第299話 「特別で異常かつ異質」
「早速だけどゼクス君、現状を測りたいから誰かと戦ってくれないかな?」
「誰でも。……颯とアガミはちょっとやめてほしいですけどね」
ゼクスは苦笑してみせた。
颯は【燿】と【瘴】を使うかは兎も角、ゼクスの補助をするために戦っているため戦いたがらず手を抜くだろうし、アガミも同様の理由で本気を出さないだろうとの考えからだ。
ライザ・グンディールはうなずきながら、どこからともなくタブレット端末を開く。
「うん、わかったよ。一応君のデータは概要程度だけどレイクから届いてる」
「父親を知っているんですか?」
「同期だし」
さらり、と言ったグンディールの言葉に、第1修練所の面々はざわつく。
日本最強のレイク・ミカオリが【ATraIoEs】の卒業生だったという事実に、動揺している生徒もいた。
それはゼクスも一緒で、それならもう少し父親から話を聞いておくべきだったと少々の後悔をした。
「とりあえず、一度はその顕現特性がどこまで徹底されているのか測ってみたいから。最大限使う戦いと使わない戦いをしてみようか」
グンディールは周りを見回す。
誰か彼と相対したい生徒は――と、ぐるりと見回して。
……ミオがちょうど良さそうだ、と判断する。
「ミオ・ミスティス」
「はい」
ミオが立ち上がり、優雅な動きで修練場の真ん中に待機した。ゼクスもそれにならい、対峙する。
「こうやって戦うのは……初めてですかね?」
「……ああ。楽しみだ」
ゼクスの闘争心に火がついたことを、ミオは感じ取った。
銀髪の美少女もまた、闘争心を秘めた笑顔を見せると、素早い詠唱で2本の短剣を【顕現】する。
その詠唱の早さといえば、正しくは日本語でなかったとは言え、1単語すらゼクスが認識出来なかったほどだ。
顕現による会話の理解でも、「氷がどう」としか理解することは叶わず。
ゼクスは、美しい刀身に目を奪われる。
そういえば、ミオの戦いをほとんど見たことがないようなきがする。
「でも、俺に傷一つ付けられんよ」
「あらあら。私が最初になるのでしょうね」
二人から顕現力が噴き出す。
ゼクスとしては本気ではないし、ミオも全力をここで晒すほど愚かではないのだろう。
周りの空気を感じ取って、ゼクスは初めての感覚に感動すら覚えた。
――おもったよりも、怯える人間が少ない。
八顕学園であれば、すでに数十人が卒倒していただろう顕現力でも、怯えや恐怖よりも興味が湧く生徒のほうが多い。
先程怯えられていたのは何処へやら、という感覚だ。
「【髭切鬼丸】」
『御意』
ゼクスが片腕に語りかけると、【顕煌遺物】の偽装が溶けた。
人間の腕を模倣した肌色の顕現力が弾け、【顕煌遺物】独特の特別な顕現力が噴き出し、ゼクス本人の顕現力と混ざる。
現れたのは白い【顕現】で構成された、義手だ。
【顕煌遺物】の顕現とゼクスの顕現力は収束し、1本の刀になる。
「…………」
先程まで、ゼクスの顕現力を見て熱く分析論争を繰り広げていた生徒たち全員が、黙りこくった。
その中で、ネクサスとミュラク。そしてあの時一緒にいた颯たちも、深い後悔を覚える。
【顕煌遺物】の顕現力に畏怖したのもある。
腕に隠していたことに対する驚きもある。
それでも、一番彼らを黙らせたのは――
そこに本来あるはずの腕がない事だ。
「……私達が失わせてしまったものですね」
「誰のせいとかは、ない。強いて言えば切断した刀眞獅子王のせいだろうけど、今はどうでもいい」
手加減するなよ、と。
ゼクスは念を押して、【髭切鬼丸】を構えた。
同時に【拒絶】を発動。
ミオは、彼の周りに透明な防御の膜が存在すると過程して、それを乗り越える案を考える。
――――
「……集中出来ないな。何が起こっている」
所変わってグンディール棟3階、研究室でそうつぶやいたのはガザル・レンガーダであった。
古都音に合同訓練を断られ、ゼクスと同じ空間に居たくなかった彼は「いつも通り」に、研究室にて動物の治癒をしている。
ここを離れて、【顕現者】の育成期間の特性上、必然的に巨大になる医務棟に向かっても良かったのだが、まあいいかと上を選んだ結果がこれだ。
第1修練場から溢れてくる、異常で異様かつ異質な顕現力ががレンガーダの集中力を著しく低下させていた。
「なんだよ……」
チッ、と舌打ちしながらモニターに修練場の様子を映すと、ミオとゼクスだ。
「…………」
映像ではわからん。
レンガーダは直に感じ取る必要があると、重い腰を上げた。
――最も、倒す敵を知らなければ対策も取れないだろうから。
次回で300話。




