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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2章 授業選択期間
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第031話 「噴き出す黒い感情」

「ああ、俺と冷撫れいな、アマツと古都音ことねさんは幼なじみだよ。冷撫とアマツは同じ小学中学だったけれど、俺と古都音さんはそれぞれ別の場所に通ってたからね」


 今、向かっているのは歩いて20分ほどの巨大なスーパーマーケットだ。

 八顕学園の関係者のみ立ち入り可能で、そこと学園前を往復するバスすらある。


 なのに何故、こう歩いているかというと。

 アガミが「交流を深めよう」なんていって色々はなしをしてくれているから。


 【八顕】についてのはなしなんて、公共交通機関で話をしたくないよな……。よく分かるぞアガミ、お前の気持はよく分かる。

 他の人達は気まずそうに「ここにいて良いんだろうか」っていう顔をするし、俺達に対してできるだけ離れようとするだろう。


「なあ、八龍君」

「ん?」

「ゼクスって呼んでもいいか?」


 八龍君ってすっげぇ呼びにくそうだよな。

 アガミみたいなサバサバしたタイプからすれば、絶対になさそうな言葉だ。

 誰かをくん付するとか。


 俺は頷いた。別に、俺だって誰かを信じないわけじゃない。

 信じる力が弱いだけだ。すぐに人を疑うし、信じたくても経験がそれを許してくれない。


 アマツと冷撫は本当にすごかった。こんな、普通の環境では友人どころか知り合いすら少なさそうな俺に対してずっと一緒にいてくれてるんだから。


「やったぜ。宜しくな、ゼクス!」


 にかっ、とアマツによく似た笑顔でアガミは笑う。

 その笑顔を見て、俺はどうすればいいかわからなかった。


 ただ、その笑顔は少なくとも当分俺の敵にはならないだろうもの。

 アマツの友人はよく、ありのままの笑顔をみせてくれる。





「おやぁ? そこにいるのは蜂統はちすべじゃないか?」


 嫌味な声が、前の方から聞こえた。

 同時にその声は、俺が一生忘れられないだろう5年前とそう変わらない声。


 元兄、刀眞とうまりょうの声だった。


 目の前に現れた刀眞遼は、俺には目もくれず。古都音先輩を舐め回すような目でじっと見つめ、アガミに視線を移す。

 その口角は歪んだように右がつり上がっており、良からぬことを考えていることを容易に予想させるものだ。


 蒼穹城そらしろが冷撫を見つめてたら、コイツは古都音先輩が好みなのかよ。元とはいえ兄弟だな全く、いや……俺は古都音先輩が好みなのか?


 よくわからなくなった俺は、とりあえず何も考えないことにした。

 11ヶ月だけ歳の離れた兄の顔を見ていると、【神牙シンガ結晶】の限界を超えて黒い感情が流れだすのを感じる。


 そのことに、古都音先輩は刀眞遼やアガミよりも早く気づいたようで。


「無理は駄目です」


 と、俺にいうのと同時にアガミにも何かを伝える。


 アガミはすでに怒りからか、体中が戦慄いていた。


「蜂統、護衛対象に心配されてるぞ」

「黙れ刀眞」


 ここで、アガミが古都音先輩の護衛だったことにやっと気づいた。

 だから一緒にいたのか。多分、小さい頃からそうだったんだろうなと予想する。


 でも、関係ない。

 俺には関係のないことだ。


 俺は、目の前の男を叩きのめす。

 叩きのめして俺の正体を明かし、刀眞家そのものに宣戦布告する……。


 ……いや、待て。

 早すぎる。駄目だ。


 先に蒼穹城と東雲。その次に刀眞家だ。

 家族に復讐するのは最後で構わない、寧ろ先に蒼穹城達の前で俺の正体を明かし、刀眞家には準備をさせなければ。


「古都音嬢も虚勢を張ってないで、僕との婚約を承諾してはいかがですかね?」

「嫌です」


 そりゃ嫌だろうなぁ、と俺は落ち着きの心を取り戻しながら考えた。

 この状況を見ている限り、終夜よすがら古都音という女性は神牙や亜舞照あまて側の人間だろう。


 親もそうのはず。しかし、婚約それを刀眞家が強行しようとしている?

 ややこしいなぁ。しかもなんとかしてそれを俺も阻止したいなぁ。


 ……あれ? なんでこんなことを考えたんだろうか、俺は。


「次の代が必要でしょう? 刀眞家の優秀な遺伝子、必要なのでは?」

「刀眞黙れ!」


 くっそ下衆いことを言った刀眞遼に、アガミが吼えた。


 今さっきまで俺と話をしていた穏やかな美少年の姿はそこに無く、怒りと憎しみをたぎらせた顔がそこにある。

 

 しかし、刀眞遼という男はアガミを見下し、言葉を加える。


「蜂統に何が出来る? 代々の護衛役が、古都音嬢にふさわしいとでも?」

「俺と古都音さんはそんな関係じゃない」

「だろう? なら黙ってろよ劣等種」


 ……はあ、なんでこういう糞野郎たちは、劣等種とか無能とか、下郎とかっていう言葉が好きなんだろうな。


 俺が呆れるのを見て何を思ったのか、更ににやけ顔を増幅させる刀眞遼。


「そこにいる八龍ゼクス。お前もこんな劣等種と一緒につるんでいると才能が腐るぞ。早くしんのところに来――」

「行かないよ、俺は。絶対に行かない」


 即答。食い気味に返事をした俺に対して、刀眞遼は目を細める。


「攻撃手段を持たない劣等種一族と一緒に居ると?」


 この言葉で、アガミの居る蜂統家は生粋の守護騎士ガーディアンなんだと分かった。

 良いじゃないか。代々守ってるとか格好いいと思うよ俺は。


 アガミは何故か悔しそうな顔をしている。

 くやしがるようなことなんて無いのになぁ。


 だって、攻撃手段を持たないのに【三劔みつるぎ】に選ばれているっていうことだろ?

 相当誰かを「護る」ってことに対しては特化しているんだ、俺みたいに気持ちを歪めている人間よりは何倍も真っ当だ。


「少なくとも、誰かを蔑まなければ生きていけない刀眞家よりは随分と良いな。俺はここの方が居心地が良さそうだ」

「お前……俺のみでならず、両親も侮辱するのか!」


 おいおい、まさか自分たちのことは棚に上げているわけじゃないよな……。

 棚に上げてるわ、この目。


 ああ、俺が捨てられるときと全く変わらない目だ。

 

 刀眞遼が一歩、前へ進み出る。

 戦闘準備の合図だ。相手は俺が刀眞家を侮辱したことを理由に攻撃を仕掛けるのだろう。

 なら良いさ、好都合だ。


 もう、正直計画とかどうでもいいや。

 直接ここでぶっ叩いてやる。


「ここでやろうって?」


 一歩進みだした俺に、アガミと古都音先輩が言葉を失ったように目を見開く。

 首元あたりで何かが割れたような音がしたが、気にしてなんてられない。







 俺は今、アガミと古都音先輩への彼の行動を。


 大義名分として、攻撃を開始する。


 誰のためでもなく、自分のために。


 ……なんだか言い訳っぽいな。



「刀眞遼。今からお前を俺の敵と断定する」






 胸の中のドス黒い感情が怒りや憎しみや恨み、過去のトラウマなどとグッチャグチャになって、確実に心を侵蝕しているのを感じた。


「絶対に許さない」

次回更新は今日中です。

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