第312話 「戦闘的注目」
「ガザル・レンガーダがチェンサー棟へ移籍した」
次の日の朝。ミーティングでライザ・グンディールからそう聞かされたグンディール棟の面々は、それぞれがそれぞれの考えのもとでざわめきたっていた。
移籍の原因がゼクスとの決闘だとわかっている殆どの生徒は、彼の方を向く。本人がどんな反応を見せているのか、気になるのだ。
しかし、ゼクスはどこ吹く風といった状態であった。
ある意味では相手が古都音から離れてくれた形になるため、ゼクス本人にとっては願ってもいないことなのだ。
生徒たちが静かになってから、グンディールは次の話を始める。
「代わりに、今回特別処置として許可をもらった【髭切鬼丸】の実体態を、これからは一人と考えることに上が決めた」
昨日の戦闘はまだ記憶に新しい。ゼクスの腕から幼女が姿を表し、イズナ・アレスと戦い勝利した。
それは結局、興奮を与える戦いを産んだのであるが――。
やはり、規制されるらしい。
ゼクスは苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。
「……どうしたのじゃ、ゼクス」
「いや、それってどういう意味なのかなーって思って」
【髭切鬼丸】はゼクスの身体の一部である。今は実体化されている状態でというが、はてその実体化されているという基準は何処にあるのだろう?
もし、刀として実体化しても規制されるのであるならば、ゼクスの戦力はガタ落ちである。
そんなゼクスの微妙な表情に気づいたのか、グンディールは連絡事項を伝え終わると彼を手招きした。
「ゼクスくんは個人的に話がある」
「およ」
なんかやらかしたかな、とゼクス。実際に何かをやらかしてはいるのだが。
心当たりがありすぎて、彼は理由を聞く気にもなれなかった。
「行ってくる」
「どうぞ」
古都音に手を振って、グンディールが手招きする修練場の外までついていく。
最終的に連れてこられたのは、ほぼ使うことのない面会室だ。
「手に【顕煌遺物】が収納されている場合は、人数と数えないそうだ。ただ、競技や決闘で人形として分離させることは許されないと」
「いいですけど、そんなに変わらないですよ? 戦力」
単刀直入に切り出したグンディールの話は、ゼクスの不安を解消するのに充分なものであったが。
もしかして、勘違いされているのではないかと考えたゼクスは念のために質問をした。
頭数が増える、という利点があったとしても。【顕煌遺物】はゼクスの右腕が本体であり、結局戦力は変わらないのである。
しかし、グンディールは分かっているようであった。
「頭数があるのが問題だからね。彼女も結局は君の力の一つである。それは僕も分かっている」
いや、これがメインの話じゃないんだ。とグンディール。
ゼクスは首を傾げ、他になにかあるのだろうかと考えた。
――そう言えば、ネクサスやヴァリエスがたまに手紙をもらっていたようなきがする。
「残念ながら、君への挑戦状が他の棟からたくさん届いている」
「全然それは受けますけど。……3日に1回にしていただけると」
「うむ」
挑戦状か――。
ゼクスは、先日の決闘が思ったよりも多くの人に見られていたことに気づいていたし、注目をあびるのにも慣れている。
問題は、その殆どが敵意だったことだ。
しかし、今回は違う。
戦闘欲にまみれている。
どちらかと言えば、好意的に捉えられるもののほうが多い。
ゼクスはニヤリと笑いながら、グンディールの話を聞いていた。
「対戦相手に伝えたい事は?」
「――俺を本気にしてくれる人を求む――って」




