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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
315/374

第315話 「氷像のフレズ」

「4連勝、ねえ」


 グンディール棟から、南へ300メートルほど進んだ【タロン棟】にて。

 2人の人物が、ゼクスの資料を調べていた。


「フレズ。君ももしかして、挑戦するつもりなの?」

「あいつは言ったんだろ、本気にしてくれる奴がいいって」


 ニヤニヤ、と笑うのはフレズ。その顔は氷のように無機質で美しく、しかしその口調は荒々しい。

 資料の載ったタブレット端末をポイッとベッドの方に投げ出し、フレズは自信有りげに

空を見上げた。


「俺がその一人だ。まず間違いなく」



――


 次の日。いつも通り、【顕現オーソライズ】の訓練をネクサスとしていたゼクスは、見慣れない生徒が自分たちを見つめていることに気づき、訓練を中断した。


「誰だ?」


 眼の前にいるのは美しい少女である。氷を繊細に掘った彫像のような無機物感を醸し出す、そんな少女だ。

 しかし、その目は燃えていた。自分と同じ、「強い人と戦いたい」という気概に溢れていると、ゼクスは判断出来たのである。


「なるほど、近くで見ると中々」

「…………」


 その言葉の意味がわからず、ゼクスは首を傾げた。どこかミオが最近こちらに向ける視線とも似ている、静かで熱烈的なものである。

 ――が少し違うような気もした。


「はじめまして。俺はフレズ、フレズ・エーテル」

「……ふむ、よろしく」


 俺っ娘か。

 ゼクスは、急に飛び出した予想打にしない一人称に目を細めながら、彼女をじっと見つめた。


 何が目的なのだろう? と。

 最も、ここまで来るには視察か友好的な関係を結びに来たか――。

 それとも、引き抜きかくらいしかない。


「早速だけど、挑戦状を叩きつけに来た」

「直接?」

「直接」


 もう一度、予想外。

 挑戦状は結局、【ATraIoEs(アトラロイス)】の突発的な行事に属するため教官の許可を取るのが普通である。


「教官を挟むなんてまどろっこしいこと、俺はしない」

「ほう」

「というわけで勝負だ。そちらの能力は知っているが、俺の情報はファルクシオンたちが持っているだろう」


 それは、俺に許可を取ってこいということだろうか?

 ゼクスは面倒が嫌いである。挑戦される方だというのに、何故自分から許可を取りに行かなければならないのだろう――と、怪訝な顔をせざるをえない。


「断る」

「……んぁ。えーと。手続きは勿論俺が取るから!」


 ありありと「めんどくさいオーラ」がゼクスから発散されているのに気づいたのか、フレズは少々たじろぎながら、伺うように上目遣いで彼を見つめる。

 ――が、ゼクスにはそれも効かず、ぶっきらぼうに手を振るだけであった。


「ちぇ、なんだよ、あの態度」

「んー、最近はゼクスの実力に合わない相手ばかりだから、苛立ってるんだよ」

「ファルクシオン。……君が相手になってやれるだろ」


 フレズの的確な指摘に、ネクサスは肩を竦めた。


「だから訓練はやってるけど。俺も足りないからねー。もっと強い人が必要だし、俺を倒せる君ならあるいは」

「元からそのつもりだ」


 好戦的な彼女の返事。それにネクサスは目を細めて、ゼクスに自分の戦いを魅せるためにも一回ここで戦わないか? と提案する。

 それにフレズが乗らないわけがなかった。


「俺とネクサスの演習で気に入らなければ、受けなくていいから!」


 自信満々な態度に、ゼクスは静かに頷いた。


 素早く2人は対峙し、ミオの合図とともに激突する。

 そこでゼクスが見たものは、氷属性によって顕現した氷を嵐のように渦巻かせながら、ネクサスに突進するフレズの姿であった。


 颯のように、【竜巻】を1つの【顕現属法ソーサリー】として扱っているわけではなく。

 その氷一つ一つが、しっかりと【顕現オーソライズ】された彼女の武器であることに気づく。


「……うげ」


 いつの間にかゼクスの隣に来ていた颯が、こりゃまずいと顔に恐怖を浮かべる。

 どうも、自身では勝てそうにないと判断したらしい。


 狂喜乱舞している氷の塊が、半【顕煌遺物】であるネクサスの【Vy-Dialg(ビ-ジャルグ)】を

 弾き飛ばし、

 巻き込み、

 彼の方へその威力のまま返す姿を見上げながら。


 ゼクスの顔は、期待に満ちたものへと変わっていた。


「もういいよ」


 ネクサスが氷の渦に飲み込まれ、ボコボコにされて地面に落下したことを見て、ゼクスは声をかける。

 ああ、俺もこういう感じで格下相手に見せつけるようにやっていたな、と自覚した上で。


「戦おうか」


 ――と、未だ宙に浮かぶ少女を見上げた。

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