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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
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第318話 「総力戦」

「【氷鎧】」


 フレズが宣言すると、少女は周りに発生させていた氷嵐の形を変えた。

 その姿は例えるなら、鎧だ。氷で形作った鎧。

 鎧を纏い、さらに1本の槍を【顕現オーソライズ】した少女は、ニコリとゼクスの方を見ていた。


 観客から驚きの声が溢れ、ネクサス達も同じ反応を示す。

 ――が、ゼクスは多くのことを考えるようなことはしない。これが彼女の顕現特性であるならば、たとえ神と融合しようとも納得できる。


 寧ろ、自分の攻撃が彼女に効くかが問題であった。

 効かないのであれば、この試合の勝利はなくなる。


「……【強襲リアサルト】」


 最初にゼクスが取った行動は、高速移動。

 速度を乗せて、顕現力で殴る――という、脳筋に近い考えだが、鎧は彼女の全能力を向上させているらしく、軽く振り払われた。


 相当な速度で動いているはずであるが、反応されたことにゼクスは目を見開き、笑う。

 今まで自分の攻撃についてこれる赤の他人がいなかったためだ。はやても、最初のほうではゼクスの一方的な戦いであったのだから。


「面白くなってきた」


 少年の笑みが広がる。本気で戦いを楽しんでいるような笑みに、フレズも同じような笑みを見せた。


 楽しませてくれる人は、少ないのだ。そもそも、この鎧を発現するまで至らない【顕現者オーソライザー】がほとんどであるからして、目の前の男が自分に相応しいのは言うまでもない。


 ゼクスは雷と氷の煌を、周りに降らせる。轟々と豪雨のように降り注ぐ2つの物質に、フレズは回避行動を取ったが――すぐにそもそも当てる気がないことに気づく。

 二人の周りは、【顕現属法ソーサリー】の煌めきが充満していた。


「【拘束リストレイン】」


 仕掛けたのはゼクスである。宣言と共に、煌めきのあちらこちらから鎖が飛び出してきた。360度、上下左右前後から飛び出してくるそれに対し、フレズは目を見開きながら槍で払う。


 顕現力で霧を払うようにして【顕現オーソライズ】を霧散させたフレズは、その突然の出来事になんとかなった自身に驚いているようでもあった。

 ――が、すぐに意識を取り戻して反撃に出る。


 槍をゼクスのほうに向けると、先端から光線を照射した。

 無音かつ超高速。ゼクスは回避に失敗して、肩が焼けるのを感じる。


「残念だけど、ゼクス。君より俺のほうが精神はしっかりしている。すくなくとも、この勝負に勝ちたいと思っているのは」

「いや、俺だ」


 フレズの言葉を遮り、ゼクスは1歩前へ。

 右手には、赤く紅く煌めく炎をまとわせていた。


「三煌……!?」

「そうかもね」


 世界に数人しかいない、3つの煌を操る姿にフレズは次こそ恐れを抱いたようであった。ゼクスが距離を一気に詰め、振りかぶるように殴り掛かるのを受け止めることも忘れ、後ろに下がり回避する。


 こつん、と。何かが肩のアーマーに当たる。

 それが会場の壁であることを認識したフレズは、前を見た。


 ゼクス・ミカオリはそこまで迫っている。


「鎧を剥がしてしまえばいいんだろ。【執行エグゼクション】」


 黒い刃が、ゼクスの左手に【顕現オーソライズ】された。

 鱗を剥がすように、鎧に刃が突き立てられる。

 


 フレズはチャンスと捉え、鎧はそのままに氷嵐を再び巻き起こす。

 ゼクスの身体に鋭い氷のカケラが突き刺さっていくが、ゼクスも鎧を剥がすまでは離れるつもりはないらしい。


「その程度で……」

「【巻戻リコイル】」


 今回何度目かすでに分からない、ゼクスの顕現特性の宣言が行われる。

 状態の巻き戻し。黒い刃から、突き立てられた鎧へそれは流れ――。相殺するように鎧の一部分と、黒い刃が霧散した。


 お返しとばかりに、ゼクスの背中へやりを突き立てるフレズ。

 固定されたようになり、お互いの吐息が聞こえそうなほど近い距離のなか――。

 その少年少女は、まだ笑っていた。


「総力戦でいいんだろ?」

「いいよ。俺も、そのつもりだから」


 フレズの言葉に、ゼクスは頷く。少女の目の前に右腕――【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を【顕現オーソライズ】する。



 一旦、仕切り直しだ。



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