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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
313/374

第313話 「精神論そのもの」

「……なんか、違う」

「どうしたのです、ネクサスくん」


 ゼクス・ミカオリとガザル・レンガーダの決闘から約一週間がたった。

 その中で、すでにゼクスは【ATraIoEs(アトラロイス)】の中でもネクサスと並んで上位の注目度を誇る生徒になってしまっている。

 ――なんせ、初期の方に提出された挑戦状を、次々に撃破していっているのだから。


 いつも通りの訓練の中で、ゼクスの戦いを見て首を傾げているのはネクサスである。

 隣にはミオ。同じように彼の戦いを観戦してはいるが、ネクサスが覚えた違和感をつかめずにいた。


「いや、なんでもないよ。それよりも古都音さんの方はどう?」

「今まで全く習ってこなかったなら、才能ありですね。顕現特性の都合上、メインにはなりえませんが。普通の人間なら対処できるかなと」


 古都音は古都音で、成長しようと今努力していた。

 顕現特性の都合上、【顕現オーソライズ】に起因する攻撃は出来ないため【顕現者オーソライザー】を相手するには分が悪すぎるが……。それでも、この世界には【顕現者オーソライザー】しかいないわけではない。


 【顕現者オーソライザー】は超人的な肉体を誇るし、上位であれば物理法則すら無視する。

 能力が使えなくとも、古都音も【顕現者オーソライザー】であるかぎり多少の戦闘はできりょうにするのが基地であろう。


「あまり無理をさせないようにね。古都音さん、自分は治療できないから」

「私も多少なら可能ですので、ご心配なく」


 ネクサスの心配に、ミオは軽く笑って返事をした。

 そういう意味じゃないんだが、という彼の話は聞こえていないらしい。


 はやてとゼクスが戦っている。颯も特に心配していないのか、【ヨウ】を制限無しで使っているが、ゼクスはそれを器用に避けると距離を詰めて行く。


 ネクサスは違和感の原因に気づく。今の動作は【拒絶】を使えばそのまま突進できたものであるのだ。

 しかし、ゼクスはこの1週間、決闘でもどこでも一切それを使っていないのである。



「……【拒絶】、使わなくなったね」

「自分よりも強い人を求めてここに来たのに、初戦がレンガーダですからね……」

「挑戦状も、次々と撃破していってるし、ね」


 本気にさせてくれる人はいなかった、それが原因であろう。

 ゼクスは【拒絶】を使わなかった。それでも、多くの場合は圧勝で終わっている。


 今まで挑戦者として来たのが、遠距離系の【顕現者オーソライザー】ばかりというのもあるが、雨あられのような【顕現オーソライズ】を全て避けきって距離を詰めれば、それで終いだ。


 ――ゼクスが、一息ついて2人に近づく。


「おつかれさま」

「うん。……訓練のほうが強くなれる気がする」

「そうじゃなくて、この棟の人間が少々異質で、君について行けるだけだよ」


 果たし状を消化しても、訓練以下ってどういうことなんだと首を傾げるゼクスに、ネクサスは苦笑しながら説明した。


 半【顕煌遺物】を扱うネクサスを始め、グンディール棟は変わり種が多い。

 疑似【顕現者オーソライザー】であるヴァリエスから、ネクサスの護衛兼婚約者であるミオやミュラク。

 常に2属性以上を同時に【顕現オーソライズ】できる生徒もいれば、顕現力を変換せずそのまま撃ち出して古都音の【威圧】のように相手を酔わせることのできる【顕現者オーソライザー】もいる。


 その殆どが、ゼクスには届かないが【顕現者オーソライザー】としては異質な部類だ。


 ネクサスの言葉を受け、ゼクスは後ろを――彼らを見やり、笑う。


「うん、その通りだ」

「けれど、ほかの棟は違う。【ATraIoEs(アトラロイス)】は精鋭でも、1000人以上の生徒がいるんだ。他の棟でトップでも、また別の棟ではそうでないかもしれない」


 【ATraIoEs(アトラロイス)】は学びたいことを学ばせてくれる育成機関であるが、学びたくないことは全く学ばなくても良いということもある。

 望まないことは絶対に学べないのだ。


 そのため、レンガーダのような回復専門で……という【顕現者オーソライザー】も存在する。

 本当に治療だけをするならば、戦闘は必要ないためだ。


 レンガーダの治療能力は時間がかかるが、その代わりに恐ろしく完成度が高い。彼の進路が見事に合致すれば、唯一無二の医者になれるだろう。


「わかってるよ。……でも、いや。……無理かぁ」

「君の【拒絶】は、君の心のなかに刻みつけられた傷であるからね。それよりも強い人間は中々いないだろう」


 しかし、ゼクスはどうでもいいらしい。

 自分よりも強い人間を常に求めている。いや、戦闘狂バトルジャンキーであるならば、自分を楽しませてくれる【顕現者オーソライザー】を常に求めていると考えるべきか。


 その面では、ネクサス達は少なくともその条件に合致するのだ。


「あれだけ古都音に執着してたんだったら、【拒絶】を打ち破れるんじゃないかと思ったんだけどな。……そこまで行かなかった」

「……ゼクスくん、それ本気で言ってます?」


 ミオが怪訝な顔をした。

 彼が古都音に感じている思いに、レンガーダが勝てるわけなかろうと考えているのである。


 ゼクスは嗤っていた。


「小説とか映画でよくあるじゃん。精神論で覚醒して、ラスボスに打ち勝つってやつ。【顕現オーソライズ】は基本的に精神論そのものなんだから、可能でしょ」


 【顕現オーソライズ】のリソースは顕現力ではあるが、その顕現力の密度は精神力に起因する。

 確かに、小説でよくありそうなものだとミオは考える。


 魔法に近いか、と言われればそうなのかもしれない。

 しかし、全く別の能力だ。


 うちに秘めたる、【顕現者オーソライザー】たちの能力だ。


「そういうものなのでしょうか」

「そういうものだと、俺は考えてるけどね」

「【ATraIoEs(アトラロイス)】にやってきて上を目指す人間であれば、少しくらいは存在するんじゃないかなって俺は思うけれど」


 ミオは、考える。

 彼よりも強い思いをもっている人間が、この棟以外で存在するだろうか。


 ――記憶には一切なかった。


「なかなか、いませんね……」

「【拒絶】を使わなければ、俺よりも強い人はたくさんいるからね。俺はもっと成長できるよ」



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