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四煌の顕現者  作者: 天御夜 釉
第2部 第3章 【ATraIoEs】
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第296話 「グンディール」

『全くもって面白くなくなったねぇ、君』


 それは突然の事であった。

 アガミが面談に言った1分後、リラックスしていたゼクスの頭の中で、話しかけてくる声に気づいたのである。


 その声は、ゼクスが復讐にとりつかれていた頃よく聞く声である。復讐が「とりあえずは」完遂した今、殆ど聞かなくなり彼自身も気を取られることはなかったのであるが――。


『何じゃ? お前』


 声は【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】にも聞こえたらしく、不機嫌な幼女の声が響く。

 ゼクスは自分の脳とは違う思考の2つの存在が、自分を介して話をしていることに強烈な違和感を覚えつつ、なんとか平常を保っていた。


『【顕煌遺物】:【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】。僕は君に用はないよ』

『我もない。よってゼクスから出て行くがいい』


 【髭切鬼丸ヒゲキリオニマル】を見下すような声色と、「それ」に対して殺気を帯び始めた声。

 しかし、オニマルの言葉など意に介していないように少年の声は続けられた。


『御雷氷ゼクス、ちょっと最近は面白くないよね。昔はあんなに復讐という明確な目的があったからこそ強かったのに。最近は意思も弱くなったんじゃない』


 まあいいや、と。

 生身があれば飛びかかっていきそうな感情を爆発させているオニマルをせせら笑うように、少年の声は響いた。


『ここ、【ATraIoEs(アトラロイス)】で一波乱起こす。そのときに君がどんな行動を起こすか――、楽しみだね』


「ゼクス君?」


 心配そうな古都音の声に、ゼクスは我に返った。いつの間にかあちらに気を取られていたらしい。

 首を振って頭をはっきりさせる頃には余韻も消え、先程話しかけられていたのが自分の妄想だったと感じるほどに違和感がない。


「兄妹そろって、ですって」

「……了解、行ってくるよ」


 すでに部屋へ向かい始めていた雪璃せつりに追いつき、並ぶ。

 横を見れば、雪璃は緊張でガチガチだ。隣に自分がいることすら認識されていないのではないか、と言うほど緊張に染まりきっている。


 顔面は蒼白で、手と足が一緒に出ているような状態だ。


「雪璃」

「……おちたらどうしよう」

「雪璃」


 いくら呼びかけても返事はない。


 ゼクスは震えと弱音が止まりそうにない雪璃に「あえて」話しかけず、本番でのサポートに務めようと心に誓った。


「いらっしゃい。……そちらに並んで座ってね」


 椅子を指さされ、ゼクスは警戒しながら座った。目の前の金髪の教師、レグル・グンディールを注意深く、かつ悟られないように観察する。

 この人が面接官として選出されているということは、それなりの何かをもってるんだろう。


 グンディールは笑顔を浮かべて、興味深そうにゼクスを見つめるのみであった。


「さて。あなたたちの特異性を、教えてください」


 自分にしか出来ないことでもいいし、自分だけの状態でもいい。

 グンディールの言葉は、ゼクスではなく専ら雪璃に対して発せられたものだ。


「【浄化】が、できます」


 なんとか絞り出した言葉は、彼女自身の自身のなさが明確に現れていた。

 グンディールは首を傾げる。意味がよくわからない、という顔だ。しかし、資料をめくってすぐに気づいた。

 顔色が露骨に変わったのを見て、ゼクスは自分のことのように手応えを感じていた。


「去年起きた、八顕学園内での疑似【顕煌遺物】暴走事件の功労者、だね?」


 思った以上に評価されていることに雪璃は気づき、さらに身体を強張らせる。

 雪璃は期待されることに免疫がないのだ。


「疑似とはいえ、【顕煌遺物】に干渉する力を持つ【顕現者オーソライザー】は非常に珍しいからね」

「そう、なんですか?」


 ピンと来ていないのか、雪璃は聞き返した。兄がこれで、父親があれなら少々非常識なのも許容範囲だろう、とグンディールは納得し。


 次に、ゼクスの方へ顔を向ける。


「一応、聞いておこうかな?」

「存在自体、というのは答えになりませんかね?」

「充分になるよ」


 この面接は形だけの面接だ。

 グンディールは、彼を一目見るだけで明らかに彼が異質な存在であることを理解できる。


「【拒絶】、【書換】。この2つの顕現特性はこの世界で唯一無二のものであるし、その腕だってそう。一般的な【顕現者オーソライザー】の道を捨てる覚悟ができているのは、その顔を見るだけでわかる」


 【ATraIoEs(アトラロイス)】は世界一の【顕現者オーソライザー】育成機関だ、とグンディールは続けた。


「君に似た境遇の人ももちろんいる」

「その言葉を聞いて、安心しました」


 君と同じの人は流石にいないけど。

 グンディールは苦笑をこぼしながら、次の質問へ切り替える。


「この学園で学びたいことはあるかな?」

「何かを専門に学びたい、ということはありませんが。俺は更に上へ行きたい」

「どこまで?」

「行ける場所まで。父親と並んでも、恥ずかしくないくらいには」


 ゼクスの言葉を聞いて、グンディールは「その半分ほどは達成できているんじゃないかなあ」と彼を分析していた。

 しかし、ゼクスの目を診て思う。


 彼にとってレイク・ミカオリの存在とは今現在程度の場所にはいないのだろう、と。


「んー。レイリさんは?」

「……自信を持てるくらいにはなりたい」


 こちらはこちらで、目標が低いとも感じた。

 同時に、彼女にとっての自信がかなり高い場所にあることも、理解する。


「先程、ハチスベ君から留学生組は一緒くたにしたほうがいいと聞いたが」

「そうですねー……」


 ゼクスは古都音とアガミと、自分のことを考えた。アガミは自分と古都音を守るために存在していると明言しているから、一緒にいたほうがいいだろう。

 颯と雪璃のことも考える。颯は必然的に自身と一緒に戦わなければ意味がないといい、それに雪璃が付随する形になるだろうと。


「そのほうが、いいと思います」

「そっか。さらなる高みを目指しながら、5人以上を同時に育成でき、それぞれの分野をなんとか出来る教師を僕は知ってるし、そこに君たちを入れることは出来る」


 少なくとも、八顕学園側はこちらの教育を諦めた。すでに日本のそこいらのレベルには達している、というのが半分。【八顕】の次代への対応が慎重すぎるのが半分である。


 学園で教わるのはせいぜい基本的な、【顕現者オーソライザー】として日本で機能するための教育だ。突出した【顕現者オーソライザー】をどうするかは確立されていないし、【八顕】の目に止まれば才能を買われて上に上がることが出来るだろう。


 自主練にもそろそろ限界を感じてきたところに、ネクサスからの【ATraIoEs(アトラロイス)】への留学の勧誘だ。

 正直、かなりありがたかった。


「その人は?」


 ゼクスの言葉に、グンディールはニヤリと笑ってみせる。


「他でもなく、僕だ」

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