第302話 「疑似顕現者」
「彼らはここに馴染めるのでしょうか」
ミオは不安であった。その後の授業でアガミのテストもしたが、結果として誰一人彼の【顕現】に傷一つ付けられなかったし、雪璃も颯に教わっていたのか、【浄化】を風に乗せることで相手の攻撃を無効化し続けたせいで攻撃が与えられなかった。
勿論、その中でネクサスを含む数人の生徒は今まで以上に彼らへ興味を持ち始める。
その中のひとりが、今ミオの前にいるヴォリエス・シシガミ・ファフニールである。
御雷氷カナンの甥であり、関係上はゼクスや颯と従兄弟関係もある彼は、屈託のない笑みを浮かべたまま「大丈夫でしょ」と意に介していない様子だ。
「馴染める場所かは分からないけど、俺が声をかけるし。特異性としては、俺も負けてないっしょ?」
ヴォリエスの言葉に、ミオはそうですねと肯定する。
「変わったね、ミオ」
「はい?」
「ミオが他の人の心配をするとか、日本に行くまではなかったからさ。ずっとネクサスネクサスって、言っていたじゃないか」
ああ、と。
ミオは少しだけ昔の自分を思い返す。
あのときは、助けてもらった恩による情と愛情を区別できなかったからだろう。
ネクサスが、自身の保護のために「婚約者」として断定したということがわかって以来は自由に生きることもいいよ、と言われているのだ。
心が、どっと軽くなった気がする。
「……なるほどね」
「なんでしょうか」
「ううん、俺の口からは言わない」
それでまた君が錯覚してしまったら、また不幸になるのは君だし。
ヴォリエスはそう言うと、堂々とした姿で「いつも通り」に訓練をしているゼクスと颯の間に入った。
ちょうど彼らも訓練を一段落させるところだったため、入ってきた男子生徒に目を向けながら、次の顕現力をため続けている。
「君は?」
「俺の名前はヴァリエス・S・ファフニール。よろしくな、兄弟」
ファフニール、という言葉に2人は反応した。
ドイツの名家というだけではなく、やはり自分の親の親戚と言われれば、反応しないわけではない。
「兄弟? ということは、従兄弟か又従兄弟か」
「そう。カナンさんカナミさんの双子と、俺の母親である三女の三人姉妹がファフニールの当代。そのうち双子は日本に移り住んでいるから必然的に? ……まあ俺も日本人とドイツ人の混血であることに変わりないが」
本当はネクサスが日本に行くとき、俺も行きたかったんだけどねとヴァリエス。
その言葉を聞きながら、ゼクスと颯はそれぞれ違う感覚を知覚する。
ゼクスが感じ取ったのは、目の前の【顕現者】が自分と似ているということ。
顕現力が特殊だ。どちららかと言えば、自分たちを天然の【顕現者】とするならば彼は後天的な【顕現者】である。
【顕装】に近い感覚を認識して、ゼクスはしかし――。
多くを気にしなかった。
先程の戦闘を見ても変わらず話しかけてくるのなら、とりあえずは問題ないと。
「あ、気づいた?」
ヴァリエスも、ゼクスが何を感じたのかわかったようでにっこりを笑みを浮かべる。
「俺は正しくは【顕現者】じゃない。擬似的に【顕装】の顕現力を身体に馴染ませている」
ファフニール家はその技術を会得しているわけではなく、たまたま先代がそういうい顕現特性を持っていただけにすぎない。
【顕現者】的には、良く言えば擬似的だとしても一般人から【顕現者】に昇格した。悪く言えば親の人体実験に付き合わされた形にはなるが。
その部分では、ゼクスも元家族で【拒絶】の実験をしたと言えなくもない。
「【ATraIoEs】はいいところだよ。俺や、君たちのような【顕現者】であっても、区別や差別をされることは少ない。完全実力主義の世界だから」
さらに言えば、名家なんてその辺に転がっているからそういう意味でも区別されにくい。
ヴァリエスの言葉に、ゼクスはここにきて感じていた違和感の正体を知ることが出来た。
顕現力が特別で、異質。
それで怯えられる、怖がられることはあっても――。
八顕学園のように、【八顕】と異質な人たちだけで隔離されたりはしない。
「…………」
和気あいあいとした、ゼクスとヴァリエスの会話。
その中で、颯は一つの危機感を覚えていた。
 




