】が、顕現力を逆流させているほどである。


 しかし、立っていた。


「【ATraIoEs(アトラロイス)】の試合で、本気を出す日がやっと来た」


 八顕学園で猛威を振るい、自分を軽視した人々を黙らせた能力、【拒絶リジェクト】。

 【ATraIoEs(アトラロイス)】に来てからは一度封印し、それを使わなければならないときまで使ってこなかった能力。


 それを、今ここで使えたことに、ゼクスは喜びを隠しきれないようであった。


「フレズ・エーテル。感謝する」

「それでも、勝つのは俺だ」


 【拒絶】されるなら、それの許容を超えるまで顕現力を放出するだけだ。

 フレズは最後の力を振り絞って、【煌】を蓄える。


 この学園に来てから、49もの勝利数を積み重ねてきた。

 この試合だって、負けるわけに行かない。


 ゼクスが槍を掴む。一瞬にして、槍は悲鳴のような音を上げて霧散する。

 少女には、少年の姿が魔王か何かに見えた。







「いいや、勝つのは俺だ」

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